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#3620 決算分析 : ドルビックスコンサルティング株式会社 第5期決算 当期純利益 210百万円

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が、企業の成長戦略において必須のキーワードとなって久しいですが、多くの日本企業はいまだその実現への険しい道のりに苦しんでいます。「立派な戦略を描いてもらったが、現場が動かず実行されない」「ITベンダーに開発を丸投げしてしまい、結局望んだ成果が出なかった」。こうしたコンサルティングの"あるある"に、苦い経験を持つ経営者は少なくないでしょう。

しかし、もし、世界中にリアルな事業資産を持ち、サプライチェーンの現場の痛みを知り尽くした「総合商社」が、本気でコンサルティングファームを創設したらどうなるでしょうか。机上の空論ではない、泥臭い実行力とグローバルな知見を兼ね備えた、企業変革の新たな選択肢が生まれるかもしれません。今回は、大手総合商社・丸紅が100%株主として2020年に設立した、新進気鋭のコンサルティングファーム「ドルビックスコンサルティング株式会社」の決算を分析。設立以来の赤字から脱却し、大きな黒字を達成したV字回復の背景と、「商社×コンサル」というユニークなDNAがもたらす新たな価値に迫ります。

ドルビックスコンサルティング決算

【決算ハイライト(5期)】
資産合計: 1,775百万円 (約17.8億円)
負債合計: 1,097百万円 (約11.0億円)
純資産合計: 679百万円 (約6.8億円)
当期純利益: 210百万円 (約2.1億円)

自己資本比率: 約38.3%
利益剰余金: ▲61百万円 (約▲0.6億円)

【ひとこと】
設立以来の累積損失(前期末時点で約▲2.7億円と推察)を吹き飛ばす、2.1億円という力強い当期純利益を計上し、見事な黒字転換を達成しました。自己資本比率も約38.3%と健全な水準を維持しており、事業が本格的な成長軌道に乗ったことを示す、非常にポジティブな決算内容です。

【企業概要】
社名: ドルビックスコンサルティング株式会社
設立: 2020年12月21日
株主: 丸紅株式会社(100%)
事業内容: デジタルトランスフォーメーション(DX)支援を中心とした総合コンサルティングサービスの提供

www.dolbix.com


【事業構造の徹底解剖】
ドルビックスコンサルティングの事業は、企業の変革を支援する「総合コンサルティングサービス」です。そのサービスメニューは、戦略策定、M&A支援、組織・人事改革、サステナビリティ(SX)、デジタルイノベーションなど、大手総合系ファームと遜色のない幅広さを誇ります。しかし、同社を他社と一線を画す存在にしているのは、その成り立ち、すなわち「商社のDNA」です。

✔ビジネスモデルの独自性:「商社×コンサル」がもたらす3つの価値
同社の強みは、伝統的なコンサルティングファームが持つ論理的思考や分析能力に、総合商社・丸紅が持つリアルな事業資産と知見を掛け合わせている点にあります。
・① リアルな事業資産の活用: 丸紅グループは、穀物、電力、金属、化学品、輸送機、プラントなど、世界中で多種多様な事業を展開しています。ドルビックスは、これらのリアルな事業現場を、クライアント企業のDX実証実験(PoC)のテストベッドとして提供することが可能です。これは、会議室で理論をこねるだけでは得られない、圧倒的な強みとなります。
・② 「絵に描かない餅」の実装力: 同社のコンサルタントは、大手ファーム出身の戦略家と、事業の現場を知る事業会社出身者で構成されています。そのため、戦略を構想するだけでなく、丸紅のネットワークを活かしたアライアンス先の紹介、システムの設計・開発、そして実際の事業化までを一気通貫で支援。「結果にコミットする」というバリューを掲げ、最後までクライアントに伴走します。
・③ グローバルなインダストリー知見: 総合商社として160年以上にわたり世界中の産業の潮目を読んできた丸紅の知見は、コンサルティングの質を大きく高めます。地政学リスクやサプライチェーンの再編、新たな技術トレンドといったマクロな視点から、クライアントが取るべき戦略を的確に提言できるのです。

社名の「DOLBIX」は、「Digital Transformation」と、ラテン語羅針盤を意味する「ORBIS」を組み合わせた造語です。まさに、DXの大海原で迷う企業にとっての「羅針盤」となることを目指しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
設立5期目での黒字転換は、この「商社×コンサル」というビジネスモデルの有効性が市場に受け入れられ始めた証左と言えるでしょう。

✔外部環境
あらゆる業界でDXの必要性が叫ばれ、さらに近年ではサステナビリティ経営(SX)への対応も待ったなしの状況です。企業の変革を支援するコンサルティング市場は、今後も長期にわたり拡大が見込まれる巨大なマーケットです。これは、同社にとって最大の事業機会です。一方で、大手外資系ファームや国内総合系ファーム、ITベンダーなど、競合は数多く存在し、競争は熾烈です。また、コンサルティングビジネスの生命線は「人材」であり、優秀なコンサルタントの獲得競争は常に大きな経営課題となります。

