決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメント後に保管しています。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご注意ください。

#3740 決算分析 : エムシー・ファーティコム株式会社 第60期決算 当期純利益 ▲352百万円

私たちが毎日口にする米や野菜、果物。その豊かな実りの背景には、作物の生育を支える「肥料」の存在が欠かせません。肥料産業は、食料安全保障の根幹を担う極めて重要な分野ですが、その経営は、世界の資源価格やエネルギー情勢、そして国内農業の構造変化といった、巨大な波に常に晒されています。

今回は、日本の肥料業界のリーディングカンパニーであり、三菱商事とUBE(旧・宇部興産)という強力な株主を持つ「エムシー・ファーティコム株式会社」の決算を読み解きます。100年を超える歴史を持つ同社が、なぜ今期の決算で損失を計上したのか。その背景にある外部環境の厳しさと、同社が持つ事業の強みに迫ります。

エムシー・ファーティコム決算

【決算ハイライト(第60期)】
資産合計: 18,901百万円 (約189.0億円)
負債合計: 14,208百万円 (約142.1億円)
純資産合計: 4,693百万円 (約46.9億円)

売上高: 14,899百万円 (約149.0億円)
当期純損失: 352百万円 (約3.5億円)

自己資本比率: 約24.8%
利益剰余金: 2,635百万円 (約26.4億円)

【ひとこと】
売上高約150億円という大きな事業規模に対し、当期は純損失を計上しており、厳しい事業環境がうかがえます。自己資本比率は24.8%とやや低めですが、これは原料調達などで多くの負債を活用する事業特性を反映したものです。46億円以上の純資産を維持しており、企業体力は保持されています。

【企業概要】
社名: エムシー・ファーティコム株式会社
設立: 1966年5月27日
株主: 三菱商事株式会社、UBE株式会社、トモエ肥料販売協同組合連合会
事業内容: 肥料および化学品の製造・販売、技術普及、開発、輸出入など

www.mcferticom.jp


【事業構造の徹底解剖】
エムシー・ファーティコムは、2008年に国内の有力肥料メーカー5社が統合して誕生した企業です。そのルーツは1910年の肥料発明にまで遡ることができ、日本の近代農業の歴史と共に歩んできた、まさに業界の根幹を成す存在です。

✔強力な株主シナジー
同社の最大の強みは、その株主構成にあります。
三菱商事:総合商社として、世界中からの肥料原料(リン鉱石、カリ鉱石など)の安定調達と、製品の輸出における強力なネットワークを提供します。
・UBE:日本を代表する化学メーカーとして、高度な製造技術や品質管理のノウハウを提供します。
・トモエ肥料販売協同組合連合会:全国の農協などと結びついた、強力な国内販売網を形成しています。
この「グローバルな調達・販売力」「高度な生産技術」「国内の顧客基盤」という三位一体の連携が、同社の競争力の源泉となっています。

✔研究開発から技術普及までの一貫体制
同社は、単に肥料を製造・販売するだけではありません。つくば市に開発センターを構え、作物の品質向上や環境負荷の低減に繋がる、高機能な肥料の研究開発を行っています。さらに、「技術普及」部門が全国の農家を直接訪問し、土壌診断に基づく最適な施肥設計の指導なども行っています。この顧客に深く寄り添う姿勢が、長年の信頼関係を築いています。

✔化成品・輸出事業
肥料事業で培ったノウハウやネットワークを活かし、肥料以外の化学品や原料の販売、そして製品の輸出も手掛けています。これにより、国内の農業市場だけに依存しない、多角的な収益構造を目指しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
肥料業界は、国際商品市況の影響を極めて受けやすい構造にあります。肥料の主原料である窒素、リン、カリウムは、その多くを海外からの輸入に頼っており、原料価格は天然ガスの価格や地政学リスク、為替レートによって大きく変動します。近年は世界的な資源価格の高騰が続いており、これが製造原価を押し上げる大きな要因となっています。国内では、農業従事者の高齢化や後継者不足による市場の縮小という構造的な課題にも直面しています。

