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#3640 決算分析 : 東洋ガラス物流株式会社 第25期決算 当期純利益 27百万円

ビールやジュース、調味料など、私たちの食卓を彩る多くの製品が詰められているガラスびん。その透明感や高級感は、他の容器にはない魅力を持っています。しかし、その一方で「重くて、かさばり、そして何よりも割れやすい」という、物流にとっては非常に厄介な特性も併せ持っています。

この、神経を使う「ガラスびん」という "われもの”の輸送を専門に担い、日本の巨大容器メーカーのサプライチェーンを支えるプロフェッショナル集団がいます。今回は、日本最大のガラスびんメーカー・東洋ガラスの100%子会社である、東洋ガラス物流株式会社の決算を分析。「われもの輸送」で培われた高度なノウハウと、物流業界が直面する「2024年問題」に果敢に挑む、知られざる物流企業の姿に迫ります。

東洋ガラス物流決算

【決算ハイライト(25期)】
資産合計: 739百万円 (約7.4億円)
負債合計: 532百万円 (約5.3億円)
純資産合計: 206百万円 (約2.1億円)
当期純利益: 27百万円 (約0.3億円)

自己資本比率: 約28.0%
利益剰余金: 186百万円 (約1.9億円)

【ひとこと】
自己資本比率が約28.0%と、健全な財務基盤を維持しています。1.9億円の利益剰余金は、設立以来25年間にわたり、着実に利益を積み上げてきた証拠です。親会社の製品を安定的に輸送するという、ミッションクリティカルな役割を堅実に果たしている優良企業の姿がうかがえます。

【企業概要】
社名: 東洋ガラス物流株式会社
設立: 2001年3月1日
株主: 東洋ガラス株式会社(100%)
事業内容: ガラスびんを中心とした輸配送サービス、構内物流サービス、プラスチックパレット洗浄サービス

www.tg-l.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
東洋ガラス物流は、総合容器メーカー・東洋製罐グループの中核を成す、東洋ガラス株式会社の物流機能を一手に担う、戦略的子会社(ロジ子会社)です。その事業は、単にトラックでモノを運ぶだけではなく、メーカーの生産活動と一体となった、高度な専門性を特徴としています。

✔事業の柱①:輸配送サービス - ”われもの”輸送のプロフェッショナル
同社の主戦場は、細心の注意が求められるガラスびんの全国輸送です。
・高度な輸送品質: 親会社である東洋ガラスの製品を安全・確実に届けるため、長年の経験で培った荷扱いのノウハウが最大の強みです。さらに、トラック輸送時の振動を抑えるため、IHI社と共同で「トラック免振装置」を開発するなど、技術開発にも意欲的です。
モーダルシフトへの挑戦: トラックドライバー不足が深刻化する「2024年問題」や、環境負荷低減という社会的な要請に対し、いち早く「モーダルシフト」を推進。自社で31フィートの大型鉄道コンテナを保有し、関東〜関西間の定期輸送を行うなど、トラックだけに頼らない、持続可能な輸送網を構築しています。

✔事業の_柱②:構内物流サービス - メーカーの心臓部で活動
同社は、東洋ガラスの工場”内”の物流も担っています。完成したガラスびんを生産ラインから倉庫へ移動させ、保管し、出荷指示に応じてトラックへ積み込むまでの一連の作業を請け負います。これにより、親会社は生産活動に専念でき、グループ全体としての一貫した品質管理と効率化を実現しています。

✔ビジネスモデルの独自性
同社のビジネスモデルは、親会社である東洋ガラスの専属物流部門として機能することで、極めて安定した事業基盤を持っている点が特徴です。一般的な物流会社とは異なり、「ガラスびん」という特定の商品に関する深い知見(ドメイン知識)と、それに最適化された技術・設備が、他社にはない強力な参入障壁となっています。


【財務状況等から見る経営戦略】
健全な財務内容は、この安定したビジネスモデルを反映したものです。

✔外部環境
物流業界全体が、「2024年問題」に起因するドライバー不足とコスト増という、大きな逆風に晒されています。これは、同社にとっても例外ではありません。しかし、この逆風は、鉄道や船舶輸送といった代替手段を持つ企業にとっては、むしろ「機会」となり得ます。同社がいち早くモーダルシフトを推進していることは、この環境変化を見据えた、極めて戦略的な一手と言えるでしょう。

