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#1046 決算分析 : 山津水産株式会社 第76期決算 当期純利益 52百万円


1881年明治14年)の創業から140年以上にわたり、新潟の食文化を海の幸で彩り続けてきた、山津水産株式会社。新潟市中央卸売市場の中核を担う卸売業者でありながら、加工、冷蔵、物流、さらには自社での養殖まで手掛ける「水産物のトータルプロデューサー」である同社の第76期(2025年3月期)決算が、2025年6月13日付の官報に掲載されました。その驚異的な財務基盤と、伝統を重んじながらも未来を見据えた独自の事業戦略に迫ります。 

20250331_76_山津水産決算

第76期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 3,829百万円 (約38.3億円)

負債合計: 1,284百万円 (約12.8億円)

純資産合計: 2,545百万円 (約25.5億円)

当期純利益: 52百万円 (約0.5億円)

 

今回の決算では、当期純利益として52百万円(約0.5億円)を計上。水産資源の変動や消費動向の変化など、厳しい事業環境の中でも着実に利益を確保しており、安定した経営基盤の強さがうかがえます。純資産合計は約25.5億円と極めて厚く、自己資本比率は66.5%と非常に高い水準を誇ります。

特筆すべきは、資本金3,500万円に対し、利益剰余金が2,441百万円(約24.4億円)と、資本金の約70倍にも達している点です。これは、1世紀以上にわたる歴史の中で、幾多の経済変動や新潟地震といった困難を乗り越え、着実な黒字経営を継続してきた結果であり、同社の圧倒的な信用力と経営安定性の証左です。

 

事業内容と今後の展望(考察)

【事業内容の概要】
山津水産は、単なる水産物の卸売会社ではありません。「山津水産グループ」として、川上の生産(養殖)から、川中の加工・流通、そして川下の販売に至るまで、水産物サプライチェーン全体を垂直統合的に手掛ける、他に類を見ないビジネスモデルを構築しています。

 

卸売事業(中核機能):
新潟市中央卸売市場の卸売人として、全国・世界から多種多様な水産物を集荷し、「セリ」や相対取引を通じて仲卸業者や小売業者に販売する、事業の根幹です。140年以上の歴史で培われた「目利き」と、新潟県内トップクラスの取扱量が、同社の市場における影響力の源泉となっています。

 

製造・加工事業(価値創造のエンジン):
グループ会社である山津冷蔵食品株式会社が、この重要な役割を担います。消費者のライフスタイルの変化に対応し、単に魚を売るだけでなく、切り身や漬け魚、冷凍食品といった付加価値の高い商品へと加工。最新の冷凍・冷蔵設備とHACCPに準拠した衛生管理の下、顧客の多様なニーズに応えています。

 

養殖事業(未来への布石):
鳥取県の弓ヶ浜水産と連携し、佐渡の海で銀鮭「佐渡荒海サーモン」やサクラマス佐渡さくらます」の養殖を手掛けています。これは、不安定な天然資源に依存するだけでなく、自ら高品質な水産物を安定的に「創り出す」という、極めて戦略的な取り組みです。

 

サステナビリティへの先進的な取り組み:
同社は、持続可能な漁業で獲られた水産物の証である「MSC認証」、責任ある養殖業の証である「ASC認証」、そして日本の水産エコラベル「MEL(マリン・エコラベル・ジャパン)」のCoC認証(加工・流通過程の管理認証)をいち早く取得。環境と資源に配慮した企業姿勢を明確に打ち出しており、これが大手量販店や消費者からの信頼を獲得する上で、大きな競争優位性となっています。

 

【財務状況と今後の展望・課題】
第76期決算における安定した利益は、この「グループによる垂直統合モデル」が効果的に機能している結果と言えるでしょう。卸売で安定した基盤を確保しつつ、加工で付加価値を高め、さらには養殖で新たな収益源を創出する。各事業が相互に連携し、リスクを分散させながら、グループ全体の収益を最大化する構造が確立されています。

 

24億円を超える巨額の利益剰余金は、同社がこのビジネスモデルを構築するために、冷蔵・加工工場といった大規模な設備投資を、自己資金で着実に行ってきたことを物語っています。

 

この「伝統的な卸売機能」と「先進的な製造・養殖・サステナビリティ」の融合こそが、山津水産の最大の強みです。


しかし、その事業には、水産業界共通の課題も存在します。
第一に、「天然資源の不確実性」です。地球温暖化による海水温の上昇や海洋環境の変化は、魚の獲れる場所、時期、種類を大きく変えてしまいます。これに対応するためには、国内外の幅広い調達ネットワークと、養殖事業のような安定供給源の確保がますます重要になります。

 

第二に、「国内の魚食文化の変化」です。若者を中心に魚離れが指摘される一方、健康志向の高まりから魚食が見直される動きもあります。この変化を的確に捉え、「骨がなくて食べやすい」「調理が簡単」といった、現代の消費者に響く商品を開発し続ける必要があります。

 

今後の展望として、山津水産は、この垂直統合モデルをさらに進化させていくでしょう。
佐渡荒海サーモン」のような自社ブランド養殖魚は、大きな成長ポテンシャルを秘めています。生産量を拡大し、全国の食卓へ届けることで、卸売、加工に次ぐ第三の収益の柱へと育てていくことが期待されます。また、MSC/ASC認証という「お墨付き」を最大限に活用し、環境意識の高い大手スーパーや、海外市場への販路を拡大していくことも、重要な成長戦略となります。

 

「漁師さんから受け取った海の恵みのバトンを皆様の食卓へ届けるリレー」。そのバトンは、今や自ら育て、未来の資源を守りながら渡すものへと進化しています。山津水産は、140年の歴史を持つ老舗でありながら、同時に、未来の水産業のあり方を創造するチャレンジャーでもあります。その力強い歩みに、今後も目が離せません。

 

企業情報
企業名: 山津水産株式会社

本社所在地: 新潟市江南区茗荷谷711番地 新潟市中央卸売市場 中央棟3F

代表者: 代表取締役社長 岡本 博

事業内容: 新潟市中央卸売市場を拠点とする水産物の総合企業。市場での卸売を中核としながら、冷蔵・加工(山津冷蔵食品)、物流(ヤマツサービス)などを担うグループ会社との連携により、サプライチェーンを一貫して手掛ける。近年は「佐渡荒海サーモン」などの養殖事業や、MSC/ASCといった国際的な環境認証の取得にも力を入れている。

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