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#2641 決算分析 : 株式会社三森屋 第80期決算 当期純利益 ▲152百万円

私たちの「働き方」が大きな変革期を迎える中、その舞台である「オフィス」の役割も劇的に変化しています。かつては単なる執務スペースでしたが、今やコミュニケーションを活性化させ、新たなアイデアを生み出すための戦略的な空間として再定義されています。このような時代の要請に応え、福岡を拠点に75年以上にわたって企業の「働く」を支え続けてきたのが株式会社三森屋です。戦後の文具店から始まり、現在ではオフィスの設計・施工からICT環境の構築までをワンストップで手掛けるまでに事業を進化させてきました。今回は、この老舗企業の決算を読み解き、現代のオフィスビジネスが直面する課題と、その未来への戦略を探ります。

今回は、福岡のオフィス環境構築をリードする、株式会社三森屋の決算を読み解き、その事業モデルと今後の展望をみていきます。

三森屋決算

【決算ハイライト(第80期)】
資産合計: 3,726百万円 (約37.3億円)
負債合計: 2,564百万円 (約25.6億円)
純資産合計: 1,161百万円 (約11.6億円)

当期純損失: 152百万円 (約1.5億円)

自己資本比率: 約31.2%
利益剰余金: 1,101百万円 (約11.0億円)

まず注目すべきは、売上高が70億円という大きな事業規模を誇りながら、当期は1.5億円の純損失を計上した点です。これは、原材料価格の高騰や競争の激化など、厳しい事業環境を反映している可能性があります。一方で、利益剰余金は約11億円の蓄積があり、自己資本比率も約31.2%を維持していることから、今回の損失を十分に吸収できる企業体力は保持していると見られます。

企業概要
社名: 株式会社三森屋
設立: 1955年 (創業: 1946年)
事業内容: オフィスの新築・移転サポート、オフィス設計・施工管理、オフィス消耗品・家具・ICT機器等の販売

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【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、顧客の「働く」に関するあらゆる課題を解決する「オフィス環境構築のワンストップサービス」に集約されます。単にモノを売るだけでなく、空間の設計から施工、アフターフォローまで一貫して手掛けることで、高い付加価値を生み出しています。

✔オフィスプランニング・設計施工事業
同社の事業の核であり、最も専門性が発揮される領域です。顧客の経営課題や働き方のビジョンをヒアリングし、最適なオフィス空間を提案します。一級建築士事務所としての登録や建設業許可も有しており、コンセプト設計から内装・電気工事、移転作業までを自社で管理・実行できる体制が最大の強みです。

✔オフィス関連用品販売事業
創業以来の事業であり、文具や事務用品といった消耗品から、オフィス家具、複合機やサーバーといったOA・ICT機器まで、オフィスで必要とされるあらゆる製品を取り扱っています。長年の取引で培った幅広い仕入先ネットワークを活かし、顧客の多様なニーズに応える安定した収益基盤となっています。

✔プロジェクトサポート事業
オフィスの新築や本社移転といった大規模なプロジェクトにおいて、顧客の担当者に代わって全体の進行管理を担うコンサルティングサービスです。複雑なタスクや多数の関係者を調整し、プロジェクトを成功に導くことで、顧客から高い信頼を得ています。

✔専門分野への特化
一般的なオフィスだけでなく、医療・福祉施設、学校、金融機関など、それぞれに特有の要件が求められる施設の家具や設備についても豊富なノウハウを有しています。多数の専門資格保有者が在籍しており、質の高い提案を実現しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
リモートワークの普及によりオフィスの役割が問い直される一方、「天神ビッグバン」に代表される福岡都市圏の活発な再開発は、オフィスの新設・移転需要を喚起しており、同社にとって大きな事業機会となっています。しかし、世界的なインフレによる建設資材や輸送費の高騰は、直接的に利益を圧迫する要因となります。働き方改革やDX推進の流れは、高機能なオフィス家具やICTソリューションへの投資を後押ししており、市場のニーズは多様化・高度化しています。

