コンビニエンスストアの弁当や惣菜、スーパーマーケットのサラダやフルーツ、カフェで手にするテイクアウト用のカップ。私たちの現代の食生活は、衛生的で利便性の高いプラスチック製の食品容器なしには成り立ちません。普段、当たり前のように使い、そして捨てているこれらの容器ですが、その背後には、食の「安心・安全・便利」を支える巨大な生産インフラと、高度な製造技術が存在します。今回は、埼玉県八潮市に本社を構え、半世紀以上にわたって食品包装用プラスチック容器の製造を手掛けてきた専門メーカー、竹内産業株式会社の決算を分析。「原料投入から製品出荷まで」の一貫生産体制を武器に、業界をリードする同社の強さと、その財務戦略に迫ります。

【決算ハイライト(第59期)】
資産合計: 15,026百万円 (約150.3億円)
負債合計: 10,240百万円 (約102.4億円)
純資産合計: 4,785百万円 (約47.9億円)
当期純利益: 631百万円 (約6.3億円)
自己資本比率: 約31.8%
利益剰余金: 4,735百万円 (約47.4億円)
【ひとこと】
総資産150億円を超える大きな事業規模で、6億円を超える高い当期純利益を確保している点が目を引きます。これは、同社の強力な生産能力と収益性の高さを物語っています。自己資本比率31.8%は製造業として標準的な水準ですが、その背景には、成長を続けるための積極的な設備投資戦略が見て取れます。
【企業概要】
社名: 竹内産業株式会社
設立: 1966年7月
事業内容: 食品包装用プラスチックシート、カップ、容器の製造・販売
【事業構造の徹底解剖】
竹内産業のビジネスは、食品を安全に包み、その価値を消費者に届けるためのプラスチック容器製造に特化しています。その競争力の源泉は、企画から出荷までを一気通貫で行う、強力な「一貫生産体制」にあります。
✔一貫生産体制
同社の最大の強みは、原料となるプラスチックペレットから製品の元となるシートを作り出し(押出成形)、そのシートを様々な形の容器に加工(真空・圧空成形)し、出荷するまで、ほぼ全ての工程を自社工場内で行っている点です。これにより、外部の協力会社に依存することなく、品質・コスト・納期(QCD)を自社で完全にコントロールできます。この体制が、時間とコストのロスをなくし、常に質の高い製品を安定して顧客に供給することを可能にしています。
✔圧倒的な生産力
1966年の創業以来、栃木県足利市や群馬県太田市に複数の大規模工場を次々と新設・増強してきた歴史が、同社の生産能力の高さを物語っています。最新鋭の設備が揃う大型工場群は、コンビニやスーパーといった大手顧客からの大量発注に確実に応えるための基盤であり、同社の「可能にする生産力」を象徴しています。
✔顧客ニーズに応える開発力
同社のものづくりは、顧客の「こんな製品がほしい」という要望からスタートします。経験豊富なスタッフが製品企画の段階から深く関与し、使いやすさ、見た目の美しさ、物流効率などを考慮した最適な容器を提案。業界の最前線で培ってきた知見と技術を活かし、顧客のニーズに的確に応える開発力を有しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
6億円超の利益という高い収益性は、同社の積極的な投資戦略と、それを支える外部環境の結果と言えます。
✔外部環境
女性の社会進出や単身世帯の増加、ライフスタイルの多様化などを背景に、調理済み食品を購入して家庭で食べる「中食(なかしょく)」市場は、拡大の一途をたどっています。これは、同社が製造する食品容器にとって、極めて強力な追い風です。一方で、世界的な課題となっているプラスチックごみ問題や、脱炭素化への要請は、同社にとって無視できない大きな経営課題です。また、原油価格に連動する原材料価格の高騰は、常に収益を圧迫するリスク要因となります。
✔内部環境
