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#2350 決算分析 : 高知おおとよ製材株式会社 第14期決算 当期純利益 3百万円

日本の国土の約3分の2を占める森林。中でも高知県は、県土の実に84%が森に覆われた日本一の「森林県」です。この豊かな森林資源は、地球温暖化を防ぐだけでなく、私たちの暮らしに欠かせない再生可能資源「木材」の宝庫でもあります。しかし、安価な輸入材との競争や林業の担い手不足など、日本の林業・製材業は長らく厳しい時代を歩んできました。こうした逆境の中、「製材業は21世紀型産業である」と高らかに宣言し、高知県の森林の価値を世界に発信すべく、官民一体となって設立された巨大製材所があります。それが、高知県長岡郡大豊町に拠点を構える「高知おおとよ製材株式会社」です。

今回は、高知県最大の製材所として、地域の林業再生の期待を一身に背負う同社の決算公告を読み解き、その事業モデルと財務状況から、日本の林業の未来を考えます。

高知おおとよ製材決算

【決算ハイライト(第14期)】
資産合計: 1,520百万円 (約15.2億円)
負債合計: 1,020百万円 (約10.2億円)
純資産合計: 500百万円 (約5.0億円)

当期純利益: 3百万円 (約0.03億円)

自己資本比率: 約32.9%
利益剰余金: 403百万円 (約4.0億円)

まず注目すべきは、純資産が約5.0億円、利益剰余金が約4.0億円と、設立以来、着実に内部留保を積み上げてきている点です。自己資本比率も約32.9%と、製造業として安定した水準を維持しており、健全な財務基盤が見て取れます。一方で、当期純利益は3百万円と、事業規模に対しては非常に低い水準に留まっています。これは、ウッドショック後の木材価格の乱高下や、燃料費の高騰といった厳しい外部環境が影響したと推察されます。この厳しい市況の中で、いかにして利益を確保し、持続的な成長軌道を描いていくのかが注目されます。

企業概要
社名: 高知おおとよ製材株式会社
設立: 2012年1月24日
株主: 銘建工業(株)、高知県森林組合連合会、大豊町高知県素材生産業協同組合連合会
事業内容: 高知県産の杉・桧を中心とした、住宅用構造材・羽柄材の製造販売。高知県最大の規模を誇る製材工場。

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【事業構造の徹底解剖】
同社は、単なる製材会社ではありません。高知県林業を再生させ、その価値を最大化するという大きな使命を帯びた、官民連携のプロジェクトを事業化した存在です。

✔官民一体の株主構成
同社の株主構成は、その成り立ちを象徴しています。CLT(直交集成板)のトップメーカーである「銘建工業」、県内の森林組合を束ねる「高知県森林組合連合会」、立地する自治体である「大豊町」、そして林業の現場を担う「高知県素材生産業協同組合連合会」。川上(林業)から川中(製材)、そして川下(加工・販売)まで、さらには行政も一体となったこの布陣こそが、同社の最大の強みです。これにより、県内の森林から産出される原木の安定的な調達と、製品の安定的な販売チャネルを確保しています。

高知県産材に特化した製品ラインナップ
製品は、高知県の豊かな森林が育んだ杉と桧に特化しています。住宅の骨格となる柱や梁、桁といった「構造材」から、垂木や間柱、胴縁といった「羽柄材」まで、木造住宅に必要なあらゆる部材をワンストップで生産・供給できる体制を整えています。製品はすべて徹底した品質管理のもとで乾燥・加工(KD材、モルダー仕上げ)されており、強度や含水率などの品質データをウェブサイトで毎月公開するなど、高い品質へのこだわりがうかがえます。

✔21世紀型産業としての製材業
同社は「製材業は21世紀型産業」であると明確に位置づけています。これは、再生可能資源である木材を循環的に利用することが、脱炭素社会の実現に不可欠であるという強い信念に基づいています。最新鋭の設備を導入した大規模工場で生産性を高めると同時に、製材技術や木材乾燥技術に磨きをかけ、木材の新たな価値を追求する。この姿勢こそが、同社を単なる素材メーカーではなく、持続可能な社会の実現に貢献する未来志向の企業たらしめているのです。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
製材業界は、国内外の景気、特に住宅着工件数に大きく業績が左右されます。近年の「ウッドショック」では、輸入木材の供給不安から国産材の価格が高騰しましたが、その後は反動で価格が下落するなど、極めて不安定な市況が続いています。また、製材工場を稼働させるための電気代や、原木を運ぶための燃料費の高騰も、収益を圧迫する大きな要因となっています。一方で、政府は国産材の利用を強力に推進しており、公共建築物への木材利用や、住宅分野での木質化への補助金制度などは、同社にとって追い風となっています。

