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#4108 決算分析 : 関日野出株式会社 第65期決算 当期純利益 625百万円

ティッシュペーパーや印刷用紙、食品の包装材に飲食店の紙コップ。私たちの生活や経済活動は、多種多様な「紙」とその関連製品に支えられています。これらの製品を、メーカーから全国の小売店や企業へ安定的に供給する「卸売業」は、社会の血流とも言える重要な役割を担っています。業界が大きな変革期を迎える中、西日本を地盤とする歴史ある企業群が結集し、新たな巨大企業が誕生しました。

今回は、2024年に4社が合併して始動した、高知県発祥の総合卸商社「関日野出株式会社」の決算を読み解きます。年商500億円を誇る、新たなる巨人の経営戦略と、合併を経てスケールアップしたその財務状況に迫ります。

関日野出決算

【決算ハイライト(第65期)】
資産合計: 17,948百万円 (約179.5億円)
負債合計: 15,106百万円 (約151.1億円)
純資産合計: 2,842百万円 (約28.4億円)

当期純利益: 625百万円 (約6.2億円)

自己資本比率: 約15.8%
利益剰余金: 2,722百万円 (約27.2億円)

【ひとこと】
年商500億円という圧倒的な事業規模が、合併によるスケールアップを物語っています。卸売業の特性上、自己資本比率は15.8%と低めですが、これは大量の在庫と売掛金を抱えるビジネスモデルを反映したものです。重要なのは、この大きな事業規模の中で、当期純利益6億円超という力強い収益を確保している点であり、合併後の事業が順調に滑り出したことが伺えます。

【企業概要】
社名: 関日野出株式会社
設立: 1964年 (法人設立) / 1910年 (創業)
事業内容: 家庭紙、洋紙、包装資材、フードサービス関連消耗品などを取り扱う総合卸売事業

www.seki-co.jp


【事業構造の徹底解剖】
2024年、新たに関日野出としてスタートした同社の事業は、100年以上の歴史を持つ各社の強みを結集した、多角的かつ強固なポートフォリオを形成しています。

✔家庭紙事業部
ティッシュペーパーやトイレットペーパー、紙おむつといった家庭紙を中心に、日用雑貨までを幅広く取り扱います。これらは生活必需品であるため、景気の変動を受けにくい安定した需要が見込める、同社の事業基盤を支える中核部門です。

✔洋紙部
創業の原点でもある、印刷用紙や情報用紙などを扱う部門です。高知県内ではトップシェアを誇るなど、地域に深く根差した強固な地盤を持っています。デジタル化の波という逆風に晒されながらも、長年の信頼関係と専門知識を武器に、安定した事業を継続しています。

✔包材部
EC市場の拡大や、環境配慮への高まりを背景に、成長が期待される部門です。食品から工業製品まで、あらゆる商品の包装資材を供給。特に、環境問題への対応は重要なテーマであり、物流・商流のノウハウを活かしたコストと環境性能を両立するソリューションを提供しています。

✔セキシステムサプライ事業部
同社の成長を牽引する戦略的部門です。旧セキシステムサプライ社の事業を引き継ぎ、大手外食チェーンやフードサービス企業に対し、紙コップや容器、消耗品、備品などを供給します。「Best Supply For You」をスローガンに、単なる物販に留まらず、顧客の店舗運営を効率化する総合的なサプライサービスを展開しています。

✔その他の特徴など
同社の最大の特徴は、2024年に行われた「関株式会社」「日野出株式会社」「旧・関日野出株式会社」「セキシステムサプライ株式会社」の4社合併です。これにより、高知を地盤とする関株式会社と、福岡を地盤とする日野出株式会社の地理的な強みが統合され、西日本一帯を網羅する広大な販売・物流ネットワークが完成しました。規模の拡大による購買力向上と物流効率化は、低収益と言われる卸売業において、大きな競争優位性となります。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
同社を取り巻く環境は、事業部ごとに異なります。洋紙分野はデジタル化の進展で市場縮小が続く一方、家庭紙は安定需要、包装資材はEC化を背景に成長が見込まれます。特にフードサービス分野は、コロナ禍からの回復と中食・外食市場の拡大が追い風です。しかし、業界全体の課題として、原材料価格の高騰、物流コストの上昇(2024年問題)、そして激しい価格競争が存在します。このような環境下で、いかにスケールメリットを活かして収益性を確保するかが、経営の鍵となります。

