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#3570 決算分析 : 多機能フィルター株式会社 第31期決算 当期純利益 130百万円

「1時間に100mmを超える雨」。数十年前には想像もできなかったような「記録的短時間大雨」が、今や日本のどこで起きてもおかしくない日常の脅威となっています。激しい雨は、山の斜面を削り、土砂災害を引き起こし、私たちの暮らしを脅かします。この、気候変動時代の大きな課題に、独自の技術で立ち向かう企業が山口県下松市にあります。

今回は、産官学の連携によって誕生した防災・環境ベンチャー、「多機能フィルター株式会社」の決算を読み解きます。道路の法面(のりめん)や災害復旧現場で、土壌の侵食を防ぎ、緑を再生させるという、まさに現代社会が求めるソリューションを提供する同社。その驚異的に健全な財務内容と、社会貢献とビジネスを両立させる、しなやかで力強い経営戦略に迫ります。

多機能フィルター決算

【決算ハイライト(31期)】
資産合計: 1,477百万円 (約14.8億円)
負債合計: 339百万円 (約3.4億円)
純資産合計: 1,138百万円 (約11.4億円)

当期純利益: 130百万円 (約1.3億円)

自己資本比率: 約77.0%
利益剰余金: 1,094百万円 (約10.9億円)

【ひとこと】
自己資本比率77%という極めて高い財務健全性が最大の特徴です。総資産約15億円に対し、利益剰余金が約11億円と、創業以来の着実な利益の積み重ねがうかがえます。今期も約1.3億円の純利益を確保しており、社会の防災ニーズを確実に取り込む、ニッチトップ企業の強さが光ります。

【企業概要】
社名: 多機能フィルター株式会社
設立: 1994年6月6日
事業内容: 山口県下松市を拠点とする、土木・環境資材メーカー。豪雨による土壌侵食を防止し、緑化を促進する法面保護資材「養生マット・多機能フィルター」の開発・製造・販売を主力事業とする。

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【事業構造の徹底解剖】
多機能フィルター株式会社の強みは、時代のニーズを的確に捉えた、社会貢献性の高いユニークな製品にあります。

✔中核製品:「養生マット・多機能フィルター」
同社の事業の核は、その社名にもなっている「多機能フィルター」です。これは、道路建設などで作られた土がむき出しの斜面(法面)や、土砂災害の復旧現場などに敷設される、特殊なマット状の資材です。その「多機能」たる所以は、2つの重要な役割を同時に果たす点にあります。

侵食防止機能: ゲリラ豪雨のような激しい雨が降っても、フィルターが雨滴の衝撃を和らげ、表土が流れ出すのを強力に防ぎます。これにより、土砂災害の拡大や、河川の濁水を防ぎます。

緑化促進機能: マットには、現地の環境に適した植物の種子や肥料、土壌改良材があらかじめ組み込まれています。これにより、植物の力を借りて、迅速かつ確実に斜面を緑化。植物の根が深く張ることで、恒久的に安定した斜面へと自然の力で修復していきます。

✔時代の要請から生まれたソリューション
同社のウェブサイトには、「“どこにそんな雨が降るんか?” これは20数年前、私自身が営業活動の中で投げ掛けられた一言です」という社長の印象的な言葉が記されています。地球温暖化に伴う気象の激甚化を予見し、粘り強く製品開発を続けてきた先見の明が、今日の事業の礎となっています。

✔研究開発からグローバル展開まで
同社は、単なる製造工場ではありません。産官学連携で創業したベンチャーとしての精神を受け継ぎ、社内に研究開発室を設置。既存製品の改良や、生分解性プラスチックを使用した「エコタイプ」など、常に新しい製品開発に取り組んでいます。また、国内に8つの営業拠点を持ち全国をカバーするだけでなく、国際事業部を設け、既に11の国と地域への販売実績を持つなど、グローバルな視点も持ち合わせています。


【財務状況等から見る経営戦略】
今回の決算は、社会課題解決型ビジネスの、理想的な財務モデルの一つを示しています。

✔外部環境
気候変動の影響で、日本全国で豪雨災害が頻発・激甚化しており、防災・減災は国家的な最重要課題となっています。政府が進める「国土強靱化計画」では、インフラの維持管理や災害対策に巨額の予算が投じられており、斜面の安定化や早期緑化を実現する同社の製品への需要は、今後もますます高まっていくことが確実視されています。

