決算公告データ倉庫

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#683 秋田銘醸株式会社 第103期決算 当期純利益 317百万円

「美酒爛漫」のブランドで全国に知られ、秋田県湯沢市で100年以上にわたり酒造りを続けてきた秋田銘醸株式会社の第103期(2024年9月期)の決算公告が、令和6年11月28日付の官報に掲載されました。北国の伝統を守りながら、日本酒の新たな未来を切り拓く老舗酒蔵の驚異的な財務基盤と、その事業哲学に迫ります。

20240930_103_秋田銘醸決算

第103期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 8,509 (約85.1億円)
負債合計: 391 (約3.9億円)
純資産合計: 8,118 (約81.2億円)
当期純利益: 317 (約3.2億円)


今回の決算で際立っているのは、その圧倒的な財務の健全性です。純資産は約81.2億円、中でも利益剰余金が約80.3億円と莫大に積み上がっており、自己資本比率は約95%という驚異的な高さを誇ります。これは、1世紀以上にわたり「品質第一」を貫き、全国の日本酒ファンから愛され続けることで、安定した経営を続けてきたことの力強い証明です。

 

業績も好調で、当期純利益として317百万円(約3.2億円)を計上しており、盤石な収益力を維持しています。 

事業内容と今後の展望(考察)


【事業内容の概要】
大正11年(1922年)創業の秋田銘醸は、「しあわせ、なみなみ。」をブランドスローガンに掲げ、飲む人の心を満たす酒造りを追求してきました。その事業は、秋田・湯沢の風土に深く根差し、伝統と革新を両輪としています。

 

品質第一を支える「自然・米・技」:

美酒爛漫のふくよかで旨口の味わいは、三つの要素の融合から生まれます。①雪国・秋田の寒冷な気候を活かし、米の旨味をじっくり引き出す「低温長期発酵」。②原料米の特性を最大限に引き出すための「自社精米」へのこだわり。③全国五大杜氏の一つ「山内杜氏」の伝統を受け継ぐ蔵人たちの「匠の技」。これらが一体となり、いつの時代も変わらぬ高品質な酒を生み出しています。

 

未来への挑戦「ドメーヌ」への道:

同社は創業100周年を機に、極めて先進的な挑戦を開始しました。それは、社員自らの手で酒米を育てる「自社田栽培」です。これは、酒米農家の高齢化や後継者不足という業界全体の課題に真摯に向き合うと同時に、品質を根幹から追求する取り組みです。ワインの世界で、畑の所有から醸造、瓶詰までを一貫して行う生産者を「ドメーヌ」と呼びますが、同社はまさに日本酒における「ドメーヌ」を目指しています。自ら育てた米で酒を醸すことで、湯沢のテロワール(風土)を最大限に表現し、秋田銘醸にしか造れない唯一無二の価値を創造しようとしています。

 

循環型社会への貢献:

酒造りの工程で生じる副産物を再利用するなど、サステナビリティへの意識も高く、酒造りを通じて「人、土地、未来から、愛されつづける」ことを目指す、という明確なブランド・アイデンティティを掲げています。

 

【財務状況と今後の展望・課題】
80億円を超える巨額の利益剰余金が示す通り、同社の経営基盤は盤石そのものです。この揺るぎない財務力があるからこそ、「自社田栽培」のような、短期的にはコスト増となっても、長期的にはブランド価値を飛躍的に高める戦略的な未来への投資が可能になっています。

 

市場機会と成長戦略:

 

高品質・高付加価値市場へのシフト

国内の日本酒市場が量から質へとシフトする中、消費者は「どのような米で、誰が、どのように造ったのか」というストーリーを重視するようになっています。「自社田栽培米」で醸す「稲シリーズ」は、まさにこのトレンドを捉えたものであり、高付加価値商品として国内外で高い評価を得るポテンシャルを秘めています。


外市場での「SAKE」ブーム

世界的な和食ブームを背景に、日本酒の輸出は好調です。「テロワール」や「ドメーヌ」といった概念は、特にワイン文化が根付いている欧米市場において、日本酒の魅力を伝える上で強力な武器となります。秋田・湯沢の自然と人の技が凝縮された美酒爛漫は、海外の新たな日本酒ファンを魅了する可能性に満ちています。


課題とリスク:

国内市場の縮小と若者層の開拓

長期的に見れば、国内の日本酒消費量は減少傾向にあります。「かおりシリーズ」のような華やかな香りの商品や、多様な飲み方を提案することで、若年層をはじめとする新たな顧客層をいかに開拓していくかが継続的な課題です。


気候変動の影響

酒米の品質は天候に大きく左右されます。自ら米作りに取り組むことは、この気候変動リスクに正面から向き合うことでもあり、長年培った知見と技術力が試されます。


秋田銘醸は、100年という長い歴史で築き上げた信頼と品質、そして驚異的な財務力を土台に、「ドメーヌ」という日本酒の新たな地平を切り拓こうとしています。これは、単なる伝統の継承ではなく、未来の100年も輝き続けるための、攻めの変革です。秋田・湯沢のテロワールを一杯の酒に凝縮し、世界中の人々に「しあわせ、なみなみ。」と届けていく。その挑戦から、目が離せません。

 

企業情報
企業名: 秋田銘醸株式会社
所在地: 秋田県湯沢市大工町4番23号
代表者: 代表取締役社長 京野 學
事業内容: 清酒「美酒爛漫」の製造・販売。自社田での酒米栽培から醸造まで一貫して手掛ける。

www.ranman.co.jp