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#3225 決算分析 : 大成エンジニアリング株式会社 第54期決算 当期純利益 809百万円

私たちが日常的に利用する高速道路や橋、トンネル。これらの巨大な社会インフラは、一度建設すれば終わりではなく、絶え間ない点検、補修、そして大規模なリニューアル工事によって、その安全性と機能が維持されています。その工事の裏側で、事業の発注者である国や高速道路会社などの「パートナー」として、品質や安全、工程を専門家の視点で厳しく管理する「建設コンサルタント」という存在がいることをご存知でしょうか。

今回は、まさにその建設コンサルタントとして、50年以上にわたり日本のインフラ整備を支え続けてきた大成エンジニアリング株式会社の決算を読み解きます。さらに、遺跡の発掘調査といったユニークな文化財事業も手掛ける同社の、堅実な経営と社会における重要な役割に迫ります。

大成エンジニアリング決算

【決算ハイライト(第54期)】
資産合計: 5,436百万円 (約54億円)
負債合計: 1,601百万円 (約16億円)
純資産合計: 3,796百万円 (約38億円)
当期純利益: 809百万円 (約8億円)
自己資本比率: 約70%
利益剰余金: 3,784百万円 (約38億円)

【ひとこと】
自己資本比率が約70%と極めて高く、財務基盤は非常に安定しています。純資産の大部分を利益剰余金が占めており、創業以来の堅実な経営で利益を積み上げてきたことが一目でわかります。当期純利益も約8億円と高く、安定した収益力を誇る優良企業です。

【企業概要】
社名: 大成エンジニアリング株式会社
設立: 1971年
事業内容: 高速道路などの社会インフラ整備における発注者支援(施工管理)や土木設計を主軸とする「建設コンサルタント事業」と、遺跡の発掘調査などを手掛ける「文化財事業」の二本柱で事業を展開。

www.taiseieng.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、社会の基盤と歴史を未来へ繋ぐ、専門性の高い2つの領域で構成されています。

✔建設コンサルタント事業
同社の売上の中核を成す事業です。特に強みを持つのが「発注者支援業務」です。
・発注者支援業務(施工管理): これは、高速道路会社といった工事の「発注者」の側に立ち、その代理人やパートナーとして、工事が設計図通りに、安全かつ高品質に進んでいるかを管理・監督する役割です。いわば、工事現場における発注者の「目」や「頭脳」となり、施工業者への検査や指導・調整を行います。高度な技術的知見と公正な判断力が求められる、責任の重い仕事です。
・土木設計業務: 道路、橋梁、トンネルなどの社会インフラの計画・設計を行います。新しいインフラを造るだけでなく、既存のインフラを長く安全に使い続けるための耐震補強設計や補修設計など、維持管理のフェーズで重要な役割を果たしています。

文化財事業
建設コンサルタント事業と並ぶ、もう一つのユニークな柱です。道路建設などの開発事業に伴って発見される遺跡(埋蔵文化財)の発掘調査を専門に行います。鋤や鍬を使った地道な発掘作業から、出土した遺物の整理・分析、そして後世に記録として残すための報告書作成までを一貫して手掛けます。社会インフラの整備という「未来づくり」と、先人たちの痕跡を守る「歴史の継承」を両立させる上で、不可欠な役割を担っています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本の社会インフラは、高度経済成長期に集中的に整備されたものが多く、建設から50年以上が経過し「老朽化」が深刻な社会問題となっています。このため、国や関連機関は、新規建設よりも既存インフラの維持管理・更新・長寿命化に予算を重点的に配分する傾向にあります。また、頻発する地震や豪雨といった自然災害への備えとして、国土強靭化計画が進められており、防災・減災のためのインフラ整備の需要も高まっています。これらは、同社のような建設コンサルタントにとって、安定した事業機会の拡大を意味します。

