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#1556 決算分析 : 福島送電株式会社 第9期決算 当期純利益 301百万円

東日本大震災からの復興と、再生可能エネルギーへの転換。この二つの大きなテーマが交差する地、福島で、未来のエネルギー社会を支える重要なインフラを構築する企業があります。私たちがクリーンなエネルギーを利用する、その裏側で送電網という社会基盤を整備し、エネルギーの安定供給に貢献しているのです。
今回は、福島の復興と新エネルギー社会の実現という大きな役割を担う、福島送電株式会社の決算を読み解き、その壮大な事業モデルと経営戦略をみていきます。

20250331_9_福島送電決算

決算ハイライト(第9期)

資産合計: 8,310百万円 (約83.1億円)
負債合計: 8,355百万円 (約83.5億円)
純資産合計: ▲45百万円 (約▲0.45億円)
当期純利益: 301百万円 (約3.01億円)


自己資本比率: 約▲0.55%
利益剰余金: ▲58百万円 (約▲0.58億円)

 

まず注目すべきは、純資産がマイナス、いわゆる債務超過の状態である点です。これは通常、企業の財務安全性に警鐘を鳴らす指標です。しかし一方で、当期純利益は301百万円の黒字を確保しています。この一見矛盾した財務状況は、国家プロジェクトとして大規模な先行投資を行った同社の事業特性を色濃く反映しており、今後の収益化フェーズへの移行を示唆しているのかもしれません。

 

企業概要

社名: 福島送電株式会社
設立: 2016年10月3日
株主: 福島発電株式会社 (39.23%)、東京電力ホールディングス株式会社 (37.69%)、株式会社東邦銀行 (11.54%)、福島商事株式会社 (11.54%)
事業内容: 福島県内の再生可能エネルギー発電所と一般送配電事業者を繋ぐ共用送電線網の整備・運営

www.fukushimasouden.jp

 

【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、再生可能エネルギーの導入拡大を目的とした「送電事業」に集約されます。これは、「福島イノベーション・コースト構想」および「福島新エネ社会構想」に基づき、国や県と共に福島の産業復興を推進する国家的なプロジェクトです。

✔共用送電線網の整備・運営
阿武隈山地や沿岸部に点在する再生可能エネルギー発電所で作られた電気を、効率よく大規模な電力系統へ送り届けるための送電網を構築し、運営しています。特に、公共の道路等を活用した総延長約86kmにも及ぶ「地下埋設送電線網」という画期的な手法を採用した点が大きな特徴です。これにより、景観や環境への配慮と、事業の迅速な推進を両立させています。発電事業者から送電線の利用料(託送料金)を得ることが、同社の主な収益源となります。

 

【財務状況等から見る経営戦略】

✔外部環境
国や県が推進する「再エネ先駆けの地」を目指す動きは、同社にとって強力な追い風です。脱炭素化という世界的な潮流も事業の重要性を高めています。福島発電や東京電力HDといった電力事業に精通した企業、そして地元有力企業が株主として名を連ねており、事業の安定性と継続性を支える強固な基盤となっています。

✔内部環境
送電網という巨大インフラの整備には、莫大な初期投資が必要です。今回の決算における83億円を超える負債は、この先行投資の結果であり、事業特性上、高い固定費構造となっています。現在はまだ全ての再エネ発電所との接続が完了していないため、債務超過という形になっていますが、2027年度に計画されている発電所との接続が全て完了すれば、約617MWの電力を送電可能となり、収益性は大きく向上する見込みです。当期純利益が黒字化したことは、事業が収益を生み出すフェーズに入ったことを示す重要な一歩と言えるでしょう。

✔安全性分析
自己資本比率がマイナスである点は、財務安全性の観点からは懸念材料です。しかし、同社が担う事業の公共性や、国家プロジェクトという側面、そして強力な株主構成を鑑みれば、一般的な企業とは異なる評価軸で見る必要があります。短期的な財務指標だけでなく、長期的な収益計画と事業の継続性が、同社の真の安定性を担保していると考えられます。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」の中核を担う事業であること
・福島発電、東京電力HDなど、電力事業と地域に精通した強力な株主構成
・地下埋設という画期的な工法による送電網整備のノウハウと実績

弱み (Weaknesses)
・先行投資による巨額の負債と、債務超過という財務状況
・収益が再生可能エネルギー発電事業者の稼働状況に依存する構造

機会 (Opportunities)
・国や福島県による再生可能エネルギー導入の強力な推進
・脱炭素社会への移行という世界的な潮流
・事業モデルが全国の「再エネ先駆けの地」のモデルケースとなる可能性

脅威 (Threats)
・接続を予定している発電所の開発計画の遅延や中止
・電力政策や固定価格買取制度(FIT)などの制度変更
・自然災害による送電インフラへの物理的ダメージ

 

【今後の戦略として想像すること】
債務超過という状況を脱し、持続的な成長を遂げるためには、以下の戦略が考えられます。

✔短期的戦略
計画されている再生可能エネルギー発電所との接続を滞りなく進め、送電網の稼働率を最大化することで、着実に収益を拡大していくことが最優先事項です。また、これまでの建設・運営で培ったノウハウを活かし、徹底的な業務効率化を進めることも重要となります。

✔中長期的戦略
今回整備した送電網を基盤に、さらなる系統増強や新たなエリアへの展開を検討することが考えられます。また、地下送電網の設計・建設・運営に関する知見を活かしたコンサルティング事業など、新規事業領域への進出も視野に入るでしょう。福島の成功モデルを、他の地域へ展開していく役割も期待されます。

 

まとめ

福島送電株式会社は、単なる送電会社ではありません。それは、福島の復興と日本のエネルギーの未来を支える、社会インフラを創造する企業です。決算書に表れた債務超過という数字は、未来への大きな投資の証であり、3億円を超える当期純利益は、その投資が実を結び始めた力強い兆候と言えます。これからも、国や地域と一体となった強固な事業基盤を武器に、福島の地から日本の新しいエネルギー社会を切り拓く中心的な存在となることが期待されます。

 

企業情報

企業名: 福島送電株式会社
所在地: 福島県福島市置賜町1番29号 佐平ビル901B
代表者: 代表取締役社長 小野 和彦
設立: 2016年10月3日(福島送電準備合同会社として設立)
資本金: 1,300万円
事業内容: 阿武隈山地及び福島県沿岸部における送電線整備のための調査・準備、送電線・変電所等の設計、建設・運営管理及び連携に関するコンサルト等
株主: 福島発電株式会社 (39.23%)、東京電力ホールディングス株式会社 (37.69%)、株式会社東邦銀行 (11.54%)、福島商事株式会社 (11.54%)

www.fukushimasouden.jp

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