決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメントし保管する倉庫。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご容赦ください。

#4766 決算分析 : 株式会社みらい翻訳 第11期決算 当期純利益 ▲148百万円

ビジネスのグローバル化が加速し、海外の論文やニュースに瞬時にアクセスできるようになった現代において、「言語の壁」は依然として私たちの前に立ちはだかる大きな課題です。近年、AI技術の飛躍的な進化により、機械翻訳の精度は劇的に向上しましたが、機密情報や専門的な文書を扱うビジネスシーンでは、セキュリティや専門用語への対応といった点で、無料のオンライン翻訳サービスを使うことに躊躇する企業は少なくありません。

今回は、まさにその課題解決に挑む、AI自動翻訳のトップランナー、株式会社みらい翻訳の決算を読み解きます。NTTドコモパナソニックといった日本を代表する大企業を株主に持ち、国立研究開発法人情報通信研究機構NICT)という国内最高の研究機関を技術パートナーとする同社が、なぜ赤字を計上しているのか。その数字の裏に隠された、「2028年までに言語の壁をなくす」という壮大なビジョンに向けた、未来への先行投資戦略に迫ります。

みらい翻訳決算

【決算ハイライト(11期)】
資産合計: 1,881百万円 (約18.8億円) 
負債合計: 322百万円 (約3.2億円) 
純資産合計: 1,559百万円 (約15.6億円)

当期純損失: 148百万円 (約1.5億円)
自己資本比率: 約82.9% 
利益剰余金: 96百万円 (約1.0億円)

【ひとこと】
まず注目すべきは、1.5億円の当期純損失を計上している一方で、自己資本比率が約82.9%という驚異的な高さを誇る点です。純資産も約15.6億円と極めて潤沢であり、財務基盤は盤石そのものです。この一見矛盾した数字は、同社が短期的な利益を追うのではなく、NTTグループなどの強力な株主の支援のもと、AIエンジンの開発という未来の競争力へ巨額の投資を続ける、典型的な成長期IT企業の戦略的フェーズにあることを示唆しています。

【企業概要】
社名: 株式会社みらい翻訳 
設立: 2014年10月30日 
株主: 株式会社NTTドコモNTTドコモビジネス株式会社、パナソニック株式会社、株式会社翻訳センター 
事業内容: 翻訳に特化したAI(ニューラル機械翻訳エンジン)の開発、およびクラウドを通じたAI自動翻訳サービスの販売・運用

miraitranslate.com


【事業構造の徹底解剖】
同社のビジネスモデルは、世界最高レベルの技術力と、大企業が安心して利用できる鉄壁のセキュリティを両輪として、法人向けの高度な翻訳ソリューションを提供することにあります。

✔世界レベルのAI翻訳エンジン :同社の競争力の源泉は、技術パートナーであるNICTやNTTと共に開発した、深層学習によるニューラル機械翻訳エンジンです。TOEIC960点レベルと評価されるその翻訳精度は、単に流暢なだけでなく、ビジネス文書に求められる正確性を高いレベルで実現。さらに、契約書などに特化した「法務・財務モデル」や、特許文書に特化した「特許モデル」など、専門分野別のエンジンも開発し、プロフェッショナルの要求に応えています。

✔セキュリティを最優先した法人向けサービス :同社は、組織向けのAI機械翻訳プラットフォーム「みらい翻訳 FLaT」や、個人・チーム向けの「みらい翻訳 Plus」を主力サービスとして展開しています。これらの最大の特徴は、多くの企業が無料サービスに抱く不安を払拭する、徹底したセキュリティです。翻訳データは二次利用されず、国内サーバーで処理が完結するため、機密性の高い情報や個人情報を含む文書でも安心して利用できる点が、大企業から絶大な支持を得ています。

✔「翻訳」の枠を超えるソリューション展開 :同社はテキスト翻訳に留まりません。会議の内容をリアルタイムで翻訳・字幕表示する「音声翻訳AI」や、動画ファイルに字幕を付与する「AI動画字幕」、そして自社のシステムに翻訳機能を組み込める「APIサービス」も提供。これにより、単なる翻訳ツールから、企業のあらゆるコミュニケーションにおける言語の壁を取り払う、総合的なプラットフォームへと進化を遂げています。

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境 :企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)とグローバル化は、もはや待ったなしの経営課題です。海外とのコミュニケーション機会が増加する一方、専門の翻訳者を常に確保することは難しく、高品質でセキュアなAI翻訳サービスへの需要は急速に高まっています。市場には強力な競合も存在しますが、「セキュリティ」と「専門分野への特化」という点で、同社は独自のポジションを築いています。

