急な病気や怪我をした時、あるいは高度な治療が必要になった時、地域に頼れる総合病院があるという安心感は、何物にも代えがたいものです。特に、高齢化が進む現代社会において、救急医療から専門的な手術、そして回復期のリハビリまでを担う中核病院の役割は、ますます重要になっています。
今回は、埼玉県久喜市を拠点に、地域医療の最前線を担う「新久喜総合病院」などを運営する、社会医療法人社団埼玉巨樹の会の決算を読み解きます。2016年に事業を継承して以来、積極的な投資で医療の質と規模を飛躍的に向上させてきた同法人の、ダイナミックな成長戦略と、それを支える健全な経営実態に迫ります。

【決算ハイライト(第8期)】
資産合計: 33,016百万円 (約330.2億円)
負債合計: 28,312百万円 (約283.1億円)
純資産合計: 4,703百万円 (約47.0億円)
売上高: 26,300百万円 (約263.0億円)(事業収益)
当期純利益: 365百万円 (約3.7億円)
自己資本比率: 約14.2%
利益剰余金: 3,853百万円 (約38.5億円)(繰越利益積立金)
まず注目すべきは、約263億円という非常に大きな事業収益(売上高)と、そこから約3.7億円の当期純利益を確保している点です。これは、同法人が提供する医療サービスへの高い需要と、効率的な病院運営が両立していることを示しています。自己資本比率は約14.2%と一見低めに見えますが、これは最新の医療機器や病棟建設といった巨額の設備投資を積極的に行っている結果であり、成長を目指す医療法人としては健全な財務内容と言えます。
企業概要
社名: 社会医療法人社団埼玉巨樹の会
事業内容: 埼玉県内における病院の運営(新久喜総合病院、所沢美原総合病院など)
グループ: 巨樹の会グループ
【事業構造の徹底解剖】
社会医療法人社団埼玉巨樹の会の強みは、全国規模の巨大医療グループ「巨樹の会グループ」の一員として、地域医療の課題に対し、大胆な投資と改革で応える実行力にあります。
✔地域医療の中核を担う高度急性期医療
同法人が運営する新久喜総合病院は、災害拠点病院や地域医療支援病院、埼玉県がん診療指定病院にも指定される、まさに地域医療の砦です。内科・外科系の多数の診療科を揃えるだけでなく、3テスラMRIや320列CT、放射線治療装置(リニアック)、さらには手術支援ロボット「ダビンチ」といった大学病院レベルの高度医療機器を積極的に導入。救急からがん治療、心臓血管外科や脳神経外科といった高難易度の手術まで、地域内で完結できる質の高い医療を提供しています。
✔切れ目のない医療を実現する回復期・リハビリテーション機能
同法人の特徴は、高度な急性期医療だけでなく、その後の回復を支えるリハビリテーションにも力を入れている点です。新久喜総合病院内にも大規模な回復期リハビリテーション病棟を設け、手術後の患者がスムーズに社会復帰・在宅復帰できるよう、一貫した医療を提供しています。この「急性期」と「回復期」のシームレスな連携が、高齢化社会において極めて重要な役割を果たしています。
✔「選択と集中」による積極的な設備投資戦略
沿革を見ると、2016年に事業を継承して以来、毎年のように病床数の増床、最新医療機器の導入、新棟の建設といった大規模な投資を継続していることがわかります。これは、地域の医療ニーズを的確に分析し、「がん」「脳卒中」「心疾患」といった主要な疾患領域や、救急、リハビリといった分野に経営資源を集中投下する、明確な成長戦略の表れです。
✔国内有数の医療グループ「巨樹の会」としてのシナジー
同法人は、福岡の池友会などを母体とする、全国に病院やリハビリテーション施設、看護学校などを展開する「巨樹の会グループ」の一員です。このグループに属することで、最新の医療技術や効率的な病院運営ノウハウの共有、医薬品や医療機器の共同購入によるコスト削減、そして全国からの優秀な医師・看護師のリクルートといった、数多くのメリットを享受しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本の医療業界は、高齢化による医療需要の増大という大きな追い風の中にあります。一方で、国の医療費抑制政策による診療報酬の改定は、病院経営にとって常に大きな変動要因となります。また、医師や看護師をはじめとする医療従事者の不足は、全国的な課題であり、人材の確保と定着が経営の生命線となっています。
