決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメント後に保管しています。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご注意ください。

#3741 決算分析 : 黒部川電力株式会社 第146期決算 当期純利益 1,315百万円

脱炭素化が世界の潮流となる中、天候に左右されず安定的に発電できるベースロード電源として、「水力発電」の価値が改めて見直されています。大規模なダムを伴う電源開発が困難になった現代において、既存の水力発電設備は、まさに国の貴重なクリーンエネルギー資産と言えます。その歴史は古く、中には100年以上にわたって黙々と電気を社会に送り続けている企業も存在します。

今回は、大正12年(1923年)創立という100年以上の歴史を誇り、電力会社と大手化学メーカーの共同出資というユニークな成り立ちを持つ、水力発電の専門企業「黒部川電力株式会社」の決算を読み解きます。その驚異的な収益性と、世紀を超えて事業を継続できるビジネスモデルの強さに迫ります。

黒部川電力決算

【決算ハイライト(第146期)】
資産合計: 31,833百万円 (約318.3億円)
負債合計: 23,032百万円 (約230.3億円)
純資産合計: 8,801百万円 (約88.0億円)

売上高: 6,010百万円 (約60.1億円)
当期純利益: 1,315百万円 (約13.2億円)

自己資本比率: 約27.6%
利益剰余金: 4,328百万円 (約43.3億円)

【ひとこと】
売上高60億円に対し、純利益が13億円を超えるという非常に高い収益性が最大の特徴です。総資産の大部分を水力発電設備という固定資産が占める、典型的なインフラ企業の財務構造です。自己資本比率27.6%は、こうした設備投資を支える長期借入金を反映したもので、健全な水準と言えます。

【企業概要】
社名: 黒部川電力株式会社
設立: 1923年10月20日
株主: 北陸電力株式会社 (50%)、デンカ株式会社 (50%)
事業内容: 水力発電による発電事業

kurobegawa-denryoku.com


【事業構造の徹底解剖】
黒部川電力のビジネスモデルは、その株主構成に強さの秘密が隠されています。電力の「供給者」と「需要者」が手を組むことで、極めて安定した事業環境を構築しています。

水力発電特化の専門企業
同社の事業は、新潟県の姫川・早川水系を中心に保有する6カ所の水力発電所を運営し、電気を創り出すことに特化しています。水力発電は、一度建設すれば燃料費が不要で、CO2を排出しないクリーンなエネルギー源です。豊富な水資源を活かし、年間約4億kWhという電力量を安定的に供給しています。

✔電力会社と大手化学メーカーによる共同経営
同社は、北陸電力(電力の供給・販売を担う電力会社)とデンカ(カーバイドやセメントなどを製造する大手化学メーカー)が50%ずつ出資するジョイントベンチャーです。この株主構成が、事業の安定性を盤石なものにしています。
北陸電力:電力系統の運用ノウハウを提供するとともに、発電した電力の安定的な買い手(オフテイカー)となります。
・デンカ:化学プラントは大量の電力を消費する「大口需要家」です。新潟県糸魚川市に大規模な工場を持つデンカにとって、近隣の水力発電所からの安定的でクリーンな電力供給は、事業継続の生命線です。
つまり、黒部川電力は、つくった電気の販売先が株主によって事実上保証されているという、極めて恵まれた事業環境にあるのです。

✔100年の歴史と継続的な投資
1923年に黒部川水系で創業後、戦後の電力事業再編で多くの資産を失いながらも、姫川水系発電所を新設・運営し続け、100年の歴史を刻んできました。直近では2022年に「新姫川第六発電所」を運転開始するなど、脱炭素社会の実現に向けて、継続的な投資を行っています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
再生可能エネルギーの導入拡大が国策として進む中、水力発電の価値はますます高まっています。特に、昼夜を問わず安定した発電が可能な水力は、天候によって出力が変動する太陽光や風力のバックアップとしても重要であり、電力系統の安定化に不可欠な存在です。FIT制度(固定価格買取制度)などを活用することで、長期にわたり安定した収益を見込むことができます。

