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#4055 決算分析 : 岩崎電気株式会社 第3期決算 当期純利益 5,968百万円

夜道を安全に照らす道路灯、スタジアムを煌々と照らし出すナイター照明、そして半導体の製造ラインで活躍する特殊な紫外線ランプ。私たちの社会は、目に見えるものから見えないものまで、様々な「光」の技術によって支えられています。その光技術の分野で、日本初の製品を数多く生み出し、80年以上にわたり業界をリードしてきた老舗メーカーがあります。

今回は、「光」の技術を核に社会インフラと先端産業を支える、岩崎電気株式会社の決算を読み解きます。2022年にMBO(経営陣による買収)を経て非上場化した同社が、どのような経営状況にあるのか。官報に開示された決算公告から、その驚異的な収益性と未来への戦略に迫ります。

岩崎電気決算

【決算ハイライト(3期)】
資産合計: 57,410百万円 (約574億円)
負債合計: 39,246百万円 (約392億円)
純資産合計: 18,164百万円 (約182億円)

売上高: 54,083百万円 (約541億円)
当期純利益: 5,968百万円 (約60億円)

自己資本比率: 約31.6%
利益剰余金: 4,151百万円 (約42億円)

【ひとこと】
売上高約541億円に対し、当期純利益約60億円、売上高当期純利益率にして11%を超えるという非常に高い収益性が目を引きます。2022年のMBOによる非上場化後、短期的な市場評価から解放され、中長期的な視点での経営改革が着実に実を結んでいることがうかがえます。自己資本比率も約31.6%と健全な水準です。

【企業概要】
社名: 岩崎電気株式会社
設立: 1944年(創業80周年超)
事業内容: 「光」の技術を核とする総合メーカー。道路・トンネル・スポーツ施設・工場向けのプロフェッショナル照明事業と、紫外線(UV)や電子線(EB)などを応用した産業用装置事業を両輪に、社会インフラと先端産業を支える。2022年にMBOにより非上場化。

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【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、80年以上にわたり培ってきた「光」に関する深い知見と技術を、社会の様々な分野に応用する「総合光技術ソリューション事業」に集約されます。私たちの暮らしを明るく照らす「照明」と、産業の進化を陰で支える「特殊光源」という、性質の異なる二大領域で強固な事業ポートフォリオを構築しています。

✔照明事業
同社の祖業であり、パブリックイメージを形成する事業です。一般家庭向けの照明ではなく、高速道路のトンネル照明、プロ野球のスタジアムを照らすナイター照明、大規模工場の高天井照明、あるいは石油プラントや化学工場で使われる防爆照明など、過酷な環境下で極めて高い性能と信頼性が求められるプロフェッショナル向けの市場に特化しています。LED照明ブランド「LEDioc(レディオック)」を主力に、それぞれの場所に最適な光環境を提案・提供しています。

✔光・環境事業(産業用装置)
もう一つの収益の柱であり、同社の高い技術力を象徴する事業です。照明として使われる可視光線だけでなく、紫外線(UV)、赤外線(IR)、さらには電子線(EB)といった、目に見えない「光」のエネルギーを産業技術に応用します。具体的には、スマートフォンのディスプレイや半導体の製造プロセスで使われるUV硬化技術、食品や医療機器の殺菌・滅菌、塗料やフィルムの素材改質など、幅広い先端産業の製造現場に不可欠な装置を提供しています。

✔非上場化による経営変革
2022年にMBOマネジメント・バイアウト)によって非上場化したことは、現在の同社を理解する上で最も重要なポイントです。これにより、上場企業として常に求められる四半期ごとの業績や株価といった短期的な評価から解放されました。その結果、研究開発や大規模な設備投資、不採算事業の見直しといった、会社の将来にとって重要であっても短期的には痛みを伴う可能性のある経営判断を、迅速かつ大胆に行える体制を構築したと考えられます。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
照明市場は、LED化への更新が一巡し、今後はIoT技術と連携したスマート照明(遠隔での調光・調色制御など)や、さらなる省エネ性能の向上といった、高付加価値領域での競争が本格化します。一方、光・環境事業がターゲットとする産業用装置市場は、半導体やEV(電気自動車)関連の設備投資動向に左右されますが、技術革新が絶えず求められる成長分野でもあります。

