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#3998 決算分析 : 株式会社パソナHS 第40期決算 当期純利益 76百万円

日本の通信インフラを支える巨大企業、NTTグループ。その安定した事業運営の裏側では、ネットワークの設計・構築から保守・運用、顧客対応に至るまで、多種多様な専門知識を持つ多くの人材が活躍しています。一方で、働き方が多様化する現代において、企業が必要とするスキルと個人が持つ能力を最適に結びつける人材サービスの役割は、社会にとってますます重要性を増しています。特に、長年の経験で培われたベテランの知見を、いかにして次代のプロジェクトに活かしていくかは、多くの企業が直面する課題です。

今回は、NTTグループへの人材サービス提供を強みとし、通信・IT分野に特化したビジネスを展開する株式会社パソナHSの決算を読み解きます。NTTの子会社から総合人材サービス大手パソナグループの一員へというユニークな変遷を持つ同社のビジネスモデルと、その極めて安定した経営の秘密に迫ります。

パソナHS決算

【決算ハイライト(第40期)】
資産合計: 3,880百万円 (約38.8億円)
負債合計: 872百万円 (約8.7億円)
純資産合計: 3,006百万円 (約30.1億円)

当期純利益: 76百万円 (約0.8億円)

自己資本比率: 約77.5%
利益剰余金: 2,906百万円 (約29.1億円)

【ひとこと】
まず注目すべきは、自己資本比率が77.5%という驚異的な高さです。総資産約38.8億円のうち、約30.1億円が返済不要の自己資本で構成されており、財務基盤は盤石そのものです。人材サービス業という比較的少ない資本で運営可能な業態とはいえ、この数値は同社の堅実な経営姿勢と高い収益の蓄積を物語っています。

【企業概要】
社名: 株式会社パソナHS
設立: 1985年4月26日
株主: 株式会社パソナ (100%)
事業内容: 労働者派遣事業、有料職業紹介事業、アウトソーシング受託事業、コンサルティング事業

www.pasona-hs.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
株式会社パソナHSの事業は、NTTグループを主軸顧客とした「人材サービス事業」に集約されます。労働者派遣を中核に、正社員転職支援や業務のアウトソーシングなどを通じて、企業の人的課題の解決と、個人のキャリアプラン実現を支援しています。その事業構造には、他社にはないユニークな強みが存在します。

NTTグループ特化という出自と専門性
同社のルーツは、1985年にNTT等の出資により設立された「総合通信エンジニアリング株式会社」であり、その後「NTTヒューマンソリューションズ株式会社」としてNTTの100%子会社でした。この経緯から、NTTグループ各社の事業内容、企業文化、そして求められる専門スキルを熟知しています。これにより、求職者と派遣先企業とのミスマッチが極めて少なく、精度の高いマッチングサービスを提供できるのです。特に、通信インフラの設計・構築・保守といった高度な専門性が求められる業務への人材提供は、同社ならではの強みです。

✔NTT-OB・シニア人材の活用という独自性
同社は、長年のキャリアで培われた専門知識やノウハウを持つNTT-OBや通信建設会社のOBのセカンドキャリア支援に注力しています。現役時代に培った経験を活かし、設備調査、施工管理、営業支援、技術コンサルティングなど、即戦力として活躍できる場を提供しています。これは、貴重な技術や経験を社会全体で継承していくという点でも大きな社会的意義を持ち、同社の独自性を際立たせる特徴となっています。

パソナグループとしての総合力
2017年より総合人材サービス大手のパソナグループの一員となったことで、新たな強みが加わりました。NTTグループという専門領域に加え、パソナが持つ多様な業界・職種のネットワークと豊富な求人案件を活用できます。これにより、求職者に対してはキャリアの選択肢を広げ、企業に対してはより幅広い人材ニーズに応えることが可能となり、事業の安定性と成長性を両立させるシナジー効果を生んでいます。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
少子高齢化による生産年齢人口の減少は、日本の労働市場における構造的な課題です。多くの企業で人材不足が深刻化する中、必要なスキルを持つ人材を迅速に確保できる人材サービスへの需要は、今後も堅調に推移すると予想されます。特に、社会全体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化の流れは、同社が得意とするIT・通信分野の専門人材への需要を強力に後押ししています。一方で、労働者派遣法の改正など、労働関連法規の動向が事業環境に影響を与える可能性には、常に注意が必要です。

