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#4028 決算分析 : 株式会社JA福岡県協同情報センター 第10期決算 当期純利益 21百万円

農業は今、後継者不足や高齢化、そして気候変動といった大きな課題に直面しています。この伝統的な産業が持続的に発展していくためには、ICT(情報通信技術)を活用した「スマート農業」への転換が不可欠です。その最前線では、生産管理から販売、経営分析までを支える専門的なITシステムが重要な役割を担っています。

今回は、福岡県下のJA(農業協同組合)グループ全体のITインフラを担う、専門家集団「株式会社JA福岡県協同情報センター」の決算を分析します。JAグループのDXを推進するために設立された同社が、どのようなビジネスモデルで福岡の農業を支え、どのような財務基盤を築いているのか、その実態に迫ります。

JA福岡県協同情報センター決算

【決算ハイライト(第10期)】
資産合計: 556百万円 (約5.6億円)
負債合計: 203百万円 (約2.0億円)
純資産合計: 353百万円 (約3.5億円)

当期純利益: 21百万円 (約0.2億円)

自己資本比率: 約63.5%
利益剰余金: 303百万円 (約3.0億円)

【ひとこと】
まず注目すべきは、自己資本比率が約63.5%という極めて高い水準にあることです。これは盤石な財務基盤を示しており、経営の安定性は抜群です。設立10期目にして、資本金5,000万円を大きく上回る3億円の利益剰余金を蓄積しており、安定した黒字経営を続けてきた優良企業と言えます。

【企業概要】
社名: 株式会社JA福岡県協同情報センター
設立: 2015年4月1日
株主: 福岡県下の総合JA、JA福岡中央会、JA福岡信連、JA全農ふくれん、JA共済連福岡
事業内容: JA福岡グループ向けの総合情報システムの設計、開発、運用、保守及び関連サービス

www.fukuoka-jacnt.jp


【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、福岡県下のJAグループ専用に開発・運用されている基幹システム「福岡県農協総合情報システム【Fオン】」の提供に集約されています。

✔JA業務特化型ERPシステム「Fオン」
「Fオン」は、JAのあらゆる業務を網羅する、巨大で専門的なERP(統合基幹業務システム)です。その機能は、組合員の税務申告支援から、米・麦・大豆・青果・花卉といった農産物の販売管理、肥料や農薬などの購買管理、共済(保険)のデータ管理、そしてJA組織内の人事給与や経理、固定資産管理まで、多岐にわたります。

✔グループ内シェアードサービスというビジネスモデル
同社は、福岡県下のJAグループ全体が出資して設立した「シェアードサービスセンター」です。各JAが個別にシステムを開発・運用するのではなく、同社が一括してその機能を担うことで、スケールメリットを追求しています。これにより、各JAは低コストで高品質なITサービスを利用できると同時に、システムやデータの標準化、セキュリティレベルの向上が図れます。

クラウド化による先進的なITインフラ
2020年には、長年運用してきた「Fオン」システムをクラウドへ移行しました。これは、各JAにサーバーを設置する必要がなくなり、災害時の事業継続性(BCP)が向上するとともに、システムのアップデートやメンテナンスをより迅速かつ柔軟に行えるようになる、先進的な取り組みです。


【財務状況等から見る経営戦略】
今回の決算数値は、特定の顧客グループに特化したITサービス企業の、理想的な経営モデルを示しています。

✔外部環境
農業分野では、高齢化する生産者の負担を軽減し、生産性を向上させるためのDX(デジタルトランスフォーメーション)が急務となっています。栽培履歴のデータ化や、ドローン・センサー技術との連携、オンラインでの販売チャネル構築など、ITシステムに求められる役割はますます高度化・多様化しています。また、あらゆる組織にとって、サイバーセキュリティ対策は最重要課題の一つです。

✔内部環境
同社のビジネスモデルは、顧客が株主でもあるJA福岡グループに限定されているため、極めて安定的です。一般的なIT企業のような熾烈な価格競争や、顧客獲得のための営業コストはほとんど存在しません。収益は、各JAからのシステム利用料や保守料が中心となり、安定したストック型の収益モデルを確立しています。貸借対照表もITサービス企業の特色を示しており、固定資産は0.6億円と少なく、資産の大部分は売掛金や現金といった流動資産(5.0億円)です。同社の真の資産は、独自開発した「Fオン」システムというソフトウェアと、それを支える従業員の専門知識です。