✔内部環境 :AI開発、特に言語モデルのような最先端分野は、優秀なエンジニアの確保と、高性能な計算機資源への継続的な巨額投資が不可欠です。今期の1.5億円の赤字は、まさにこの研究開発費や人件費への先行投資の結果であり、将来の技術的優位性を確立するための戦略的なコストと言えます。収益モデルは、法人顧客からの月額・年額利用料が中心となる安定したSaaSモデルです。

✔安全性分析 :自己資本比率82.9%という数値は、企業の財務安全性を測る上で、これ以上ないほどの健全性を示します。負債が極めて少なく、純資産約15.6億円のうち、その大半を占める約13.6億円が株主からの出資金(資本剰余金)で構成されています。これは、NTTドコモを中心とする強力な株主が、同社の長期的なビジョンにコミットし、事業を力強く支援していることの証明です。目先の赤字は、この潤沢な資金の中から計画的に支出されており、経営上の懸念は全くありません。

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths) 
NICTやNTTとの連携による、世界最高水準のAI翻訳技術。 
・「データ二次利用なし・国内サーバー」という、法人向けに最適化された高いセキュリティ。 
NTTドコモパナソニックといった、日本を代表する企業グループの一員であることの絶大な信頼性。 
自己資本比率80%超という、先行投資を支える盤石の財務基盤。

弱み (Weaknesses) 
・研究開発への継続的な投資が必要なため、短期的な収益化が難しい事業モデル。 
・一般消費者におけるブランド認知度は、グローバルな巨大IT企業に及ばない。

機会 (Opportunities) 
・企業のグローバル化とDX推進による、法人向けAI翻訳市場のさらなる拡大。 
・法務、特許、医療など、専門性の高い分野における翻訳ニーズの深耕。 
・動画やリアルタイムコミュニケーションにおける、音声翻訳技術の需要増。

脅威 (Threats) 
・巨大ITプラットフォーマーGoogle, Microsoft, DeepL等)との熾烈な技術開発競争。 
・AI技術の急速な進歩による、陳腐化のリスク。 
・一般的な翻訳品質のコモディティ化による、価格競争の激化。

【今後の戦略として想像すること】
「2028年までに言語の壁をなくす」という壮大なビジョンに向け、技術開発と事業展開をさらに加速させていくと考えられます。

✔短期的戦略 :まずは、セキュリティと専門性を重視する大企業や官公庁を中心に、「みらい翻訳 FLaT」の導入をさらに拡大し、安定した収益基盤を盤石なものにしていくでしょう。同時に、動画・音声翻訳といった新たなソリューションの精度向上と機能拡充を進め、顧客の多様なニーズに応えることで、アップセル・クロスセルを狙います。

✔中長期的戦略 :長期的には、単なる「翻訳サービス」の提供者から、あらゆるシステムやサービスに組み込まれる「言語AIエンジン」の供給者へと進化していくことが期待されます。APIサービスをさらに強化し、様々な業界のパートナー企業が「みらい翻訳」のエンジンを使って新たなサービスを創出する、エコシステムの中心となることを目指すでしょう。その圧倒的な財務基盤を活かし、次世代のAI技術を持つベンチャーへの出資やM&Aも視野に入れ、2028年のビジョン実現に向けて邁進していくに違いありません。

【まとめ】 
株式会社みらい翻訳は、単なる翻訳ソフトの会社ではありません。それは、NTTグループの信頼と資金力、そしてNICTの技術力を結集し、「言語の壁」という人類古来の課題をテクノロジーで解決しようとする、未来創造企業です。第11期決算で示された赤字は、その壮大な挑戦に必要な「未来への投資」に他なりません。

機械翻訳が日々の生活や仕事に組み込まれれば、翻訳を意識することなく世界中の文章を読み、世界中の人々と会話していける」。同社が掲げるこの未来像は、もはや夢物語ではありません。盤石の財務基盤に支えられたみらい翻訳の挑戦が、私たちのコミュニケーションのあり方を根底から変える日も、そう遠くないでしょう。

【企業情報】 
企業名: 株式会社みらい翻訳 
所在地: 東京都渋谷区渋谷二丁目22番3号渋谷東口ビル 2F 
代表者: 代表取締役社長 鳥居 大祐 
設立: 2014年10月30日 
資本金: 1億円 
事業内容: 翻訳に特化したAIの開発、販売、運用 
株主構成: 株式会社NTTドコモ:61.01%, NTTドコモビジネス株式会社:17.56%, パナソニック株式会社:12.45%, 株式会社翻訳センター:8.99%

miraitranslate.com

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.