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#4080 決算分析 : 株式会社キシヤ 第58期決算 当期純利益 848百万円

私たちが病気やケガをした時に頼りとなる、病院やクリニック。その最前線では、医師や看護師が日々、私たちの命と健康を守るために奮闘しています。しかし、その医療活動は、注射器一本から最新鋭のMRI装置まで、無数の医療機器や材料によって支えられていることをご存知でしょうか。これらの「モノ」を安定的に供給し、さらには病院経営そのものを効率化することで、医療従事者が患者と向き合う時間を創出している企業があります。

今回は、福岡を拠点に創業110年以上の歴史を誇り、九州の医療を支え続ける総合医療商社、株式会社キシヤの決算を読み解きます。売上高750億円を超える地域No.1企業の、力強い業績と、医療の未来を見据えた経営戦略に迫ります。

キシヤ決算

【決算ハイライト(58期)】
資産合計: 31,665百万円 (約316.7億円)
負債合計: 27,055百万円 (約270.5億円)
純資産合計: 4,611百万円 (約46.1億円)

売上高: 75,466百万円 (約754.7億円)
当期純利益: 848百万円 (約8.5億円)

自己資本比率: 約14.6%
利益剰余金: 4,441百万円 (約44.4億円)

【ひとこと】
売上高約755億円、当期純利益約8.5億円と、九州を代表する総合医療商社としての力強い業績を示しています。自己資本比率は14.6%と低めに見えますが、これは商品を仕入れて販売する卸売業の典型的な財務構造です。何より、44億円を超える厚い利益剰余金が、110年を超える老舗企業の揺るぎない安定性を物語っています。

【企業概要】
社名: 株式会社キシヤ
設立: 1968年(創業は1910年・明治43年
事業内容: 福岡を本拠とし、九州全域の医療を支える総合医療商社。「医療機器販売」「SPD(院内物流管理)」「福祉」を三本柱に、医療機関のあらゆるニーズに応えるソリューションを提供。九州のリーディングカンパニーとしての地位を確立している。

www.kishiya.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、九州一円の医療機関に対し、モノ・情報・サービスをワンストップで提供し、地域医療の質の向上と経営の効率化に貢献する「総合メディカル・ソリューション事業」として成り立っています。110年以上の歴史の中で、時代のニーズに合わせて事業を進化させてきました。

✔医療機器販売事業
同社の中核をなす伝統的な事業です。注射器やカテーテルのような日々の診療で使われる医療材料から、CT・MRIといった最先端の大型診断装置まで、医療現場で必要とされるあらゆる製品を、国内外の数多くのメーカーから仕入れ、病院やクリニックに販売しています。単に製品を届けるだけでなく、新規開業や病院建て替えの際のコンサルティング、導入後のメンテナンスまで手掛ける、医療機関の頼れるパートナーです。

SPD(院内物流管理)事業
同社の大きな強みであり、現代の病院経営において極めて重要な役割を担う事業です。SPDとは "Supply Processing & Distribution" の略で、病院内で使用される医療材料(医薬品を除く)の在庫管理、発注、院内の各部署への供給までを一元的に請け負うサービスを指します。これにより、これまで看護師などの医療従事者が行っていた煩雑な物品管理業務を代行。医療従事者を本来の専門業務である患者ケアに集中させ、医療の質の向上と病院経営の効率化(在庫削減など)に大きく貢献します。

✔福祉事業
超高齢社会の進展に伴い、ますます重要性が増している事業です。病院での治療を終え、在宅で療養生活を送る高齢者や障がいを持つ方々に対し、ストーマ装具や紙おむつ、吸引器といった福祉用具の販売・レンタルを行っています。病院から在宅まで、シームレスな医療・介護をサポートする重要な役割を担っています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
医療業界は、高齢化の進展による医療需要の増大という大きな追い風と、国の医療費抑制政策という常に存在する逆風の中で事業が展開されます。また、医療技術の進歩は日進月歩であり、より高価で高性能な医療機器へのニーズが生まれる一方で、病院経営は常に効率化を求められています。この「医療の質の向上」と「経営の効率化」という二つの要請は、同社が強みとするSPD事業にとって、今後も大きな事業機会となり続けるでしょう。

✔内部環境
売上高約755億円に対し、営業利益は約8.9億円(営業利益率約1.2%)。医療機器卸売業は、多種多様な在庫を抱え、多くの営業担当者を抱える必要があるため、一般的に利益率が低くなりがちなビジネスモデルです。その中で同社は、単なるモノ売りではない、SPD事業という付加価値の高いサービスを提供することで、安定した収益基盤を築いています。44億円を超える巨額の利益剰余金は、M&Aを重ねながらも、各時代で着実に利益を蓄積してきた経営手腕の証左です。

