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#2328 決算分析 : 株式会社長野県協同電算 第52期決算 当期純利益 ▲119百万円

JAバンクの窓口やATMでの取引、ファーマーズマーケットでのキャッシュレス決済。長野県の農業と地域金融のあらゆる場面で、その活動は巨大で複雑なITシステムによって支えられています。このデジタルな神経網を、半世紀にわたって構築・運用し、守り続けてきた専門家集団がいます。彼らは、JAの事業を支えるだけでなく、地域にインターネットサービスを提供するなど、独自の進化を遂げてきました。

今回は、JAグループ長野の「総合情報センター」として、その重責を担う「株式会社長野県協同電算」の決算を読み解きます。その決算書には、自己資本比率86%超という鉄壁の財務基盤が示される一方、損益計算書は1億円を超える赤字という結果でした。2024年に新データセンターを完成させたばかりの同社。この赤字は、未来への大きな投資の結果なのか。信州の農業DXを担う、その経営戦略に迫ります。

長野県協同電算決算

【決算ハイライト(第52期)】
資産合計: 8,447百万円 (約84.5億円)
負債合計: 1,168百万円 (約11.7億円)
純資産合計: 7,278百万円 (約72.8億円)
売上高: 4,286百万円 (約42.9億円)
当期純損失: 119百万円 (約1.2億円)
自己資本比率: 約86.2%
利益剰余金: 4,945百万円 (約49.5億円)

まず注目すべきは、自己資本比率が約86.2%という、驚異的なまでに高い水準にある点です。これは、極めて強固で安定した経営基盤を物語っています。その一方で、売上高42.9億円に対し、当期は1.2億円の純損失を計上しました。これは、後述する新データセンターの建設・移転といった、将来の成長に向けた大規模な先行投資に伴う一時的なコスト増が影響したと推測され、企業の安定性を揺るがすものではないと考えられます。

企業概要
社名: 株式会社長野県協同電算
設立: 1974年10月1日
株主: 長野県農業協同組合中央会、県内JA、連合会など
事業内容: JAグループ長野の情報システムの開発・運用・保守、データセンター事業、インターネットサービスプロバイダー事業

www.naganoken-kyododensan.jp

 

【事業構造の徹底解剖】
長野県協同電算の事業は、JAグループのITインフラを支えるという根幹の役割と、そこから派生した独自のサービスという、二つの大きな柱で構成されています。

✔JAグループ長野の「IT心臓部」
同社の最大のミッションは、JAの基幹事業である信用事業(JAバンク)、共済事業、経済事業(販売・購買)などを支える、勘定系・情報系システムの安定稼働です。JAの窓口端末やATM、直売所のPOSシステムまで、長野県下のJAのあらゆる業務は、同社が運用するシステムによって成り立っています。金融機関に準ずる、極めて高いセキュリティと信頼性が求められる事業です。

✔地域にインターネットを届けた「JANIS
同社のユニークな点は、JA向けのクローズドなシステム開発に留まらないことです。1996年には、インターネットサービスプロバイダー事業「JANIS(ジャニス)」を開始。特に、2000年には全国に先駆けてADSLの商用サービスを開始するなど、長野県のインターネット黎明期において、地域情報化のパイオニアとしての役割を果たしてきました。

✔未来への投資「新データセンター」
同社の沿革における最大のトピックは、令和6年(2024年)の新社屋(新データセンター)の完成です。これは、JAグループのIT基盤を、より堅牢で、将来の拡張性にも優れたものへと刷新するための、極めて重要な戦略的投資です。今回の決算における赤字は、この巨大プロジェクトに伴う費用が大きく影響していると考えられます。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
同社の財務状況は、その公的な役割と、安定性を最優先する経営哲学を色濃く反映しています。

✔外部環境
農業分野では、担い手不足や高齢化を背景に、ITを活用したスマート農業など、DX(デジタルトランスフォーメーション)への期待が急速に高まっています。また、金融機関として、サイバーセキュリティへの脅威は年々増大しており、情報システムの高度化は待ったなしの状況です。これらは、同社にとって大きな事業機会であると同時に、常に最新技術へ投資し続けなければならないというプレッシャーでもあります。