✔内部環境
同社のビジネスは、大規模な工場設備を必要とする設備産業です。固定資産が約5.0億円計上されており、これらの減価償却費や維持管理費が大きな固定費となります。この固定費をカバーし利益を出すためには、工場の高い稼働率を維持し、大量の原木を効率的に製品化していく「規模の経済」を追求する必要があります。当期純利益が3百万円に留まった背景には、木材市況の悪化による製品価格の下落に加え、エネルギーコストの上昇が、売上原価を押し上げたことが要因として考えられます。

✔安全性分析
自己資本比率32.9%という数値は、企業の財務基盤が安定的であることを示しています。有利子負債の額は不明ですが、利益剰余金が約4.0億円と潤沢にあり、短期的な市況の悪化にも耐えうる体力を十分に有していると言えます。短期的な支払い能力を示す流動比率流動資産÷流動負債)も約110%と100%を上回っており、資金繰りにも懸念はありません。官民一体の強力な株主構成が、金融機関からの信用力にも繋がっており、経営の安定性をさらに高めています。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・官民一体となったユニークな株主構成による、原料の安定調達力と販売力。
高知県最大という規模の経済を活かした、効率的な生産体制。
高知県産材に特化したブランド力と、データに裏打ちされた高い品質管理体制。
・健全な自己資本比率と潤沢な利益剰余金が示す、安定した財務基盤。

弱み (Weaknesses)
・木材市況やエネルギー価格といった、自社でコントロール困難な外部要因から業績が大きな影響を受ける。
・主力製品が住宅用建材に集中しており、住宅着工件数の変動リスクを受けやすい。

機会 (Opportunities)
・国の国産材利用促進政策や、非住宅分野(中大規模建築)の木造化・木質化という新たな市場の拡大。
・脱炭素社会の実現に向けた、環境配慮型素材としての木材への社会的な注目の高まり。
・CLTなど、新たな木質建材の普及に伴う、ラミナ(集成材の原料)供給への展開。

脅威 (Threats)
・ウッドショック後の木材価格の不安定化、および長期的な価格下落リスク。
・安価な輸入木材との恒常的な競合。
・国内の人口減少に伴う、新設住宅着工戸数の中長期的な減少。

 

【今後の戦略として想像すること】
この事業環境と財務状況を踏まえ、同社が今後どのような戦略を描いていくか、以下のように想像します。

✔短期的戦略
まずは、厳しい市況の中で収益性を改善することが最優先課題です。工場の生産プロセスをさらに効率化し、エネルギーコストの削減に努めるでしょう。また、品質の高さを武器に、価格競争に陥りにくい高付加価値な製品(例えば、美しい木目を活かした内装材など)の比率を高めていくことも考えられます。

✔中長期的戦略
住宅市場だけに依存しない、新たな需要先の開拓が成長の鍵となります。特に、法律の改正により木造化が可能になった、商業施設やオフィスビルといった中大規模の非住宅建築物向けの構造材市場への参入が期待されます。また、株主である銘建工業との連携をさらに深め、同社が製造するCLTの原料となるラミナを安定供給する役割を担うことで、事業ポートフォリオを強化していくでしょう。「高知県の森林の価値を世界に向けて発信する」という理念の通り、高品質な日本の杉・桧材として、海外市場への輸出も視野に入れているかもしれません。

 

【まとめ】
高知おおとよ製材株式会社の決算は、厳しい市況の中で利益確保に苦しみながらも、健全な財務基盤を維持し、次なる飛躍への土台を固めている姿を示していました。同社は単なる製材工場ではありません。それは、日本一の森林県・高知の林業再生という大きな使命を背負い、官民の知恵と力を結集して設立された「地域の希望」です。再生可能な資源である木材を最大限に活用し、持続可能な社会を構築する。同社が掲げる「製材業は21世紀型産業」という言葉は、日本の林業が向かうべき未来を明るく照らしています。厳しい冬の時代を乗り越え、高知の森の恵みを全国へ、そして世界へと届け、大きく成長していくことが期待されます。

 

【企業情報】
企業名: 高知おおとよ製材株式会社
所在地: 高知県長岡郡大豊町川口2035番地1
設立: 2012年1月24日
代表者: 安東 真吾
資本金: 97,000千円
事業内容: 高知県産のスギ・ヒノキを原料とした、住宅用構造材及び羽柄材の製造・販売
株主: 銘建工業株式会社、高知県森林組合連合会、大豊町高知県素材生産業協同組合連合会

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