✔安全性分析
自己資本比率約14.6%という数値は、多くの在庫(商品)や売掛金流動資産として、一方で仕入代金の未払いである買掛金を流動負債として抱える、卸売業の典型的な財務構造を反映したものです。重要なのは資金繰りのバランスであり、流動資産(約250億円)が流動負債(約220億円)を上回っており(流動比率約114%)、短期的な支払い能力は確保されています。そして何よりも、44億円を超える厚い利益剰余金が、経営の安定性を支える強力なバッファーとして機能しています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・110年を超える歴史の中で築き上げた、九州全域の医療機関からの絶大な信頼と強固な顧客基盤
・44億円超という、長年の黒字経営がもたらした圧倒的に強固な財務基盤(利益剰余金)
・単なる機器販売に留まらず、病院経営の効率化に貢献するSPD事業という、付加価値の高いサービス提供能力
・九州各県を網羅する広範な営業・物流ネットワークと、M&Aによる事業拡大の実績

弱み (Weaknesses)
・利益率が比較的低い、労働集約・資本集約型のビジネスモデル
・事業エリアが九州に集中しており、地域の医療政策や大規模災害などの地域特有のリスクに業績が左右されやすい

機会 (Opportunities)
・医療従事者の働き方改革や病院経営の効率化ニーズの高まりによる、SPD事業のさらなる市場拡大
・医療のDX(デジタルトランスフォーメーション)化の進展に伴う、電子カルテ連携システムや、遠隔医療関連機器、AI診断支援ソフトといった新たな商材の取り扱い
・高齢化の進展に伴う、在宅医療・訪問看護・介護市場の拡大と、それに伴う福祉事業の成長

脅威 (Threats)
・診療報酬のマイナス改定をはじめとする、国の医療費抑制政策の強化
・医療機器メーカーによる直販体制の強化や、オンラインでの医療機器販売プラットフォームの台頭による「中抜き」のリスク
・同業他社との厳しい価格競争およびサービス競争
・大規模な自然災害発生時における、九州地域の医療機関への影響や自社サプライチェーンの寸断リスク


【今後の戦略として想像すること】
「九州のリーディングカンパニー」としての地位を盤石にしながら、次なる価値創造を目指すと考えられます。

✔短期的戦略
まずは、強みであるSPD事業のさらなる拡販に注力するでしょう。既存の取引先病院でのサービス提供範囲を拡大するとともに、まだSPDを導入していない中小規模の病院に対し、経営効率化のパートナーとして積極的に提案活動を行います。また、M&Aでグループに加わった企業の顧客基盤も活用し、グループ全体でのクロスセルを推進していくと考えられます。

✔中長期的戦略
単なる「モノ売り」「業務代行」からの脱却をさらに加速させ、医療現場のDXを推進するパートナーへと進化していくでしょう。例えば、SPD事業で得られる膨大な医療材料の消費データを分析し、病院の診療科ごとのコスト構造を可視化したり、手術の術式ごとの材料費をベンチマーク分析したりといった、データに基づいた経営改善コンサルティングを新たな収益の柱として育てることが考えられます。また、再生医療やゲノム医療といった次世代の医療分野に対応できる新たな専門部隊の育成や、有望な技術を持つメドテック・ベンチャーとの提携も視野に入ってくるのではないでしょうか。


【まとめ】
株式会社キシヤは、単に医療機器を運ぶ卸売会社ではありません。それは、明治の創業から一世紀以上にわたり、九州の医療の発展と共に歩み、医療現場のあらゆるニーズに応えることで地域医療そのものを支えてきた「総合メディカル・ソリューション・カンパニー」です。医師や看護師が患者と向き合う時間を創出するSPD事業は、まさに医療の質を向上させるという、極めて重要な社会的使命を担っています。これからも、九州の医療を支えるリーディングカンパニーとして地域に貢献し続けるとともに、SPDで培ったノウハウとデータを武器に、医療現場のDXを推進するイノベーターへと進化していくことが期待されます。


【企業情報】
企業名: 株式会社キシヤ
所在地: 福岡県福岡市東区松島1丁目41番21号
代表者: 代表取締役社長 緒方 裕輔
設立: 1968年6月1日(創業:1910年6月1日)
資本金: 50,000千円
事業内容: 医療機器及び医療用機械・設備の販売・修理・レンタル、SPD事業、介護・福祉用具の販売・レンタル、医療機関向けコンサルテーションなど

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