✔内部環境
売上高当期純利益率11%超という高い収益性は、同社の最大の強みです。これは、技術的な参入障壁が高く、価格競争に陥りにくいプロ向け照明や、顧客ごとのカスタマイズが求められる産業用装置の分野で、確固たるトップブランドとしての地位を築いていることの証左です。MBO後は、より筋肉質な経営体制を目指し、コスト構造の見直しや事業ポートフォリオの最適化を加速させ、収益性をさらに高めていると推測されます。

✔安全性分析
自己資本比率約31.6%は、メーカーとして安定した財務基盤と言えます。固定負債が約255億円と純資産(約182億円)を上回っていますが、これはMBOの際に資金調達(LBOローンなど)を行った影響である可能性が高いと考えられます。しかし、営業利益が53億円を超え、高いキャッシュ創出力を有しているため、債務の返済能力にも懸念はありません。40億円を超える利益剰余金は、長年にわたる経営の蓄積であり、経営の安定性をしっかりと下支えしています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・80年以上の歴史で培った、「光」に関する幅広いコア技術と、プロ市場における高いブランド信頼性
景気変動の影響が異なる「照明」と「産業用装置」という、安定した事業ポートフォリオ
・売上高利益率11%超という、業界でもトップクラスの高い収益性
MBOによる非上場化によって実現した、迅速で中長期的な視点に立った経営体制

弱み (Weaknesses)
MBOに伴う有利子負債の負担が比較的大きく、財務的な柔軟性に一定の制約がある
・汎用的な照明製品の分野では、価格競争力に勝る海外メーカーとの競争に晒される

機会 (Opportunities)
カーボンニュートラル実現に向けた、さらなる省エネ照明への更新需要の拡大
・スマートシティ構想などを背景とした、IoT技術を活用したインテリジェント照明(通信機能付き照明)市場の成長
・次世代半導体(EUV露光など)やライフサイエンス分野の発展に伴う、光・環境事業における新たなアプリケーションの創出
・非上場化したことによる、機動的なM&A戦略の展開の可能性

脅威 (Threats)
・世界的な景気後退による、企業の設備投資意欲の大幅な減退
・光技術分野における技術革新のスピードが速く、継続的な巨額の研究開発投資が不可欠であること
・海外の競合メーカーの技術力向上による、グローバル市場での競争激化


【今後の戦略として想像すること】
非上場化によって得た経営の自由度を活かし、「光」技術のさらなる深化と拡大を目指すと考えられます。

✔短期的戦略
まずは、高い収益性によって創出したキャッシュを、MBOに伴う有利子負債の返済に優先的に充当し、財務体質のさらなる強化を図るでしょう。同時に、強みを持つプロフェッショナル向け照明市場でのシェアを確実に維持・拡大し、安定した収益基盤を盤石なものにします。

✔中長期的戦略
「光」を軸とした新たな価値創造に挑戦していくでしょう。例えば、照明事業では、単に器具を販売するだけでなく、IoT・AI技術を組み合わせて空間の明るさや色を最適に制御し、その価値を月額課金で提供する「光のサブスクリプションサービス」のような、サービス型のビジネスモデルへと進化させていくことが考えられます。光・環境事業では、次世代半導体やライフサイエンスといった未来の成長分野にターゲットを絞り、研究開発投資を集中させるでしょう。将来的には、自社の技術を補完するような国内外のスタートアップ企業をM&Aすることも積極的に行い、光技術のプラットフォーマーとしての地位を確立していくことを目指すのではないでしょうか。


【まとめ】
岩崎電気株式会社は、単なる照明メーカーという枠に収まる企業ではありません。それは、日本初の「アイランプ」開発から80年以上にわたり、「光」の可能性をひたすらに追求し、私たちの社会インフラと世界の先端産業の両方を照らし続けてきた「光技術の総合ソリューションカンパニー」です。2022年のMBOによる非上場化は、同社にとって大きな転換点となりました。短期的な市場評価から解放された今、その真の企業価値向上に向けた中長期的な経営改革を加速させています。これからも、照明と産業用装置の両輪で社会に不可欠な「光」を提供し続けるとともに、次の100年を創る新たな光技術のイノベーションに挑戦していくことが大いに期待されます。


【企業情報】
企業名: 岩崎電気株式会社
所在地: 東京都中央区日本橋1-1-7 京王東日本橋ビル
代表者: 代表取締役社長 伊藤 義剛
設立: 1944年8月18日
資本金: 6,900百万円
事業内容: 各種光源、照明器具、光・環境機器(紫外線・赤外線・電子線照射装置など)、関連ソリューションの開発・製造・販売

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