少子高齢化が急速に進む日本において、地域医療の持続可能性は喫緊の課題です。特に、急性期から回復期、そして在宅や緩和ケアへと至る「切れ目のない医療」の提供体制構築が求められています。
今回は、広島県西部エリアで脳神経外科やリハビリテーションを中心とした高度専門医療を提供し、「医経分離」という独自の経営手法で知られる「社会医療法人清風会」の第8期決算(2025年6月期)を読み解き、その強固な経営基盤と医療戦略について解説していきます。

【決算ハイライト(第8期)】
| 資産合計 | 4,811百万円 (約48.11億円) |
|---|---|
| 負債合計 | 3,157百万円 (約31.57億円) |
| 純資産合計 | 1,653百万円 (約16.53億円) |
| 当期純利益 | 385百万円 (約3.85億円) |
| 自己資本比率 | 約34.4% |
【ひとこと】
事業収益(売上高に相当)が6,050百万円に対し、当期純利益が385百万円と、利益率は約6.3%を記録しています。一般的に利益確保が難しいと言われる急性期・回復期医療において、この収益性は特筆すべき水準です。医経分離による効率的な経営が数字に表れていると言えるでしょう。
【企業概要】
企業名: 社会医療法人清風会
設立: 1991年7月(五日市記念病院開設)
理事長: 向田 一敏
事業内容: 五日市記念病院、廿日市記念病院の運営、在宅医療・介護事業等
【事業構造の徹底解剖】
同法人の事業は、急性期から看取りまでをカバーする「地域完結型医療モデル」に集約されます。これは、患者様のステージに合わせて最適な医療・ケアを提供するシステムです。具体的には、以下の3つの機能部門で構成されています。
✔急性期医療・高度専門医療(五日市記念病院)
脳神経外科を中心に、24時間体制の救急医療を提供する法人の基幹病院です。180床のうち107床を一般病棟(急性期)とし、脳卒中や循環器疾患の初期治療を担います。また、地域包括ケア病棟(33床)を併設し、急性期後の受け皿としての機能も果たしています。ここでは「断らない救急」を実践し、地域医療の砦としての役割を担っています。
✔回復期・慢性期・緩和ケア(廿日市記念病院)
急性期治療を終えた患者様に対し、集中的なリハビリテーションを行う回復期リハビリテーション病棟(60床)と、長期療養を目的とした医療療養病棟(28床)を有しています。さらに特筆すべきは、広島県内でも早い時期から取り組んでいる緩和ケア病棟(ホスピス・38床)の存在です。身体的な苦痛だけでなく、精神的なケアも含めた全人的な医療を提供しています。
✔管理本部(医経分離の中枢)
清風会の最大の特徴とも言えるのが、この管理本部です。「医療は現場(医師・医療職)、経営は管理本部」という明確な役割分担(医経分離)を行っています。企画、人事、労務、経理などの専門スタッフが両病院をバックアップすることで、医療職は診療に専念でき、同時に組織としてのガバナンスと収益性を高めることに成功しています。
【財務状況等から見る経営環境】
損益計算書と貸借対照表の数値から、同法人の経営環境を分析します。
✔外部環境
広島県においても高齢化が進み、脳卒中や心疾患などの救急搬送件数は増加傾向にあります。一方で、国の医療費抑制政策により、診療報酬の改定は厳しさを増しており、単なる病床数の確保だけでは生き残れない時代です。また、医療従事者の不足も全国的な課題であり、採用競争力の有無が経営を左右する環境にあります。
✔内部環境
損益計算書を見ると、事業収益6,050百万円に対し、事業費用は5,633百万円に抑えられています。これは、管理本部主導による徹底したコスト管理と業務効率化の成果と推測されます。事業外費用(支払利息など)も42百万円と限定的であり、借入金への依存度を適切にコントロールしています。また、繰越利益積立金が2,126百万円あり、過去の利益をしっかりと内部留保として蓄積し、将来の設備投資に備える体力を持っています。
✔安全性分析
自己資本比率は約34.4%です。大規模な装置産業である病院経営において、30%を超える自己資本比率は健全な水準です。流動資産2,566百万円に対し、流動負債は1,226百万円で、流動比率は200%を超えています。これは短期的な支払い能力が極めて高いことを示しており、経営の安全性は盤石です。
【SWOT分析で見る事業環境】
同法人についてここまで見てきた内容を、SWOT分析にまとめて整理をします。
✔強み (Strengths)
最大の強みは「脳神経外科」という明確な得意分野と、「医経分離」による迅速な意思決定システムです。また、急性期から緩和ケアまで自法人内で完結できる機能分化がなされており、患者の囲い込み(グループ内連携)がスムーズに行える点も収益安定化に寄与しています。
✔弱み (Weaknesses)
特定の診療科(特に脳神経外科)への依存度が高い場合、専門医の確保状況が診療機能に直結するリスクがあります。また、高度な医療機器(MRIやCTなど)の更新コストが定期的に発生するため、常に一定のキャッシュフローを維持し続ける必要があります。
✔機会 (Opportunities)
地域包括ケアシステムの推進により、病院完結型から地域完結型への転換が求められています。清風会が持つ在宅医療や介護連携のノウハウは、今後さらに需要が高まるでしょう。また、予防医療(脳ドックなど)へのニーズ拡大も、新たな収益源としての機会となります。
✔脅威 (Threats)
近隣の競合病院との患者獲得競争や、医師・看護師などの人材獲得競争の激化が脅威です。また、光熱費や医療材料費の高騰は、利益率を圧迫する要因となります。長期的には地域の人口減少による患者数の絶対的な減少も避けて通れない課題です。
【今後の戦略として想像すること】
安定した財務基盤を活かし、今後どのような戦略を描くか推測します。
✔短期的戦略
「機能分化の深化」と「連携強化」です。五日市記念病院での急性期治療後、スムーズに廿日市記念病院のリハビリへ移行するパス(連携)をさらに強化し、病床稼働率の最大化を図るでしょう。また、電子カルテやAI診断支援システムの活用による業務効率化を進め、医療従事者の負担軽減と働き方改革を推進することで、人材定着率の向上を狙うと考えられます。
✔中長期的戦略
「地域医療ハブとしての地位確立」です。単に患者を待つだけでなく、訪問看護や介護施設との連携を深め、地域全体を面で支える体制を構築するでしょう。また、財務的な体力を活かし、老朽化した施設の建て替えや、より高度な医療機器(手術支援ロボットなど)への投資を行い、地域No.1の高度専門病院としてのブランドを盤石にする戦略が考えられます。
【まとめ】
社会医療法人清風会は、医療の質と経営の質のバランスが見事にとれた、現代病院経営のモデルケースと言えます。
3.8億円という当期純利益は、単なる利益追求の結果ではなく、地域が必要とする医療を効率的かつ継続的に提供してきた証です。これからも「医経分離」の強みを活かし、広島県西部の地域医療を守る要としての役割を果たし続けることが期待されます。
【企業情報】
企業名: 社会医療法人清風会
所在地: 広島県広島市佐伯区倉重一丁目95番地
代表者: 理事長 向田 一敏
設立: 1991年7月(五日市記念病院開設)
純資産: 1,653百万円
事業内容: 五日市記念病院(180床)、廿日市記念病院(126床)の運営、介護老人保健施設等の運営
拠点: 広島県広島市佐伯区、廿日市市