✔内部環境
最大の強みは、東洋ガラス、そしてその親会社である東洋製罐グループという、巨大で安定した荷主を顧客に持っていることです。これにより、長期的な視点での設備投資(鉄道コンテナの導入など)や、ITシステムの構築が可能になります。実際に、同社は独自の「出荷支援システム」や「外部倉庫在庫管理システム」を構築・運用しており、メーカー系物流子会社としての高いITリテラシーも有しています。弱みとしては、事業が親会社の業績や、ガラスびん市場の動向に大きく依存する点が挙げられます。

✔安全性分析
財務の安全性は「健全」です。自己資本比率28.0%は、車両やコンテナといった資産を保有する必要がある物流会社として、安定した水準です。過度に借入金に依存することなく、自己資本と負債のバランスが取れた経営が行われています。
利益剰余金が1.9億円と、資本金2,000万円の9倍以上積み上がっていることからも、2001年の設立以来、着実に利益を蓄積してきたことがわかります。当期も2,700万円の純利益を計上しており、安定した収益力を維持しています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・東洋ガラス・東洋製罐グループという、巨大で安定した顧客基盤
・ガラスびんという「われもの」輸送で培われた、高度な専門技術と品質管理能力
・鉄道コンテナなどを活用した、モーダルシフトへの先進的な取り組み
・健全な自己資本比率と、設立以来の安定した黒字経営実績

弱み (Weaknesses)
・事業が親会社の業績および、ガラスびん市場の動向に大きく依存する構造
・物流業界全体が抱える、人材確保の難しさ

機会 (Opportunities)
・「2024年問題」を背景とした、トラック輸送から鉄道・船舶輸送へのモーダルシフト需要の拡大
・ESG経営の高まりによる、環境負荷の低い物流への評価の向上
・培った「われもの」輸送のノウハウを、他の業界(精密機器、化学品など)へ横展開する可能性

脅威 (Threats)
・燃料費や人件費の継続的な高騰による、コスト増加圧力
・プラスチック容器など、代替品との競争による、ガラスびん市場の変動リスク
・大規模な自然災害による、輸送網の寸断リスク


【今後の戦略として想像すること】
盤石な経営基盤と他にない専門性を持つ東洋ガラス物流は、今後、その提供価値をさらに深化・拡大させていくことが期待されます。

✔短期的戦略
まずは、モーダルシフトの取り組みをさらに加速させ、鉄道・船舶輸送の比率を高めていくでしょう。これにより、「2024年問題」の影響を最小限に抑え、顧客である親会社に対して、より安定的で環境負荷の低い物流サービスを提供することが可能になります。また、ハンディターミナルを活用したロット管理システムなど、ITを駆使した業務効率化にも、継続的に取り組んでいくと考えられます。

✔中長期的戦略
中長期的には、そのユニークな専門性を、グループ外へ展開していく可能性があります。同社が持つ「われもの・重量物」の安全な輸送ノウハウと、独自開発した「トラック免振装置」などの技術は、ガラスびん以外の製品、例えば精密機器や陶磁器、一部の化学品などの輸送にも応用可能です。これらの分野の荷主に対し、新たなソリューションとしてサービスを提供することで、親会社依存の収益構造から、多角化された収益構造へと進化していくことが期待されます。


【まとめ】
東洋ガラス物流株式会社は、単にモノを運ぶだけの物流会社ではありません。彼らは、「ガラスびん」という極めて取り扱いの難しい製品を、安全・確実に届けるための専門技術とノウハウを持つ、エンジニアリング集団です。親会社である東洋ガラスとの強固な連携の下、安定した事業基盤と健全な財務を築き上げています。

特に、物流業界全体を揺るがす「2024年問題」に対し、鉄道輸送へのシフトという未来志向の打ち手を講じている点は、高く評価されるべきでしょう。彼らは、日本のものづくりを、その”最後の砦”である物流の面から、技術と知恵で支え続けています。


【企業情報】
企業名: 東洋ガラス物流株式会社
所在地: 千葉県柏市新十余二1番地1
代表者: 代表取締役社長 西 俊博
設立: 2001年3月1日
資本金: 2,000万円
株主: 東洋ガラス株式会社(100%)
事業内容: 一般貨物自動車運送事業、貨物利用運送事業、構内荷役事業、プラスチックパレット検査洗浄事業など。特に親会社である東洋ガラスのガラスびん製品の輸配送、構内物流を中核とする。

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