✔内部環境
同社の財務諸表は、卸売業の典型的な特徴を色濃く反映しています。総資産約180億円のうち、約147億円流動資産であり、その多くは商品在庫と売掛金で構成されていると推測されます。商品を仕入れて販売するというビジネスモデル上、多くの運転資金が必要となり、その資金を金融機関からの借入金等で賄うため、負債の割合が大きくなり、自己資本比率が低くなる傾向があります。同社の自己資本比率15.8%も、このビジネスモデルに起因するものです。重要なのは、資産を効率的に回転させ、着実に利益を生み出すことであり、年商500億円に対して6億円以上の純利益を上げている点は、その経営手腕の高さを示しています。

✔安全性分析
自己資本比率15.8%という数値は、一見すると低い水準に見えますが、卸売業の特性を考慮すれば、過度に懸念する必要はないでしょう。短期的な支払い能力を示す流動比率流動資産÷流動負債)は、約1.24倍(14,655百万円 ÷ 11,817百万円)であり、1倍を上回っていることから、当面の資金繰りに問題はないと判断できます。100年以上の歴史を持つ企業群が母体であり、金融機関との長年の信頼関係が、この事業規模を支える財務基盤を安定させていると考えられます。合併という大きな経営判断を経て、初年度からしっかりと利益を確保できていることが、何よりの安定性の証左と言えるでしょう。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・4社合併による圧倒的な事業規模(年商500億円)と西日本での高い市場シェア
・家庭紙からフードサービスまでを網羅する、安定性と成長性を両立した事業ポートフォリオ
・100年以上の歴史で培われた、顧客・仕入先との強固な信頼関係
スケールメリットを活かした、購買力と広域な物流ネットワーク

弱み (Weaknesses)
・卸売業の特性である低い自己資本比率と、多額の有利子負債
・薄利多売のビジネスモデルであり、収益性が外部環境の変化に影響されやすい
・合併後の組織文化や情報システムの完全な統合作業

機会 (Opportunities)
・EC市場拡大に伴う、環境配慮型包装資材の需要増加
・中食・外食市場の成長に伴う、フードサービスサプライ事業の拡大
・業界再編の流れの中での、さらなるM&Aによる規模拡大の可能性
・スケールを活かしたプライベートブランド(PB)商品の開発による収益性向上

脅威 (Threats)
・印刷用紙市場の長期的な縮小トレンド
・原材料価格や原油価格の高騰による、仕入・物流コストの上昇
・同業他社との激しい価格競争
・物流業界における人手不足の深刻化(2024年問題)


【今後の戦略として想像すること】
新たなる船出を切った関日野出の今後の戦略は、合併効果の最大化が中心となります。

✔短期的戦略
まずは、4社の情報システム、物流拠点、人事制度などを完全に統合し、シナジーを最大限に引き出すことに注力するでしょう。重複する業務の効率化を進めると同時に、各社が持っていた優良な顧客や商品を相互に紹介しあう「クロスセル」を推進することで、売上基盤を強固なものにします。また、統合された購買力を武器に、仕入先であるメーカーとの価格交渉を有利に進め、収益性の改善を図ることが急務となります。

✔中長期的戦略
量的拡大の次のステップとして、「質的向上」を目指すと考えられます。特に成長分野であるフードサービスサプライ事業や、環境配慮型の包装資材事業へ経営資源を重点的に投下し、単なる卸売業者から、顧客の課題を解決するソリューションプロバイダーへの進化を図るでしょう。また、巨大な販売網を活かしたプライベートブランド(PB)商品の開発・投入は、収益性を高める上で非常に有効な戦略となります。将来的には、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)への投資も不可欠となるでしょう。


【まとめ】
関日野出株式会社は、2024年の4社合併を経て、単なる地方の有力卸から、西日本を代表する「総合ライフライン商社」へと生まれ変わりました。その船出は、年商500億円、当期純利益6億円超という、力強い決算内容によって順調なものであることが証明されました。

卸売業特有の財務構造を抱えながらも、100年以上の歴史で培われた信頼を基盤に、家庭紙という「安定」とフードサービスという「成長」の両輪を回す。この戦略的な合併は、変化の激しい時代を生き抜くための、老舗企業のダイナミックな挑戦です。新たなる巨人が、西日本の産業と暮らしをどのように支え、発展させていくのか、その航海から目が離せません。


【企業情報】
企業名: 関日野出株式会社
所在地: 高知県高知市南久保8番30号
代表者: 関 浩明
設立: 1964年2月11日(法人格) / 2024年(現体制発足)
資本金: 8,783万円
事業内容: 家庭紙、洋紙、包装資材、フードサービス関連消耗品、日用雑貨などの総合卸売業。2024年に、関株式会社、日野出株式会社紙業部門、旧・関日野出株式会社、セキシステムサプライ株式会社の4社が合併し、現体制となる。

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