✔内部環境
病院経営は、土地・建物や高額な医療機器など、巨額の固定資産を必要とする「装置産業」です。貸借対照表を見ても、総資産約330億円のうち、約235億円を有形固定資産が占めています。このビジネスモデルで安定した経営を行うには、病床稼働率を高め、高額な医療機器を効率的に運用することが不可欠です。同法人は、積極的な投資によって医療の質と魅力を高め、多くの患者から「選ばれる」ことで高い稼働率を維持し、収益を確保するという成長サイクルを確立しています。
✔安全性分析
自己資本比率約14.2%という数値は、一般企業と比較すれば低い水準ですが、大規模な設備投資を継続している医療法人としては標準的な範囲内です。重要なのは、約263億円の事業収益を上げ、安定的に利益(当期純利益約3.7億円)を生み出しているという事実です。医療という、景気変動の影響を受けにくい安定したキャッシュフローがあること、そして地域に不可欠な社会インフラとしての役割を担っていることが、その経営の安定性を裏付けています。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・「巨樹の会グループ」としての、豊富な資金力と高度な病院運営ノウハウ
・手術支援ロボット「ダビンチ」など、最新鋭の医療設備への積極的な投資
・急性期から回復期までをカバーする、一貫した医療提供体制
・災害拠点病院や地域医療支援病院など、地域における中核的な公的役割
弱み (Weaknesses)
・積極的な設備投資に伴う、比較的高い負債比率
・国の診療報酬改定に、経営が大きく影響される収益構造
機会 (Opportunities)
・地域の高齢化進展による、医療・リハビリテーション需要のさらなる増大
・医療DXの推進(オンライン診療、AI診断支援など)による、業務効率化と新たなサービス創出
・地域内での病診連携・病病連携のハブとしての役割強化
脅威 (Threats)
・医師、看護師、リハビリ専門職など、医療従事者の全国的な不足と獲得競争の激化
・診療報酬の大幅なマイナス改定
・医療訴訟のリスク
【今後の戦略として想像すること】
今後、同法人は地域における医療のリーダーシップをさらに強化していくと考えられます。
✔短期的戦略
導入した最新設備をフル活用し、がん治療や低侵襲手術(体に負担の少ない手術)など、専門性の高い分野での実績をさらに積み上げていくでしょう。地域のクリニックや他の病院との連携を密にし、紹介患者を積極的に受け入れることで、地域医療ネットワークのハブとしての地位を盤石なものにしていくことが予想されます。
✔中長期的戦略
長期的には、病院内での治療に留まらず、予防医療や在宅医療、介護分野へと事業領域を拡大していく可能性があります。「巨樹の会グループ」としては、埼玉県内の他のエリアへの進出や、新たな病院の開設・運営受託なども視野に入れているかもしれません。医療と介護、そしてリハビリを一体的に提供する、地域包括ケアシステムの中心的な担い手となることを目指していくでしょう。
【まとめ】
社会医療法人社団埼玉巨樹の会は、民間ならではのダイナミックな経営判断と積極的な設備投資によって、地域医療の質を飛躍的に向上させている、現代の医療界における改革者です。その決算書は、地域住民の命と健康を守るという社会的使命を果たすために、常に未来を見据えて挑戦を続ける、力強い意志の表れと言えます。
利益を追求するだけでなく、それを最新の医療として地域に還元する。この好循環を続けることで、同法人はこれからも埼玉県民にとって、なくてはならない希望の光であり続けることでしょう。
【企業情報】
企業名: 社会医療法人社団埼玉巨樹の会
所在地: 埼玉県久喜市上早見418番地1
代表者: 理事長 瓜生田 曜造
事業内容: 病院の運営(新久喜総合病院、所沢美原総合病院など)
グループ: 巨樹の会グループ