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#3455 決算分析 : 株式会社ハスコムモバイル 第15期決算 当期純利益 301百万円

私たちの生活に不可欠となったスマートフォン。その購入や料金プランの見直し、日々の操作の相談などで、多くの人が街のキャリアショップを訪れます。こうしたショップは通信キャリアの直営店だと思われがちですが、その多くは、地域に深く根ざした「販売代理店」によって運営されています。彼らは単に端末を販売するだけでなく、丁寧なコンサルティングを通じて、私たちのデジタルライフを支える重要な社会的役割を担っています。特に、広大なエリアをきめ細かくカバーする必要がある北海道では、その存在価値は計り知れません。

今回は、北海道内で最大規模となる24店舗のドコモショップを展開し、売上高85億円を誇るリーディングカンパニー「株式会社ハスコムモバイル」の第15期決算を分析します。変化の激しい通信業界を勝ち抜き、驚異的な財務健全性を実現している道内トップ代理店の強さと、その成長戦略に迫ります。

ハスコムモバイル決算

【決算ハイライト(第15期)】
資産合計: 4,519百万円 (約45.2億円)
負債合計: 1,502百万円 (約15.0億円)
純資産合計: 3,017百万円 (約30.2億円)

当期純利益: 301百万円 (約3.0億円)

自己資本比率: 約66.8%
利益剰余金: 2,379百万円 (約23.8億円)

【ひとこと】
まず目を引くのは、自己資本比率が約66.8%という極めて高い水準である点です。売上高85億円という規模でありながら、3億円超の当期純利益をしっかりと確保。設立以来の利益の蓄積である利益剰余金が約24億円に達しており、収益性と財務安定性を高いレベルで両立した、非常に優良な経営が行われていることがわかります。

【企業概要】
社名: 株式会社ハスコムモバイル
設立: 2010年10月
株主: 株式会社ハスコム (66%)、株式会社ノジマ (34%)
事業内容: 北海道内におけるNTTドコモの携帯電話販売代理店事業(ドコモショップ運営)、および法人向け通信ソリューション事業。

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【事業構造の徹底解剖】
ハスコムモバイルの事業は、NTTドコモの一次代理店として、個人・法人双方の顧客に通信サービスと関連ソリューションを提供する「総合モバイルソリューション事業」です。北海道という広大な市場において、圧倒的な店舗網を最大の武器に、地域に深く根差した事業を展開しています。

✔コンシューマ営業
道内最大規模となる24店舗のドコモショップ運営が事業の根幹です。スマートフォンの新規契約や機種変更はもちろん、複雑化する料金プランの見直し、ドコモ光といった固定回線とのセット提案、シニア層向けのスマホ教室の開催など、単なる「モノ売り」ではなく、顧客一人ひとりのライフスタイルに寄り添う「コンサルティング営業」を強みとしています。

✔ビジネス営業
法人顧客に対しては、社用スマートフォンタブレット端末の導入支援から、通信コストの削減、モバイル端末管理(MDM)によるセキュリティ対策、業務効率化に繋がるクラウドサービスの提案まで、ビジネス上の課題を通信の力で解決するソリューションを提供。道内24店舗のネットワークを活かした、地域密着型の迅速な法人サポート体制が他社との大きな差別化要因となっています。

✔強力なバックボーン
親会社である札幌のIT企業「株式会社ハスコム」と、資本業務提携先である家電量販大手「株式会社ノジマ」の存在が、同社の競争力をさらに高めています。ハスコムからは法人向けITソリューションに関する専門的な知見、ノジマからは全国レベルの最先端な販売ノウハウや人材育成手法の提供を受けることで、独自の強みを構築していると推測されます。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
スマートフォン市場は成熟期に入り、端末販売台数の爆発的な伸びは期待しにくい状況です。さらに、総務省主導の通信料金値下げ競争や、代理店へ支払われる手数料体系の複雑化・厳格化など、携帯電話販売代理店を取り巻く収益環境は年々厳しさを増しています。このような状況下で、代理店は端末販売に依存したビジネスモデルから、光回線やエネルギー、金融・決済サービスといった「非通信領域」のサービスをいかに提案し、収益源を多様化できるかが問われています。

✔内部環境
北海道内最大という店舗網が、同社の最大の強みであり経営基盤です。「規模の経済」を活かした効率的な店舗運営や、ドコモからのインセンティブ獲得において有利に働きます。一方で、収益の大部分をNTTドコモからの手数料に依存するビジネスモデルであるため、ドコモの販売方針や手数料制度の変更が経営に直結するというリスクも抱えています。しかし、自己資本比率66.8%という盤石の財務基盤は、こうした厳しい市場環境の変化に対応し、人材育成やM&Aといった未来への投資を可能にする強力な武器となっています。