✔内部環境
丸紅の100%子会社という出自は、絶大なブランド力と信用力をもたらします。これにより、設立間もないファームでありながら、大企業の大型プロジェクトにアクセスしやすいという大きなアドバンテージを持っています。今回の黒字化によって、事業モデルの収益性が証明されたことも、今後の成長に向けた大きな自信となるでしょう。

✔安全性分析
財務の安全性は、今回の黒字化によって大きく向上しました。自己資本比率38.3%は、企業の健全性を示す一つの目安である40%に迫る水準であり、安定した経営基盤が整いつつあることを示しています。利益剰余金はまだわずかにマイナス(▲0.6億円)ですが、これは設立初期の先行投資期間の赤字が残っているためです。前期末時点では約▲2.7億円の累積損失があったと推察されることから、今期の2.1億円の利益がいかに大きいかがわかります。この収益性を維持できれば、来期には利益剰余金もプラスに転じ、名実ともに健全な財務状態となるでしょう。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・丸紅グループの100%子会社としての絶大なブランド力、信用力、そしてグローバルな事業資産
・「商社×コンサル」という、他社にはない明確でユニークなバリュープロポジション
・戦略策定から、泥臭い実行・事業化までを一気通貫で支援できる実装力
・事業者目線とコンサル目線を併せ持つ、多様なバックグラウンドを持つ人材構成

弱み (Weaknesses)
・設立から日が浅く、業界内でのプロジェクト実績やブランド認知度がまだ発展途上であること
・ビジネスの成長が、採用・育成できる優秀なコンサルタントの数に制約される点
・現時点では、親会社である丸紅からの案件紹介などへの依存度が高い可能性

機会 (Opportunities)
・DX(デジタルトランスフォーメーション)、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)という、今後も長期にわたり拡大が見込まれる巨大な市場
・親会社のリアルな事業資産を活用した、大企業向けの大型・長期的な変革プロジェクト獲得の可能性
M&Aなどを通じた、提供可能なコンサルティング領域のさらなる拡大

脅威 (Threats)
・大手外資系・国内系コンサルティングファームとの、熾烈な競争環境
・AI(特に生成AI)の進化による、資料作成や分析といった伝統的なコンサルティング業務の一部の自動化・代替リスク
・日本の景気後退に伴う、企業のIT・コンサルティング投資の抑制
・プロジェクトの失敗などが引き起こす、レピュテーション(企業の評判)の毀損リスク


【今後の戦略として想像すること】
見事な黒字転換を果たしたドルビックスコンサルティングは、今後、本格的な成長フェーズへと移行していくことが予想されます。

✔短期的戦略
事業が成長軌道に乗った今、さらなる拡大のボトルネックとなるのは「人材」です。コンサルティング業界で実績のある中途人材の採用を加速させるとともに、丸紅グループ内からの出向なども活用し、「商社×コンサル」のハイブリッドなDNAを持つプロフェッショナル人材の育成に注力するでしょう。また、今回の黒字化を牽引したであろう成功プロジェクトのノウハウを形式知化し、他のクライアントや業界へ横展開することで、効率的に受注を拡大していくと考えられます。

✔中長期的戦略
中長期的には、コンサルティングファームの枠を超えた、新たな挑戦が期待されます。例えば、クライアント支援で培った知見を元に、特定の業界や業務に特化したSaaSプロダクトやデータ分析サービスを自社で開発・提供することです。これにより、労働集約的なコンサルティング業務に加え、スケールメリットのあるプロダクト事業を新たな収益の柱として育成することができます。さらには、丸紅グループのアセットを活用した新たなデジタルビジネスを自ら立ち上げる、「事業創造(インキュベーション)ファーム」への進化も視野に入れているかもしれません。


【まとめ】
ドルビックスコンサルティングは、大手総合商社・丸紅のDNAを受け継いで誕生した、新時代のコンサルティングファームです。今回の決算は、設立以来の赤字経営から脱却し、2億円超の力強い利益を上げる、見事なV字回復を示しました。その躍進の背景には、「机上の空論」を嫌う商社のリアルな事業資産と、コンサルティングファームの戦略的知見を融合させた、ユニークで強力な実行力があります。クライアントと共に汗をかき、変革を最後まで成し遂げる「伴走者」としての姿勢が、設立からわずか5年での黒字化を達成させた最大の原動力なのでしょう。

DX、そしてSXという大きな変革の波の中で、多くの日本企業が航路に迷う今、ドルビックスコンサルティングは、その名の通り、未来を指し示す確かな「羅針盤」となる可能性を秘めています。丸紅という巨人の肩の上から、彼らが描く次なる成長戦略に、大いに期待したいと思います。


【企業情報】
企業名: ドルビックスコンサルティング株式会社
所在地: 東京都中央区日本橋室町2-3-1 コレド室町2 10階
代表者: 代表取締役社長CEO 菅 隆之
設立: 2020年12月21日
資本金: 495百万円
株主: 丸紅株式会社(100%)
事業内容: 戦略策定、M&A支援、組織・人事改革、サステナビリティ(SX)、デジタルイノベーションなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)支援を中心とした総合コンサルティングサービスの提供

www.dolbix.com

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