✔内部環境
NTTグループという巨大かつ安定した顧客基盤を持つことが、経営の安定性に大きく寄与しています。特定の企業グループに深く、長く食い込むことで、景気の変動に左右されにくいレジリエントな収益構造を構築していると言えます。また、パソナグループの一員であることで得られるブランドイメージ、全国規模の営業ネットワーク、そして人材管理のノウハウは、同社の競争力をさらに高める大きなアドバンテージとなっています。

✔安全性分析
自己資本比率77.5%という数値は、企業の財務安全性が「極めて高い」レベルにあることを示します。負債合計が約8.7億円であるのに対し、それをはるかに上回る約30.1億円の純資産を有しており、実質的に無借金経営に近い状態です。利益剰余金も約29.1億円と潤沢に積み上がっており、これは将来の不測の事態への備えとなるだけでなく、新規事業への投資やM&Aといった成長戦略を実行するための強力な原資となります。この鉄壁の財務基盤があるからこそ、長期的な視点に立った人材育成や、安定したサービスの提供が可能となっているのです。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
NTTグループとの歴史に裏打ちされた強固なリレーションシップと深い業界知識
・通信・IT分野における専門性の高い人材のマッチング能力
・NTT-OBをはじめとする経験豊富なシニア人材の活用ノウハウとネットワーク
パソナグループの一員であることによる総合力、ブランド力、全国規模のネットワーク
自己資本比率77.5%という磐石な財務基盤

弱み (Weaknesses)
NTTグループへの売上依存度が高く、同グループの経営方針や事業再編の影響を受けやすい可能性
・景気後退局面における企業の採用意欲の低下が、業績に直結しやすい事業構造

機会 (Opportunities)
・5Gの普及やDX推進に伴う、IT・通信系エンジニアの継続的な需要拡大
・働き方の多様化(リモートワーク、副業など)に対応した新たな人材サービスの創出
・定年延長や高齢者雇用促進法の後押しによる、シニア人材活用市場のさらなる拡大
パソナグループ内の他事業(地方創生、ヘルスケア等)との連携による新規サービスの展開

脅威 (Threats)
・労働者派遣法などの労働関連法規の改正による、コンプライアンスコストの増加や事業運営への制約
・IT人材の獲得競争の激化と、それに伴う採用・教育コストの上昇
・特定のプラットフォームを介したギグワーカーやフリーランスとの競合
・国内外の経済情勢の急変による、企業全体の派遣需要の冷え込み


【今後の戦略として想像すること】
この事業特性と強固な財務基盤を踏まえ、株式会社パソナHSは今後、以下のような戦略を展開していくことが予想されます。

✔短期的戦略
引き続き、NTTグループ内で加速するDX化や、5G/6Gといった次世代通信網の構築プロジェクトに対応できる専門人材の育成と派遣を強化していくでしょう。オンライン研修プログラムなどを充実させ、登録スタッフのスキルアップを支援することで、提供する人材の付加価値とサービス単価の向上を目指します。また、NTT-OB向けには、豊富な経験を活かせるプロジェクトマネジメントや若手への技術指導といった、より高度なコンサルティング案件の創出に注力すると考えられます。

✔中長期的戦略
NTTグループで培った通信・IT分野での人材サービス提供ノウハウを、電力・ガス・交通といった他の社会インフラ業界や、DX化が急務となっている製造業、金融業などへ横展開していくことが期待されます。また、パソナグループが推進する地方創生事業と連携し、各地域におけるIT人材の育成や、U・Iターン転職支援といった新たな事業領域を開拓していく可能性も十分に考えられます。


【まとめ】
株式会社パソナHSは、単なる人材派遣会社という枠には収まりません。それは、日本の通信インフラの根幹を支えるNTTグループと、そこで働く高度な専門家たちを最適に結びつける、極めて専門性の高いヒューマン・ソリューション・プロバイダーです。NTTグループの子会社であった「出自」と、総合人材サービスのパソナグループの「現在の立ち位置」、この二つの強力なDNAを融合させ、他に類を見ない独自のポジションを確立しています。

今回の決算で明らかになった磐石な財務基盤は、長年にわたる堅実な経営の証です。これからも日本の通信・IT業界の発展を人材という側面から力強く支え、多様な人々がその能力を最大限に発揮できる社会の実現に貢献していくことが期待されます。


【企業情報】
企業名: 株式会社パソナHS
所在地: 東京都港区南青山3-1-30
代表者: 代表取締役社長 八木 孝子
設立: 1985年4月26日
資本金: 100百万円
事業内容: 労働者派遣事業、有料職業紹介事業、紹介予定派遣事業、アウトソーシング受託事業、コンサルティング事業及びそれに付帯する業務
株主: 株式会社パソナ (100%)

www.pasona-hs.co.jp

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