✔安全性分析
自己資本比率66.8%は、卸売・小売業としては異例とも言える高い水準であり、財務の安定性は抜群です。短期的な支払い能力を示す流動比率は約263%と非常に高く、資金繰りに関する懸念は全くありません。特筆すべきは、純資産30.2億円のうち、利益剰余金が約8割にあたる23.8億円を占めている点です。これは、2010年の設立以来、一貫して高い収益性を維持し、稼いだ利益を着実に内部に蓄積してきた優良企業の証です。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・北海道内最大規模のドコモショップ網による、圧倒的な販売力と広範な顧客基盤
自己資本比率66.8%という、業界トップクラスの強固な財務基盤と継続的な高収益性
・親会社ハスコム(IT知見)と提携先ノジマ(販売ノウハウ)との強力なシナジー
・個人(コンシューマ)と法人(ビジネス)の両方にアプローチできるバランスの取れた事業ポートフォリオ

弱み (Weaknesses)
・事業がNTTドコモという単一の通信キャリアに大きく依存しており、キャリアの方針転換リスクを受けやすい
・国の政策(料金値下げ等)が、代理店の収益構造に直接的な影響を及ぼすビジネスモデル

機会 (Opportunities)
・5Gの本格的な普及に伴う、新たなサービスやソリューション(IoT、メタバース関連など)の提案機会の創出
・企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進ニーズの高まりによる、法人向けモバイルソリューション市場の拡大
M&Aによる事業規模のさらなる拡大と経営効率の向上(2023年にデータスペースを子会社化)
・ドコモが展開する金融・決済、コンテンツ、エネルギー等の非通信サービスをクロスセルすることによる収益源の多様化

脅威 (Threats)
スマートフォン市場の飽和と、高機能化による端末販売サイクルの長期化
・メーカーやキャリアによるオンラインでの契約・販売チャネルの強化による、リアル店舗の役割の変化・縮小
・政府による通信業界への継続的な料金値下げ圧力と、それに伴う代理店手数料の減少
・他キャリアの販売代理店や、MVNO格安SIM事業者)との顧客獲得競争の激化


【今後の戦略として想像すること】
この強固な経営基盤と事業環境を踏まえ、同社はさらなる成長を目指すと考えられます。

✔短期的戦略
ドコモが提供する「非通信サービス」の提案力強化が急務です。「dカード」や「d払い」といった金融・決済サービス、「ドコモでんき」といったライフラインサービスを、顧客の生活に寄り添いながら提案することで、顧客一人当たりの収益(ARPU)を向上させます。これを実現するため、全スタッフのコンサルティング能力を高める教育研修への投資をさらに強化していくでしょう。

✔中長期的戦略
「店舗の価値の再定義」が大きなテーマとなります。単なる販売・手続きの場から、地域のデジタルデバイド情報格差)を解消するための「スマホ教室」の拠点や、法人向けDXソリューションを体感できるショールームといった、新たな付加価値を持つコミュニティスペースへと進化させていくことが考えられます。また、盤石な財務基盤を活かし、道内の他のドコモ代理店をM&Aによって統合し、北海道における圧倒的な地位をさらに盤石なものにする戦略も、引き続き推進していくと予想されます。


【まとめ】
株式会社ハスコムモバイルは、単なる携帯電話の販売店ではありません。それは、北海道という広大な地域で、NTTドコモの最前線として人々の暮らしとビジネスを通信の力で支える、地域社会に不可欠なデジタルインフラ企業です。

通信業界が大きな変革期にある中にあっても、自己資本比率66.8%という盤石の財務基盤と、道内最大という店舗網を武器に、変化に柔軟に対応し、着実に利益を上げ続けています。これからも、北海道のデジタル化を牽引するリーディングカンパニーとして、地域社会の発展に貢献し続けることが大いに期待されます。


【企業情報】
企業名: 株式会社ハスコムモバイル
所在地: 北海道札幌市中央区北4条西20丁目2番25号 ハスコム札幌ビル
代表者: 代表取締役社長 佐々木 正人
設立: 2010年10月
資本金: 9,800万円
事業内容: NTTドコモの携帯電話販売代理店事業(ドコモショップ24店舗運営)、法人向け通信ソリューションの提供
株主: 株式会社ハスコム (66%)、株式会社ノジマ (34%)

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