✔安全性分析
自己資本比率63.5%という数値は、あらゆる業種の中でもトップクラスの健全性を示しており、財務的なリスクは皆無に等しいと言えます。負債も少なく、実質的に無借金経営です。設立から10年で、資本金の6倍にあたる3億円の利益剰余金を積み上げていることからも、その高い収益性と安定性が証明されています。この盤石な財務基盤は、将来のシステム刷新や、新たな技術への投資を自己資金で賄うことを可能にします。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
自己資本比率63.5%が示す、極めて強固で安定した財務基盤。
・JA福岡グループという、株主=顧客である安定した事業基盤。
・JAの業務に特化した、長年のノウハウが蓄積された独自システム「Fオン」。
・システムを共同化することによる、スケールメリットとコスト競争力。

弱み (Weaknesses)
・事業と成長が、JA福岡グループの枠内に限定される。
・事業が単一のシステムに完全に依存しており、事業の多角化がなされていない。

機会 (Opportunities)
・スマート農業の進展に伴い、「Fオン」システムに生産現場のデータを連携させるなど、新たな機能開発の需要。
・蓄積された膨大な農業関連データを活用した、JA向けの経営分析やコンサルティングサービスの展開。
・JAグループ全体のサイバーセキュリティ強化への貢献。

脅威 (Threats)
・全国のJAグループで統一された新システムが導入されることになった場合、現在の独自システムが不要となるリスク。
・福岡県内の農業人口の減少やJAの統廃合による、長期的なユーザー数の減少。
・大規模なシステム障害やサイバー攻撃による、事業継続リスク。


【今後の戦略として想像すること】
この安定した経営基盤を元に、同社は福岡の農業の未来にどう貢献していくのでしょうか。

✔短期的戦略
まずは、主軸である「Fオン」システムの安定稼働と、利用者である各JA職員への丁寧なサポートを継続することが基本戦略です。法改正への対応や、ユーザーからの改善要望を反映した、細やかなアップデートを続けていくでしょう。

✔中長期的戦略
中長期的には、理念に掲げる「農業・JA・地域の発展に貢献するICT企業」として、守りのITから「攻めのIT」への進化が期待されます。「Fオン」に蓄積された販売データや生産データを分析し、JAの営農指導やマーケティング戦略に活用できるような、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールとしての機能を強化していくことが考えられます。将来的には、生産者個人のスマートフォンから栽培記録を入力できたり、生産物を出荷前にオンラインで販売予約できるような、生産現場とJA、市場を繋ぐプラットフォームへとシステムを進化させていく可能性があります。


【まとめ】
株式会社JA福岡県協同情報センターは、福岡県下のJAグループが共同で設立した、専門性の高いITシェアードサービス企業です。その決算書は、自己資本比率63.5%という鉄壁の財務基盤と、設立以来10年間の着実な黒字経営を明確に示していました。

その強みは、JAという特定の顧客に特化し、その業務を知り尽くした独自システム「Fオン」を、クラウド基盤上で安定的かつ効率的に提供している点にあります。福岡県の農業という、地域経済の根幹をITの力で支える同社は、今後、スマート農業の進展をリードする「JAグループICT戦略のトップリーダー」として、その役割をさらに高めていくことが期待されます。


【企業情報】
企業名: 株式会社JA福岡県協同情報センター
所在地: 福岡県福岡市中央区天神4-10-12 JA福岡県会館 信連別館(4階)
代表者: 代表取締役社長 乗富 幸雄
設立: 2015年4月1日
資本金: 50百万円
事業内容: 情報システムの設計・構築・運用、ソフトウェアの開発・保守・販売、JAグループ福岡向けの情報システム関連事業全般
株主: 福岡県下総合JA、JA福岡中央会、JA福岡信連、JA全農ふくれん、JA共済連福岡

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