いつでも、どこでもスマートフォンが繋がる。私たちはその利便性を当たり前のように享受していますが、その裏側では、無数の無線基地局や光ファイバー網といった巨大なインフラが社会を支えています。この情報通信インフラを実際に「創り」「守る」のが、総合エンジニアリング企業の役割です。大阪に本社を構える株式会社ミライト・モバイル・ウエストは、モバイルネットワークの構築を主軸としながら、太陽光発電やEV充電設備といった脱炭素社会のインフラ整備まで手掛ける、未来志向の技術者集団です。
今回は、大手エンジニアリング企業ミライト・ワン グループの一翼を担う同社の決算を読み解き、その強固な財務基盤と、社会の変化に対応する多角的な事業戦略に迫ります。
【決算ハイライト(53期)】
資産合計: 5,270百万円 (約52.7億円)
負債合計: 1,871百万円 (約18.7億円)
純資産合計: 3,399百万円 (約34.0億円)
当期純利益: 309百万円 (約3.1億円)
自己資本比率: 約64.5%
利益剰余金: 3,336百万円 (約33.4億円)
【ひとこと】
売上高111億円を超える事業規模でありながら、自己資本比率が64.5%と極めて高く、非常に健全な財務体質を誇ります。3億円以上の当期純利益を着実に確保しており、安定した収益力も兼ね備えています。ミライト・ワン グループの中核企業として、優良な経営が行われていることがうかがえます。
【企業概要】
社名: 株式会社ミライト・モバイル・ウエスト
設立: 1973年4月2日
株主: 株式会社ミライト・ワン グループ
事業内容: モバイルネットワーク、通信インフラ、環境・社会イノベーション、ICTソリューションに関する総合エンジニアリング事業
【事業構造の徹底解剖】
株式会社ミライト・モバイル・ウエストは、創業50年の歴史を持つ総合エンジニアリング企業です。その事業は、現代社会に不可欠な4つの領域を柱としています。
✔モバイルネットワーク事業
5G通信網の構築をはじめとする、携帯電話の無線基地局の設置工事が事業の主力です。土地所有者との折衝から、鉄塔の設計・建設、アンテナや無線設備の設置、電波の発射試験、そして運用開始後の保守まで、基地局に関わる全工程をワンストップで提供。私たちの「いつでも繋がる」という日常を物理的に創り上げています。
✔通信インフラ事業
モバイル通信だけでなく、固定通信のインフラも支えています。オフィスビルやマンション内の光ファイバー配線、企業向けのIPネットワークの構築、データセンターの電源設備工事など、情報化社会の基盤となる幅広い通信インフラの整備を手掛けています。
✔環境・社会イノベーション事業
脱炭素社会の実現に貢献する、成長著しい事業分野です。メガソーラーなどの太陽光発電設備の建設、商業施設や集合住宅へのEV(電気自動車)充電設備の設置工事、再生可能エネルギーの安定供給に不可欠な蓄電池システムの構築など、未来のエネルギーインフラを創造しています。
✔ICTソリューション事業
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)をインフラ面から支援します。高速で安全なLAN/WAN設備の構築、サーバーシステムの設置、情報セキュリティ対策など、ハードウェアの工事に留まらず、企業のビジネスを支える高度なICT基盤の構築を担っています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
5G通信のエリア整備は全国的に継続しており、今後始まる6Gも見据えた通信インフラへの投資は、同社の主力事業にとって安定した需要をもたらします(機会)。また、政府が推進するDX化やカーボンニュートラル政策は、ICTソリューション事業や環境・社会イノベーション事業にとって強力な追い風です。一方で、通信キャリア各社の設備投資計画の変動がモバイルネットワーク事業の業績に影響を与えるリスクも存在します。
✔内部環境