✔内部環境
損益計算書は、水力発電事業の高い収益性を明確に示しています。売上高60億円に対し、本業の儲けを示す営業利益は18億円を超え、営業利益率は約30%に達します。これは、燃料費が不要で、一度建設すれば比較的少ない人員で安定した運転が可能な水力発電事業の特性を反映しています。純利益も13億円を超えており、安定的に高いキャッシュフローを生み出す能力があることが分かります。

✔安全性分析
自己資本比率27.6%は、一見すると低く感じるかもしれませんが、インフラ企業としては標準的で健全な水準です。総資産約318億円のうち、約305億円が発電所などの固定資産であり、その建設資金を208億円の固定負債(長期借入金など)で賄っていることが見て取れます。これは、長期にわたって安定した収益が見込めるインフラ事業における、一般的な資金調達方法です。43億円を超える利益剰余金は、これまでの長年の安定経営の賜物であり、設備の維持更新や将来の投資に向けた十分な内部留保を確保していることを示しています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・100年以上の歴史で培った、水力発電所の開発・運営ノウハウ
北陸電力とデンカという強力な株主による、安定した事業基盤(技術支援と電力需要)
・燃料費が不要で、CO2を排出しないことによる、高い収益性と社会的価値
・一度建設すれば数十年単位で稼働可能な、極めて寿命の長い資産

弱み (Weaknesses)
・事業の成長が、新たな水力発電所の開発適地の有無に大きく左右される
・発電量が、長期的な降水量や積雪量の変動(気候変動)の影響を受ける可能性がある

機会 (Opportunities)
・脱炭素社会の実現に向けた、再生可能エネルギーへの需要の高まり
・既存の老朽化した水力発電所の設備を更新(リパワリング)することによる、出力の増加
・小水力発電など、未利用のエネルギー資源の開発

脅威 (Threats)
地震や豪雨といった、大規模な自然災害によるダムや発電設備への被害リスク
・電力システム改革の進展による、電力取引市場の環境変化
・建設コストの高騰による、新規開発の採算性の悪化


【今後の戦略として想像すること】
黒部川電力は、今後も水力発電スペシャリストとして、その価値を最大化していく戦略を追求すると考えられます。

✔短期的戦略
2022年に運転を開始した「新姫川第六発電所」を含め、保有する6つの発電所の安定的な運転・保守に全力を注ぎ、株主である北陸電力とデンカへのクリーン電力の安定供給という使命を果たしていくでしょう。効率的な運転管理を通じて、高い収益性を維持することが最優先事項となります。

✔中長期的戦略
長期的には、既存設備の「リパワリング」が重要なテーマとなります。古い設備を最新の高効率な水車や発電機に更新することで、同じ水量からより多くの電力を生み出し、資産価値を向上させることが可能です。また、100年以上の歴史で培ったノウハウを活かし、開発が難しいとされる中小規模の水力発電所の開発コンサルティングや、他社が保有する水力発電所の運転・保守受託といった、新たなサービスを展開する可能性も秘めています。


【まとめ】
黒部川電力株式会社は、その社名に冠する川の資産を失うという歴史を持ちながらも、100年以上にわたり水力発電一筋で日本の産業を支えてきた、不屈のエネルギー企業です。第146期決算では、純利益13億円超という高い収益性で、水力発電事業の揺るぎない価値を証明しました。

電力会社と大口需要家が株主として両脇を固めるという、他に類を見ない安定したビジネスモデル。それは、脱炭素社会においてますますその輝きを増しています。これからも、豊かな水の恵みをクリーンなエネルギーに変え、次の100年へと社会を照らし続ける、静かなる巨人であり続けることでしょう。


【企業情報】
企業名: 黒部川電力株式会社
所在地: 東京都千代田区霞が関三丁目2番1号 (東京本社) / 新潟県糸魚川市寺町2丁目6番35号 (糸魚川本社)
代表者: 代表取締役社長 平井 修一 (注: 官報記載の代表者名)
設立: 1923年10月20日
資本金: 30億円
事業内容: 水力発電による電気事業(6発電所、最大出力94,800kW)
株主: 北陸電力株式会社 (50%)、デンカ株式会社 (50%)

kurobegawa-denryoku.com

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.