✔内部環境
同社の主な顧客は、国や地方公共団体、高速道路会社といった官公庁やそれに準ずる機関です。これにより、事業基盤が非常に安定しているのが大きな特徴です。受注は公共事業の入札が中心となるため、価格だけでなく、これまでの実績や技術力が高く評価される世界です。同社が50年以上の歴史で培ってきた信頼と実績は、他社が容易に模倣できない強固な参入障壁となっています。また、事業の原資は優秀な「人(技術者)」であり、大規模な製造設備が不要な知識集約型のビジネスモデルであるため、利益を内部に蓄積しやすい構造です。

✔安全性分析
自己資本比率が約70%と、製造業の平均が50%程度と言われる中で突出して高く、財務的な安定性は抜群です。純資産約38億円に対し、利益剰余金がほぼ同額の約38億円を占めていることは、創業以来、赤字を出すことなく着実に利益を積み重ねてきた経営の賜物です。実質的に無借金経営に近い、極めて健全な財務体質と評価できます。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・50年以上の歴史で培った、特に高速道路関連事業における高い技術力と発注者からの厚い信頼
自己資本比率約70%という盤石の財務基盤
・官公庁を中心とする、景気変動に左右されにくい安定した顧客基盤
・建設コンサルと文化財調査という、共に専門性が高く参入障壁の高い事業ポートフォリオ

弱み (Weaknesses)
・事業が公共事業に大きく依存しており、国の予算や政策の変動に影響を受けやすい
・事業の根幹が「人」であるため、優秀な技術者の継続的な確保・育成が常に経営課題となる

機会 (Opportunities)
・インフラ老朽化対策、長寿命化という巨大な市場の継続的な拡大
・国土強靭化計画など、防災・減災関連の公共投資の安定的増加
・3次元VRやドローンといった新技術の活用による、業務の効率化・高度化の可能性

脅威 (Threats)
・建設業界全体が直面している、技術者の高齢化と若手入職者の減少
・公共事業の入札における、同業他社との価格・技術競争の激化


【今後の戦略として想像すること】
盤石な経営基盤を活かし、専門性をさらに深化させる戦略が考えられます。

✔短期的戦略
主力の高速道路関連事業において、全国で進められている大規模なリニューアルプロジェクトでの受注拡大を最優先に進めるでしょう。また、ドローンによる測量や3Dレーザースキャナを用いた現況調査、VR技術を活用した設計・施工シミュレーションなど、最新のデジタル技術を積極的に導入し、生産性の向上とサービスの付加価値向上を図っていくと考えられます。

✔中長期的戦略
持続的な成長のためには、技術者の採用・育成と、働きがいのある環境づくりが不可欠です。健康経営宣言などを通じて、人材への投資をさらに強化していくでしょう。また、建設コンサルタント事業で培った3次元データ活用技術などを文化財事業にも応用し、遺跡のデジタルアーカイブ化など、事業間のシナジーを高めていくことも期待されます。


【まとめ】
大成エンジニアリング株式会社は、単なる設計会社や建設関連サービス会社ではありません。それは、公共事業の発注者の「頭脳」であり「目」として、社会インフラの品質と安全を守る、まさに縁の下の力持ちです。50年以上の歴史の中で、社会の動脈である高速道路を支え、時にはその大地に眠る数千年前の歴史をも掘り起こしてきました。自己資本比率約70%という盤石な財務基盤は、その堅実で誠実な仕事ぶりの証左と言えるでしょう。これからも、その高い技術力で、日本の安全・安心な未来と、豊かな歴史を次世代に繋いでいくことが期待されます。


【企業情報】
企業名: 大成エンジニアリング株式会社
所在地: 東京都新宿区馬場下町1-1 FORECAST早稲田FIRST 8F
代表者: 岩﨑 信治
設立: 1971年10月25日
資本金: 90,000千円
事業内容: 【建設コンサルタント事業】発注者支援業務(施工管理)、道路・橋梁・トンネル等の設計、構造物調査など 【文化財事業】遺跡の発掘調査、測量、整理、報告書作成業務など

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