創業50年で培った通信インフラ工事に関する高度な技術力と、多岐にわたる工事を安全かつ確実に遂行するプロジェクトマネジメント能力が最大の強みです。また、親会社であるミライト・ワン グループの信用力と広範なネットワークにより、大規模で複雑なプロジェクトへの参画も可能となっています。モバイル通信からエネルギー、ICTまで事業を多角化することで、特定の市場の変動に左右されにくい、安定した収益構造を構築しています。
✔安全性分析
自己資本比率64.5%は、建設・エンジニアリング業界において非常に高い水準です。これは、借入金への依存度が低く、事業で得た利益を着実に内部留保(利益剰余金 約33億円)として蓄積してきた、健全な財務運営の証です。総資産約53億円に対し、純資産が約34億円と厚く、財務基盤は極めて盤石。この財務的な安定性があるからこそ、大規模なインフラ工事案件を確実に遂行できるのです。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・ミライト・ワン グループの一員としての高い信用力、技術力、広範なネットワーク
・モバイル通信から再生可能エネルギーまで、リスク分散された多角的な事業ポートフォリオ
・創業50年で培われた豊富な施工実績と、プロジェクトを完遂する技術力
・自己資本比率64.5%が示す、極めて強固で安定した財務基盤
弱み (Weaknesses)
・主力事業が通信キャリアの設備投資計画に影響されやすい点
・技術者の確保と育成が事業成長の鍵となる、労働集約型のビジネスモデル
機会 (Opportunities)
・5Gの高度化やBeyond 5G/6Gに向けた、継続的なモバイルインフラ投資
・企業のDX化投資の拡大に伴う、ICTインフラ構築ニーズの増加
・カーボンニュートラル実現に向けた、再生可能エネルギーやEV関連インフラ市場の急成長
脅威 (Threats)
・通信キャリアによる設備投資の抑制や見直しのリスク
・建設資材価格の高騰による利益率の圧迫
・建設・通信業界全体における、深刻な技術者不足と人件費の上昇
【今後の戦略として想像すること】
強固な事業基盤と時代の追い風を受け、同社はさらなる事業領域の拡大と深化を目指していくと考えられます。
✔短期的戦略
5G通信網のエリア拡大と品質向上に関する工事需要を確実に捉え、主力事業の安定成長を図るでしょう。同時に、企業の旺盛なDX化ニーズに応えるため、ICTソリューション事業の体制を強化し、より高度なネットワーク構築案件の受注拡大を目指すことが予想されます。
✔中長期的戦略
「環境・社会イノベーション事業」を、モバイルネットワーク事業に次ぐ第二の柱として本格的に育成していくことが期待されます。太陽光発電やEV充電インフラのEPC(設計・調達・建設)だけでなく、完成後のO&M(運用・保守)までを一貫して手掛けることで、長期安定収益(ストック型収益)の割合を高めていくでしょう。将来的には、ミライト・ワン グループ全体で推進するスマートシティ構想など、通信、エネルギー、ICTの技術を融合させた、より大規模で複合的なプロジェクトの中核を担っていく可能性があります。
【まとめ】
株式会社ミライト・モバイル・ウエストは、単なる通信工事会社ではありません。5G通信網から再生可能エネルギー設備まで、現代社会と未来の社会に不可欠なインフラを構築する「総合エンジニアリング企業」です。64.5%という高い自己資本比率が示す鉄壁の財務基盤を土台に、着実な成長を続けています。
これからも、ミライト・ワン グループの中核企業として、5Gの先にある未来の通信社会と、脱炭素化された持続可能な社会の両方を「創り」「守る」という重要な役割を担い、私たちの暮らしを支え続けていくことが期待されます。
【企業情報】
企業名: 株式会社ミライト・モバイル・ウエスト
所在地: 大阪市浪速区幸町二丁目2番13号
代表者: 代表取締役社長 鎌田 智誠
設立: 1973年4月2日
資本金: 6,000万円
事業内容: モバイルネットワーク、通信インフラ、環境・社会イノベーション、ICTソリューションに関する総合エンジニアリング事業
株主: 株式会社ミライト・ワン グループ