✔内部環境
同社の顧客は、株主でもあるJAグループ長野が中心です。この captive(専属的)な関係性は、安定した収益基盤をもたらす一方、事業の成長性は長野県内のJAの事業規模に規定されます。経営目標は、利益の最大化ではなく、「豊かな地域とくらしを未来につなぐ最適なソリューション」を、安全・安心に提供し続けることです。自己資本比率86.2%という鉄壁の財務は、この使命を果たすための意図的な経営判断の結果と言えます。

✔安全性分析
自己資本比率86.2%、純資産72.8億円という数値は、企業の財務安全性が万全であることを示しています。有利子負債は極めて少なく、実質的な無借金経営です。総資産の約60%を占める50億円超の固定資産は、その大部分が、今回完成した新データセンターをはじめとする、事業の根幹をなすITインフラ資産であると推測されます。この強固な財務基盤があるからこそ、巨額の投資を自己資金中心で断行し、未来への布石を打つことができるのです。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
自己資本比率86.2%という、圧倒的に安定した財務基盤。
・JAグループ長野という、 captiveで安定した顧客基盤。
・JAの業務システムに特化した、約50年にわたる深い専門知識とノウハウ。
・地域での高い知名度を持つ、ISP事業「JANIS」。
・最新鋭の自社データセンターを保有

弱み (Weaknesses)
・事業領域がJAグループ長野内に限定され、市場の大きな成長は見込みにくい。
当期純損失を計上しており、大規模投資が短期的な収益を圧迫している。

機会 (Opportunities)
・スマート農業の普及に伴う、新たなシステム開発やデータ活用サービスの需要。
・新データセンターを活かした、ハウジングサービスなど、グループ外へのサービス提供の可能性。
ISP事業「JANIS」における、光回線や地域BWAなど、次世代通信サービスへの展開。

脅威 (Threats)
・ますます巧妙化・高度化する、サイバー攻撃のリスク。
・IT業界全体で深刻化する、専門技術者の採用難。
・JAの再編・統合による、組織体制の変化。

 

【今後の戦略として想像すること】
この事業環境と財務状況を踏まえ、同社が取るべき戦略を考察します。

✔短期的戦略
まずは、新データセンターへのシステム移行を完全に成功させ、安定稼働させることが最優先です。今回の投資を早期に収益貢献へと繋げるため、新データセンターの能力を活かした、より高度で効率的なサービスをJAグループに提供していくでしょう。また、赤字からの早期脱却も重要な経営課題となります。

✔中長期的戦略
将来的には、JAグループ長野の単なる「IT部門」から、信州の「農業DXをリードする戦略的パートナー」へと進化していくことが期待されます。新データセンターを基盤に、県内の農業データを集約・分析し、生産性向上に繋がるインサイトを提供するような、データ駆動型農業のプラットフォームを構築していく可能性があります。また、ISP事業で培ったノウハウとインフラを活かし、中山間地域デジタルデバイド解消など、より広い地域貢献を果たす役割も担っていくでしょう。

 

【まとめ】
株式会社長野県協同電算は、JAグループ長野の事業をITの力で支える、まさに「縁の下の力持ち」です。その経営は、短期的な利益よりも、50年、100年先を見据えた、長期的な安定性と信頼性を最優先する哲学に貫かれています。

第52期決算における赤字は、その未来を見据えた、新データセンター建設という大きな挑戦の結果です。自己資本比率86%超という鉄壁の財務基盤は、その挑戦を支える揺るぎない体力を示しています。これからも、信州の豊かな農業と暮らしを未来に繋ぐため、地域のデジタル・インフラストラクチャーの中核として、その重要な使命を果たし続けることが期待されます。

 

【企業情報】
企業名: 株式会社長野県協同電算
所在地: 長野県長野市中御所1丁目25番1号
代表者: 代表取締役社長 眞島 実
設立: 1974年10月1日
資本金: 23億3,274万円
事業内容: JAグループ長野の情報システムの開発・運用・保守、データセンター事業、ソフトウェア開発販売、インターネットサービスプロバイダー事業「JANIS」など
株主: 長野県農業協同組合中央会、長野県信用農業協同組合連合会JA全農長野、長野県厚生連、JA共済連長野、県下JA

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