貸借対照表を見ると、総資産約150億円のうち、工場や生産設備といった固定資産が約97億円と、3分の2近くを占めています。これは、沿革にある通り、数年おきに工場を新設・リニューアルしてきた、継続的かつ積極的な設備投資の結果です。この最新鋭の生産設備こそが、高品質な製品を効率的に大量生産し、高い収益を生み出す源泉となっています。負債合計が約102億円と大きいのも、これらの成長投資を支えるための金融機関からの借入金などが主因と推測されます。稼いだ利益を内部留保(利益剰余金は約47億円)として蓄積しつつも、それを上回るペースで次なる成長のための投資を行う、典型的な成長企業の財務戦略が見て取れます。
✔安全性分析
自己資本比率31.8%は、これだけ大規模な設備投資を続けている製造業としては、健全な範囲内と言えます。6億円を超える純利益を生み出す高い収益力は、借入金の返済能力が十分にあることを示しています。また、短期的な支払い能力を示す流動比率も約203%(5,334百万円 ÷ 2,629百万円)と200%を超えており、資金繰りにも全く問題はありません。成長のための積極的な投資と、それを許容する財務規律のバランスが取れた経営が行われています。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・原料から製品までの一貫生産体制による、品質・コスト・納期の管理能力
・継続的な設備投資によって構築された、業界トップクラスの生産能力
・半世紀以上にわたる実績と、大手食品メーカーや流通業界からの信頼
・中食市場の成長という、安定した事業環境
・高い収益性と、成長投資を支える財務戦略
弱み (Weaknesses)
・積極投資の結果としての、比較的高水準な有利子負債
・事業がプラスチック製品に集中しており、素材の代替リスクがある
機会 (Opportunities)
・中食市場のさらなる拡大と、それに伴う高機能・多様な食品容器へのニーズ
・バイオマスプラスチックやリサイクルPETなど、環境配慮型素材への転換による、企業イメージ向上と新たな付加価値の創出
・食品業界以外(医療、化粧品など)への、成形技術の応用展開
脅威 (Threats)
・世界的な「脱プラスチック」の潮流と、それに伴う法規制の強化
・原油価格高騰による、原材料費の急激な上昇
・同業他社や、紙など代替素材メーカーとの競争激化
・人手不足や物流コストの上昇
【今後の戦略として想像すること】
成長を続ける竹内産業ですが、今後は「環境」というキーワードが経営の最重要テーマとなっていくことが予想されます。
✔短期的戦略
まずは、原材料価格の高騰に対応するため、生産プロセスのさらなる効率化や、顧客への適切な価格転嫁交渉を進め、高い収益性を維持することが重要になります。同時に、顧客である食品メーカーなどと連携し、よりリサイクルしやすい容器の設計や、軽量化によるプラスチック使用量の削減といった、現実的な環境対応を推進していくでしょう。
✔中長期的戦略
企業の持続的な成長のためには、「脱プラスチック」という社会的な要請への本格的な対応が不可欠です。植物由来のバイオマスプラスチックや、使用済みペットボトルを原料とするリサイクルPET素材などを活用した、環境配慮型製品の開発と量産体制の構築を加速させていくと考えられます。これにより、「便利で安全」という従来の価値に加え、「環境にやさしい」という新たなブランド価値を確立し、競合他社との差別化を図ります。
【まとめ】
竹内産業株式会社は、単なるプラスチック容器メーカーではありません。それは、日本の豊かな食生活と、便利なライフスタイルを根底から支える、社会インフラ企業の一つです。6億円超という高い利益は、同社が時代のニーズを的確に捉え、積極的な設備投資を通じて成長を続けてきた力強い証です。一方で、世界は今、プラスチックとの付き合い方を問い直す大きな転換期を迎えています。これまで培ってきた高い技術力と生産力を武器に、この「環境」という大きな課題を乗り越え、持続可能な社会に貢献する企業へと進化していくことができるか。竹内産業の次なる挑戦に、大きな期待が寄せられます。
【企業情報】
企業名: 竹内産業株式会社
所在地: 埼玉県八潮市八潮七丁目46番地1
代表者: 代表取締役 竹内 範昭
設立: 1966年7月
資本金: 5,000万円
事業内容: 食品包装用プラスチックシート、カップ、容器の製造・販売