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#3707 決算分析 : 株式会社北九州ウォーターサービス 第10期決算 当期純利益 77百万円

蛇口をひねれば、いつでも安全な水が出てくる。使い終わった水は、きれいに処理されて自然に還っていく。私たちの生活に不可欠なこの「水」のインフラを、未来にわたって持続可能なものにしていくために、今、全国の自治体で「官民連携(PPP)」という新しいかたちが注目されています。株式会社北九州ウォーターサービスは、まさしくその先進事例。北九州市が長年培ってきた上下水道事業のノウハウと、民間企業の高い技術力を融合させたユニークな企業です。

今回は、国内だけでなく、カンボジアなど海外にも日本の水技術を展開する同社の決算から、その事業モデルの強みと、驚くほど健全な経営内容に迫ります。

北九州ウォーターサービス決算

【決算ハイライト(10期)】
資産合計: 1,205百万円 (約12.0億円)
負債合計: 471百万円 (約4.7億円)
純資産合計: 734百万円 (約7.3億円)

当期純利益: 77百万円 (約0.8億円)

自己資本比率: 約60.9%
利益剰余金: 634百万円 (約6.3億円)

【ひとこと】
自己資本比率が60.9%と極めて高く、盤石な財務基盤を築いている点が目を引きます。約7,700万円の当期純利益を着実に確保しており、公的な社会インフラを担う事業体として、非常に安定した経営が行われています。官民連携(PPP)の成功モデルと言えるでしょう。

【企業概要】
社名: 株式会社北九州ウォーターサービス
設立: 2015年12月
株主: 北九州市 (54%)、安川オートメーション・ドライブ株式会社 (19%)、メタウォーター株式会社 (19%)、地元金融機関 (各2%)
事業内容: 国内外の上下水道施設等の運営・維持管理、コンサルティングなど

www.kitakyuws.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
北九州ウォーターサービスの事業は、官(北九州市)と民(安川電機グループ、メタウォーターなど)の強みを融合させた「上下水道インフラの総合マネジメント事業」です。

✔国内事業(市内・広域)
事業の根幹は、北九州市や周辺の宗像市などから、上下水道施設の運転・維持管理業務を受託していることです。市民の家庭へ安全な水を届ける「浄水場」や、家庭や工場から出た汚水をきれいにする「浄化センター(下水処理場)」を24時間365日体制で監視・制御。市民の生活に不可欠な水の安定供給と、美しい川や海の環境保全という、二つの重要な役割を担っています。

✔海外水ビジネス事業
同社の大きな特徴が、この海外事業です。北九州市は、かつての公害を克服した経験と技術を活かし、長年にわたりアジア諸国で国際技術協力を行ってきました。同社はその「海外水ビジネス」のノウハウを継承し、現在ではカンボジアの首都プノンペンに事務所を構え、現地の水道事業の改善などに日本の優れた水技術と運営ノウハウを提供しています。

✔技術コンサルティング・工事監理
上下水道に関する調査、分析、研究開発やコンサルティングも手掛けています。また、北九州市上下水道局が発注する工事の設計内容を審査したり、完成検査を補助したりするなど、技術的な側面から水インフラ全体の品質向上に貢献しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
国内では、人口減少に伴う水道料金収入の減少や、水道施設の老朽化、そして技術者である自治体職員の高齢化と人手不足が、全国の自治体で深刻な課題となっています。このため、上下水道事業の運営を、同社のような専門知識を持つ民間企業に委託するPPP(官民連携)やコンセッション(運営権売却)へのニーズが、今後ますます高まることが予想されます(機会)。

✔内部環境
「官」である北九州市が54%を出資する筆頭株主であることによる、事業の安定性と高い公共的信用力。そして、「民」である安川電機グループのFA・制御技術と、水処理プラント大手であるメタウォーターの専門技術。この「官」と「民」の強みを併せ持つことが、同社の最大の競争優位性です。これにより、効率的で質の高いインフラ運営を実現しています。

✔安全性分析
自己資本比率60.9%は、社会インフラを担う企業として極めて高い水準であり、財務基盤は非常に強固です。純資産は約7.3億円あり、そのうち利益剰余金が6億円以上と、設立以来わずか10年で着実に利益を蓄積してきたことがわかります。負債も少なく、実質的に無借金経営に近い状態です。この財務的な安定性があるからこそ、長期的な視点が必要なインフラ事業や、先行投資が求められる海外展開にも、着実に取り組むことができるのです。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・官民連携(PPP)による、公的信用力と民間企業の高い技術力の融合
北九州市から継承した、海外水ビジネスにおける豊富な実績とノウハウ
自己資本比率60%を超える、極めて強固で安定した財務基盤
上下水道という、景気変動の影響を受けにくい安定した事業領域

弱み (Weaknesses)
・現時点では、北九州市からの受託事業への依存度が高い点
・海外事業における、為替変動や地政学的なリスク

機会 (Opportunities)
・全国の自治体における、上下水道事業の民営化・PPP化の流れの加速
・アジアを中心とした、海外の水インフラ市場の拡大
・IoTやAIを活用した、スマートウォーター管理(漏水検知、水質予測など)技術の需要増

脅威 (Threats)
・国内の人口減少による、長期的な事業規模の縮小リスク
・大規模な自然災害による、水道施設への甚大なダメージ
・海外事業における、政治・経済情勢の不安定化


【今後の戦略として想像すること】
強固な経営基盤と独自の事業モデルを武器に、さらなる事業の拡大を目指していくと考えられます。

✔短期的戦略
北九州市内および福岡県内での受託業務の範囲をさらに拡大し、経営基盤をより盤石なものにしていくでしょう。同時に、IoTセンサーやAIを活用した施設の遠隔監視や異常予兆検知システムを導入し、運営業務のさらなる効率化と高度化を図ることが予想されます。

✔中長期的戦略
北九州での官民連携の成功モデルを「パッケージ」として、上下水道事業の運営に課題を抱える全国の他の自治体へ展開していくことが、大きな成長戦略となります。また、カンボジアでの実績を足掛かりに、ベトナムインドネシアなど、水インフラの整備が急務となっている他のアジア諸国へも海外水ビジネスを積極的に拡大していくことが期待されます。


【まとめ】
株式会社北九州ウォーターサービスは、単なる水道局の下請け会社ではありません。官のノウハウと民の技術力を融合させ、国内外の水インフラを支える、先進的な「PPP(官民連携)企業」です。60%を超える高い自己資本比率が示す健全な経営基盤のもと、市民の生活を守り、さらには日本の技術を世界に展開するという、大きな役割を担っています。
人口減少やインフラ老朽化という課題に直面する日本において、同社の事業モデルは、持続可能な社会インフラを実現するための、重要なヒントを与えてくれるに違いありません。


【企業情報】
企業名: 株式会社北九州ウォーターサービス
所在地: 北九州市小倉北区浅野三丁目8番1号 AIMビル4階
代表者: 代表取締役社長 山本 浩二
設立: 2015年12月
資本金: 1億円
事業内容: 上下水道施設等の運営及び維持管理、水質調査・分析、コンサルティング、国際技術協力事業など
株主: 北九州市 (54%)、安川オートメーション・ドライブ株式会社 (19%)、メタウォーター株式会社 (19%)、株式会社みずほ銀行 (2%)、株式会社福岡銀行 (2%)、株式会社西日本シティ銀行 (2%)、株式会社北九州銀行 (2%)

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