✔内部環境
売上高70億円に対して当期純損失という結果は、厳しいコスト環境を示唆しています。特に、設計・施工事業は資材費や人件費の変動に収益性が左右されやすく、緻密なプロジェクト管理と価格交渉力が求められます。創業75年以上の歴史で築いた顧客基盤と信頼、そして設計から販売までを一貫して手掛ける事業モデルが、厳しい競争環境における同社の強みとなっています。

✔安全性分析
自己資本比率は約31.2%であり、財務的な安定性は標準的なレベルと言えます。流動資産が約34.9億円あるのに対し、流動負債は約23.1億円で、短期的な支払い能力を示す流動比率は約151%と健全な水準を維持しています。また、約11億円の利益剰余金は、不測の事態に備えるための体力を示しており、今回の損失計上にもかかわらず、経営基盤は揺らいでいないと考えられます。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・創業75年以上の歴史と実績がもたらす高い信頼性と顧客基盤
・設計、施工、販売、プロジェクト管理までを一貫して提供できるワンストップ体制
一級建築士施工管理技士など多数の専門資格者が在籍する高い専門性
・福岡という成長市場に根差した地域密着型の強固な営業網

弱み (Weaknesses)
・資材価格の高騰など、外部のコスト要因に利益が左右されやすい収益構造
自己資本比率が突出して高いわけではなく、財務的な柔軟性に成長の余地がある
・専門人材の確保と育成が事業継続の鍵となる労働集約的な側面

機会 (Opportunities)
・働き方の多様化に伴う、コミュニケーション促進や生産性向上を目的としたオフィス改装需要
・天神ビッグバンなど、福岡都市圏の再開発に伴う大規模なオフィス新設・移転プロジェクト
・企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に伴うICTインフラ整備の需要拡大
SDGsウェルビーイングを重視した、環境配慮型・健康経営オフィスの提案機会

脅威 (Threats)
・建設資材、原材料、エネルギー価格の高騰による継続的なコスト圧力
・専門商社だけでなく、オフィス用品通販や設計事務所など、異業種を含めた競争の激化
・景気後退局面における企業の設備投資抑制の動き
・リモートワークの完全定着によるオフィス不要論や、オフィス面積の縮小トレンド


【今後の戦略として想像すること】
厳しい事業環境を乗り越え、持続的な成長を実現するためには、以下の戦略が考えられます。

✔短期的戦略
最優先課題は収益性の改善です。プロジェクトごとの採算管理をさらに徹底し、不採算案件をなくすこと、そしてDXツールを積極的に導入し、見積もりや施工管理の業務効率を上げることでコスト削減を図ることが急務です。また、専門性を活かした高付加価値提案により、価格競争からの脱却を目指す必要があります。

✔中長期的戦略
単にオフィスという「ハコ」を作るのではなく、顧客企業の生産性向上や人材確保といった経営課題を解決する「働き方コンサルティング」への事業の深化が求められます。福岡の再開発需要を確実に捉えるとともに、環境配慮や従業員の健康(ウェルビーイング)といった社会的な要請に応えるソリューションを開発・提供することで、新たな収益の柱を育てていくことが期待されます。


【まとめ】
株式会社三森屋は、単なるオフィス用品の販売会社ではありません。それは、福岡の地で75年以上にわたり、企業の根幹である「働く」という活動を、空間、モノ、サービスのすべてを通じて支えてきたトータルソリューションプロバイダーです。今期決算は、外部環境の厳しさから純損失となりましたが、同社が長年培ってきた専門性と信頼は揺るぎません。働き方の概念そのものが変わる変革期は、同社にとって最大のビジネスチャンスでもあります。今後、福岡の発展という追い風を捉え、企業の課題解決パートナーとしてその価値をさらに高めていくことが期待されます。


【企業情報】
企業名: 株式会社三森屋
所在地: 福岡市東区原田1丁目45-14
代表者: 森 満俊
設立: 1955年3月(創業:1946年3月)
資本金: 4,800万円
事業内容: オフィス新築・移転等のプロジェクトサポート業務、オフィス設計及び各種工事の施工・管理業務、オフィス消耗品、家具、什器、OA・ICT機器等の販売

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