私たちが働く「オフィス」。それは単なる作業スペースから、コラボレーションを促進し、イノベーションを生み出し、社員のウェルビーイングを高めるための戦略的な経営資源へと、その役割を大きく変化させています。理想的なワークプレイスを創造するには、家具の選定から内装工事、ICT環境の構築まで、多岐にわたる専門知識が求められます。
今回は、この複雑なオフィスづくりをワンストップで手掛ける、中四国エリアのリーディングカンパニー、株式会社フォーデックの決算を読み解きます。創業80年以上の歴史を誇る同社が、いかにして地域の企業の働き方を支え、どのような経営状況にあるのか。その実態に迫ります。
【決算ハイライト(85期)】
資産合計: 7,715百万円 (約77.2億円)
負債合計: 6,170百万円 (約61.7億円)
純資産合計: 1,546百万円 (約15.5億円)
当期純利益: 47百万円 (約0.5億円)
自己資本比率: 約20.0%
利益剰余金: 1,243百万円 (約12.4億円)
【ひとこと】
総資産77億円を超える大きな事業規模を誇ります。自己資本比率は20.0%と標準的な水準ですが、12億円を超える潤沢な利益剰余金は、長年にわたる安定した経営と収益力の証です。当期純利益は47百万円と事業規模に対しては控えめですが、激しい競争環境の中で着実に利益を確保しており、堅実な経営がうかがえます。
【企業概要】
社名: 株式会社フォーデック
設立: 1998年(創業1940年)
事業内容: 広島を拠点に中四国エリアで事業を展開するトータルオフィスソリューション企業。オフィス家具、内装工事、ICT関連機器、文具・事務用品まで、オフィスの構築・運営に関わるあらゆる製品・サービスをワンストップで提供する。
【事業構造の徹底解剖】
株式会社フォーデックの強みは、「Total Office Produce」というコンセプトに集約されます。顧客のあらゆるニーズにワンストップで応えるため、事業は大きく3つの部門で構成されています。
✔オフィス環境事業部
企業の顔となるオフィスの空間づくりを担う、同社の中核事業です。オフィス移転やリニューアルの企画・設計から、内装・建具工事の施工管理、そしてイトーキ、オカムラ、コクヨといった主要メーカーのオフィス家具の選定・納入までを一貫して手掛けます。自社に設計部門と施工管理の有資格者を置くことで、メーカーに縛られない中立的な立場で、顧客にとって最適なワークプレイスを創造します。
✔オフィスソリューション事業部
現代のオフィスに不可欠なICT環境の構築を担う部門です。PCやサーバーといった機器の提供から、ネットワークの設計・構築、セキュリティ対策まで、ハードとソフトの両面から企業のDXをサポートします。
✔ビジネスパートナー事業部
創業以来の事業の基盤ともいえる、文具・事務用品や紙製品などの卸売・販売事業です。日々のオフィス運営に欠かせない消耗品を安定供給することで、顧客との継続的な関係を築いています。
【財務状況等から見る経営戦略】
創業85期という長い歴史を持つ同社の財務と戦略を分析します。
✔外部環境
働き方改革やコロナ禍を経て、ハイブリッドワークの導入など、オフィスのあり方は大きな変革期を迎えています。これは、既存のオフィスの見直しやリニューアル需要を喚起し、同社にとって大きな事業機会となっています。一方で、オフィス用品のEC化や、メーカーによる直販強化など、競争環境は厳しさを増しています。
✔内部環境
同社のビジネスモデルは、オフィスに関するあらゆる商材を扱う「総合力」と、中四国エリアに根差した「地域密着力」が特徴です。複数のメーカー品を組み合わせた提案ができるため、顧客の多様な要望に柔軟に応えることができます。また、6社の合併によって誕生した経緯から、広範なエリアをカバーする営業ネットワークを保有している点も大きな強みです。
✔安全性分析
貸借対照表を見ると、総資産約77.2億円という大きな事業規模がわかります。純資産は約15.5億円で、自己資本比率は20.0%です。これは、商品を仕入れて販売・施工するという事業の特性上、買掛金などの流動負債が大きくなるためで、この業態としては標準的な水準です。財務の健全性を裏付けているのが、12億円を超える利益剰余金です。創業以来、着実に利益を蓄積してきた結果であり、これが企業の安定性の基盤となっています。47百万円の当期純利益は、厳しい市場環境下でも黒字を確保する底力を示しています。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・設計から家具、ICT、消耗品までを網羅する「ワンストップソリューション」提供能力
・中四国エリアをカバーする広範な営業ネットワークと、長年の取引で培った顧客基盤
・創業80年を超える歴史と、12億円以上の利益剰余金が示す経営の安定性
・複数メーカーを取り扱うことによる、中立的で柔軟な提案力
弱み (Weaknesses)
・景気後退局面における、企業の設備投資意欲の減退に業績が左右されやすい
・オンライン通販など、低価格を武器とする競合との価格競争
機会 (Opportunities)
・ハイブリッドワークなど、新しい働き方に対応したオフィスリニューアル需要の拡大
・企業のDX推進に伴う、ICTインフラ整備の需要
・社員のエンゲージメントやウェルビーイング向上を目的とした、オフィス環境への投資意欲の高まり
脅威 (Threats)
・オフィス家具メーカーによる直販や、ECサイトのさらなる台頭
・企業のオフィス縮小の動き
・建設・内装工事における人手不足と人件費の高騰
【今後の戦略として想像すること】
「空間づくり」という付加価値の高い領域をさらに強化していくことが予想されます。
✔短期的戦略
「Face to Face」の強みを活かし、顧客企業の経営課題や働き方の課題を深くヒアリングし、それを解決するオフィス環境を提案するコンサルティング営業を強化していくでしょう。特に、Web会議スペースの増設や、社員同士のコミュニケーションを活性化させる共用スペースの設計など、今の時代ならではのニーズを的確に捉えた提案が鍵となります。
✔中長期的戦略
オフィスという物理的な空間だけでなく、そこで働く人々の生産性や満足度を向上させるためのサービスへと事業を拡張していく可能性があります。例えば、ICTツールを活用した働き方のコンサルティングや、オフィス環境が社員に与える影響を可視化するサービスなど、ハード(空間)とソフト(働き方)を融合させた、より高度なソリューションプロバイダーへの進化が期待されます。
【まとめ】
株式会社フォーデックは、単にオフィス用品を販売する商社ではありません。それは、企業の文化や働き方を理解し、最適な「働く環境」を創造するトータルプロデューサーです。創業から85年という長い歴史の中で、中四国エリアの数多くの企業の発展を、働く場所という最も基本的なインフラから支えてきました。
12億円を超える利益剰余金は、その長年の信頼と実績の証です。働き方が多様化し、オフィスの役割が再定義される現代において、同社のような企業の専門知識と提案力は、ますますその重要性を増していくことでしょう。
【企業情報】
企業名: 株式会社フォーデック
所在地: 広島県広島市西区商工センター六丁目9番39号
代表者: 山尾 剛志
設立: 1998年11月21日(創業1940年10月30日)
資本金: 1億円
事業内容: トータルオフィスソリューション、オフィス家具、事務所・店舗の企画、設計、施工、ICT関連機器、ネットワークソリューション、文具、紙製品、事務用品、ファンシー商品、ギフト商品等の販売