✔内部環境
今期の決算では、売上高149億円に対し、売上原価が127億円と、原価率が約85%に達しています。これは、前述の原料価格高騰が収益を大きく圧迫したことを示唆しています。本業の儲けを示す営業利益は2.6億円を確保したものの、5.3億円という多額の特別損失を計上したことが、最終的に3.5億円の当期純損失に繋がりました。この特別損失は、工場の設備減損や事業構造改革に伴う一時的な費用である可能性が考えられます。

✔安全性分析
自己資本比率24.8%は、製造業としては低めの水準であり、経営における負債の割合が高いことを示しています。特に、139億円にのぼる流動負債は、原料の仕入れに伴う買掛金などが大半を占めると推察され、事業規模に応じた大きな運転資金が必要なビジネスモデルであることが分かります。しかし、同社は三菱商事、UBEという巨大企業が株主として名を連ねており、その信用力は極めて高いと言えます。26億円を超える利益剰余金も、これまでの歴史の中で利益を蓄積してきた証であり、一時的な損失を十分に吸収できる体力を有しています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
三菱商事、UBEなど強力な株主による、原料調達・生産技術・販売におけるシナジー
・100年を超える歴史で培った、日本の農業における高いブランド力と信頼性
・研究開発から農家への技術指導までを行う、顧客との深い関係性
・全国を網羅する販売ネットワーク

弱み (Weaknesses)
・海外の資源価格や為替レートの変動に、収益が大きく左右される事業構造
・国内の農業人口減少という、長期的な市場縮小リスク

機会 (Opportunities)
環境負荷の少ない肥料や、スマート農業に対応した高付加価値肥料への需要の高まり
三菱商事のネットワークを活用した、アジアなど成長市場への輸出拡大
・国内での食料安全保障への関心の高まり

脅威 (Threats)
地政学リスクなどによる、さらなる原料価格の高騰や供給不安
・安価な輸入肥料との価格競争
・農業従事者のさらなる減少による、国内市場の急激な縮小


【今後の戦略として想像すること】
エムシー・ファーティコムは、短期的な課題への対処と、長期的な事業構造の転換を両輪で進めていくと考えられます。

✔短期的戦略
まずは、収益性の改善が最優先課題です。三菱商事のトレーディング機能を最大限に活用し、より有利な条件での原料調達を目指すとともに、生産工程の効率化によるコスト削減を徹底するでしょう。また、特別損失の要因となった課題に対処し、財務内容の安定化を図ります。

✔中長期的戦略
長期的には、国内の成熟市場から、より成長が見込まれる分野へと事業の軸足をシフトさせていくことが予想されます。具体的には、環境配慮型の高付加価値肥料や、植物工場などで使われる特殊な液体肥料といった、研究開発力を活かせるニッチな市場でのシェアを拡大します。また、日本の高品質な肥料の輸出をさらに強化し、海外売上高比率を高めていくことで、国内市場の縮小リスクをヘッジしていく戦略が考えられます。


【まとめ】
エムシー・ファーティコムは、日本の食を根底から支える、極めて重要な役割を担う企業です。第60期決算では、世界的な原料価格の高騰という厳しい外部環境に直面し、純損失を計上する苦しい結果となりました。しかし、その背後には、三菱商事やUBEといった日本を代表する企業による強力なサポート体制と、100年の歴史で築き上げた揺るぎない事業基盤が存在します。

困難な時期を乗り越え、同社が今後、研究開発力を武器に、環境配慮型農業やスマート農業といった次世代のニーズに応える高付加価値製品をどれだけ生み出していけるか。日本の農業の未来は、同社のような企業の挑戦にかかっていると言っても過言ではないでしょう。


【企業情報】
企業名: エムシー・ファーティコム株式会社
所在地: 東京都千代田区麹町一丁目10番地
代表者: 代表取締役社長 安田 剛
設立: 1966年5月27日
資本金: 12億2,600万円
事業内容: 肥料、農業資材、工業薬品、化学品の製造、輸出入および販売
株主: 三菱商事株式会社、UBE株式会社、トモエ肥料販売協同組合連合会

www.mcferticom.jp

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.