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#653 決算分析 : 株式会社大垣書店 第75期決算 当期純利益 34百万円

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インターネットの普及や電子書籍の台頭により、全国の書店が厳しい経営環境に直面する中、1942年創業の老舗として、京都から全国へ積極的な事業展開を続ける株式会社大垣書店。「知的興奮カンパニー」をスローガンに掲げる同社の第75期決算公告(令和7年1月14日官報掲載)が公開されました。その決算内容からは、逆風をものともしない、同社のしたたかな成長戦略が見えてきます。

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第75期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 8,163百万円 (約81.6億円)
負債合計: 6,997百万円 (約70.0億円)
純資産合計: 1,166百万円 (約11.7億円)
当期純利益: 34百万円 (約0.3億円)


今回の決算では、厳しいとされる書店業界において、34百万円の当期純利益を確保し、黒字経営を維持しています。そして特筆すべきは、11億円を超える厚い利益剰余金を背景とした、安定した財務基盤です。この強固な体力が、後述する同社の「攻めの経営」を可能にしている源泉と言えるでしょう。

 

事業内容と今後の展望(考察)


【事業内容の概要】
株式会社大垣書店は、単なる「本を売る場所」から脱却し、「本と人が出会う感動的な空間」を創造することを目指しています。そのビジョンは、店舗づくりに色濃く反映されています。

 

「体験価値」の創造:

カフェを併設した店舗(神戸ハーバーランドumie店、イオンモール京都桂川店など)や、ギャラリー&イベントスペース「堀川AC Lab」の運営、ライフスタイル雑貨を扱う新業態「SLowPage」など、本を購入する目的がなくても訪れたくなる「居心地の良い場所」としての価値を追求しています。


文化拠点としての役割:

京都本店(SUINA室町)や麻布台ヒルズ店といった、地域の文化を象徴する大型商業施設への積極的な出店や、京都文化博物館ミュージアムショップ運営など、単なる小売業に留まらない文化発信拠点としての役割も担っています。


【逆風下で成長を続ける「攻め」の経営戦略】
書店業界全体が縮小均衡に陥りがちな中で、大垣書店はむしろアクセルを踏み込み、事業規模の拡大と業態の変革を加速させています。その戦略は、主に以下の3点に集約されます。

 

積極的なM&Aと業務提携による規模の拡大:
近年、同社は広島の「廣文館」を子会社化したほか、兵庫の「三和書房」、東京・埼玉の「ブックスタマ」、愛知の「豊川堂」、山梨の「柳正堂書店」など、各地の有力書店と次々に業務提携を結んでいます。これは、全国的な店舗網を構築することで仕入れの交渉力を高め、経営ノウハウを共有し、業界内での生き残りを図るための明確なスケールメリット追求戦略です。

 

「モノ消費」から「コト消費」へのシフト:
カフェやイベントを通じて顧客の滞在時間を延ばし、来店動機を多様化させる取り組みは、書籍という「モノ」の販売だけでなく、そこで過ごす時間や体験という「コト」を提供するビジネスへの転換を意味します。これが、ECサイトにはないリアル書店の価値を再定義し、顧客を惹きつける大きな要因となっています。

 

「脱・書籍依存」への挑戦:
ライフスタイル雑貨店やミュージアムショップ運営は、書籍販売という単一の収益源への依存から脱却し、事業ポートフォリオを強化するための重要な一手です。これにより、経営のリスク分散を図っています。

 

【今後の展望】
大垣書店の強みは、80年以上の歴史で培われた信頼とブランド力、業界の常識にとらわれず変革を続ける「知的興奮カンパニー」としての企業文化、そして、それらの挑戦を支える安定した財務基盤にあります。

 

書店業界を取り巻く環境は依然として厳しいものがありますが、同社は「リアル書店の価値とは何か」という問いに対し、M&Aによる規模の追求と、新業態開発による価値の深化という両面から答えを出し続けています。

 

今後は、提携・買収した店舗の「大垣書店化(カフェ併設など)」によるリニューアルや、オンラインと店舗を融合させた新たなサービスの展開などを通じて、さらに進化していくことでしょう。株式会社大垣書店は、地域の知的インフラとしての役割を果たしながら、未来の書店のあり方を提示し続ける、業界のリーディングカンパニーとして、その挑戦から目が離せません。

 

企業情報
企業名: 株式会社大垣書店
所在地: 京都市北区小山西花池町1-1
代表者: 代表取締役 大垣 真人(官報記載)
事業内容: 京都を本拠地とする書店チェーンの運営。カフェ併設店舗や雑貨店など新業態の開発、M&Aや業務提携による全国展開を積極的に進めている。

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