✔内部環境と収益性分析
今期、約1.3億円という高い当期純利益を確保しました。これは、同社の製品が、単なる土木資材ではなく、防災・減災と環境修復という高い付加価値を持つソリューションとして、市場で高く評価されていることを示しています。発明大賞や、ものづくり日本大賞といった数々の受賞歴がその技術力の高さを裏付けており、安易な価格競争に陥らない、強い収益構造を確立していると推察されます。

✔安全性分析
自己資本比率は77.0%と、製造業として極めて高い水準にあり、財務基盤は盤石です。実質的に無借金経営に近い、非常に健全な状態です。そして何より特筆すべきは、資本金5,000万円に対し、利益剰余金がその20倍以上にあたる約11億円にも積み上がっている点です。これは、1994年の創業以来、一貫して黒字経営を続け、利益を堅実に内部に蓄積してきた、卓越した経営手腕の証明と言えるでしょう。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・防災・減災と環境修復という、社会的な要請に合致した、独自性の高い中核製品。
・数々の受賞歴に裏打ちされた、他社が容易に模倣できない高い技術力と製品性能。
自己資本比率77%と、11億円近い利益剰余金が示す、極めて強固で安定した財務基盤。
・産官学連携で創業したことによる、大学や公的機関との強固なネットワーク。
・全国をカバーする販売網と、海外への展開実績。

弱み (Weaknesses)
・事業が「多機能フィルター」という単一の製品カテゴリーに大きく依存している。
・売上の多くが公共事業に関連するため、国の予算編成や政策の変更に業績が影響される可能性がある。

機会 (Opportunities)
・気候変動による災害の激甚化に伴う、防災・減災市場の構造的な拡大。
・政府の「国土強靱化計画」の継続による、安定した公共事業需要。
SDGsやESG投資への関心の高まりによる、同社の環境貢献型製品への評価向上。
・アジアなど、同じく豪雨災害に悩む海外市場への本格的な事業展開。

脅威 (Threats)
・より安価な、あるいは新しいコンセプトを持つ競合製品の出現。
・将来的な公共事業予算の大幅な削減リスク。
・原材料価格の高騰による、利益率の圧迫。


【今後の戦略として想像すること】
この盤石な経営基盤と時流に乗った製品を武器に、同社はさらなる飛躍を目指していくでしょう。

✔短期的戦略
まずは、国土強靱化計画という大きな追い風を確実に捉え、全国の災害復旧現場やインフラ整備事業への製品供給を拡大していくことが最優先です。特に、防災意識が高まっている地方自治体や、大規模な開発を行う民間企業へのコンサルティング営業を強化し、製品の優位性をさらに浸透させていくことが考えられます。

✔中長期的戦略
「グローバルな防災・環境ソリューション企業」への進化が期待されます。日本で培った豪雨災害対策のノウハウと製品は、同じ課題を抱えるアジアの国々で大きな需要が見込めます。国際事業部を核として、現地のパートナー企業との連携などを通じ、海外への本格的な事業展開を加速させていくでしょう。また、社内の研究開発室を中心に、「フィルター」と「緑化」というコア技術を応用した、新たな事業領域への挑戦も期待されます。例えば、都市部のヒートアイランド現象を緩和する壁面緑化システムや、汚染された土壌を浄化するバイオレメディエーション技術などへの展開も、同社の技術力をもってすれば十分に可能です。


【まとめ】
多機能フィルター株式会社の決算は、自己資本比率77%という鉄壁の財務基盤が示す通り、産官学連携で生まれた地方のベンチャー企業が、いかにして力強く、高収益な優良企業へと成長できるかという、見事なサクセスストーリーを物語っていました。その成功の源泉は、気候変動という時代の大きな課題に対し、「防災」と「環境修復」という明確な答えを、具体的な製品として提示した、その先見性と高い技術力にあります。

同社は、単なる土木資材メーカーではありません。それは、激甚化する自然災害から人々の生命と暮らしを守り、傷ついた大地を緑で癒す、「国土の守り手」です。これからも、その卓越した技術力と盤石な経営基盤を武器に、日本、そして世界の安全・安心な社会づくりに貢献し続ける、重要な存在であり続けるでしょう。


【企業情報】
企業名: 多機能フィルター株式会社
所在地: 山口県下松市葉山2丁目904番地16
代表者: 代表取締役社長 志賀 弘征
設立: 1994年6月6日
資本金: 5,000万円
事業内容: 土木資材(法面保護資材)、環境資材の製造・販売

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