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#2180 決算分析 : 丸紅洋上風力開発株式会社 第5期決算 当期純利益 187百万円

カーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーへの期待が世界的に高まる中、四方を海に囲まれた日本にとって、次世代の主力電源として大きなポテンシャルを秘めているのが「洋上風力発電」です。秋田港・能代港で国内初の商業運転が開始されるなど、今まさに日本のエネルギー史の新たなページが開かれようとしています。この巨大な国家プロジェクトを、総合商社として長年培ってきた知見とネットワークでリードする企業があります。

今回は、大手総合商社・丸紅グループの中で、洋上風力発電事業の開発と運営を専門に手掛ける、丸紅洋上風力開発株式会社の決算を読み解き、その事業戦略と、日本のエネルギーの未来を担う役割に迫ります。

丸紅洋上風力開発決算

【決算ハイライト(第5期)】
資産合計: 596百万円 (約6.0億円)
負債合計: 306百万円 (約3.1億円)
純資産合計: 290百万円 (約2.9億円)
当期純利益: 187百万円 (約1.9億円)

自己資本比率: 約48.7%
利益剰余金: 190百万円 (約1.9億円)

設立5期目という若い会社ながら、当期純利益で約1.9億円を確保し、着実に利益剰余金を積み上げている点が注目されます。自己資本比率も約48.7%と健全な水準を維持しており、親会社である丸紅の強力なバックアップのもと、安定した経営基盤が築かれていることがうかがえます。洋上風力という超長期・巨額の投資が必要な事業の開発段階を担う企業として、順調な滑り出しを見せていると言えます。

企業概要
社名: 丸紅洋上風力開発株式会社 (MOWD)
設立: 2020年4月
株主: 丸紅株式会社 (100%出資)
事業内容: 国内外における洋上風力発電事業の開発・運営

mowd.jp

 

【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、数十年単位の超長期プロジェクトである洋上風力発電所のライフサイクル全てに関与する、極めて専門的かつ総合的なものです。

✔事業開発(デベロッパー業務)
洋上風力発電の候補地選定から、風況調査、環境影響評価、各種許認可の取得、地元関係者(特に漁業関係者)との協議・共存策の構築まで、プロジェクトの最も初期段階を担います。これは、事業の成否を決定づける最も重要なフェーズです。

✔EPC(設計・調達・建設)マネジメント
風車の選定・調達、基礎構造物の設計、そして特殊船(SEP船)を用いた洋上での建設工事全体の計画策定と管理(マネジメント)を行います。同社は、親会社である丸紅が英国での洋上風力事業や、秋田港・能代港プロジェクトを主導した経験から得た、国内随一の技術力と交渉力を有しています。

ファイナンス組成
洋上風力発電は数千億円規模の資金を必要とするため、プロジェクトファイナンスの組成が不可欠です。同社は、秋田港・能代港プロジェクトで国内初の洋上風力向けプロジェクトファイナンスを成功させた実績と、丸紅グループとしての高い信用力を武器に、大規模な資金調達を可能にしています。

✔運営管理(O&M)
建設した発電所の長期にわたる安定稼働を維持するための、運転管理とメンテナンス(O&M - Operation & Maintenance)も重要な事業領域です。能代市に運転管理事務所を構え、福島での浮体式実証事業などで培ったノウハウを活かしています。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本政府は、2040年までに3,000万~4,500万kWの洋上風力発電を導入するという野心的な目標を掲げており、市場はまさにこれから本格的な成長期を迎えます。再エネ海域利用法などの法整備も進み、国内外から多くの事業者が参入し、競争が激化しています。この競争を勝ち抜くためには、技術力、資金調達力、そして地域との共生を実現する対話力が不可欠です。

✔内部環境
同社は、丸紅グループが2011年から国内外で先行して蓄積してきた洋上風力に関する知見、経験、人脈を全て継承する形で設立された、専門家集団です。現在の財務諸表は、あくまで開発主体である同社単体のものであり、実際のプロジェクトは数千億円規模の特別目的会社(SPC)を設立して推進されます。同社の役割は、この巨大プロジェクトを成功に導くための司令塔であり、その価値は貸借対照表の数字以上に、所属する約85名の専門人材のノウハウにあります。

✔安全性分析
自己資本比率約48.7%と財務的な安定性は確保されています。しかし、それ以上に重要なのは、100%親会社である丸紅株式会社の存在です。丸紅は、この洋上風力事業をグループの成長戦略の重要な柱と位置付けており、同社に対して強力な資金的・人的支援を行っています。そのため、同社の事業継続に関する安全性は極めて高いと言えます。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・丸紅グループとして、国内外で先行してきた豊富な事業実績と経験
・事業開発からEPC管理、ファイナンス、O&Mまで一貫して手掛ける総合力
・親会社である丸紅の、絶大な信用力とグローバルネットワーク
・「秋田港・能代港」「山形県遊佐町沖」などで事業者として選定された、高いプロジェクト組成能力

弱み (Weaknesses)
・事業の成果が表れるまでには、10年以上の非常に長い期間を要する
・国内での実績がまだ限定的であり、人材育成が継続的な課題

機会 (Opportunities)
・政府の強力な後押しによる、国内洋上風力市場の爆発的な拡大
・従来の着床式に加え、日本の地理的条件に適した浮体式洋上風力という新たな市場
・脱炭素化を目指す企業との、グリーン電力供給に関する長期契約(コーポレートPPA)

脅威 (Threats)
・国内外のエネルギー企業や商社との、洋上風力開発区域をめぐる厳しい入札競争
サプライチェーンの混乱や資材高騰による、建設コストの上昇リスク
・許認可の遅れや、地域・漁業関係者との合意形成の難航による、プロジェクトの遅延

 

【今後の戦略として想像すること】
同社は、「海風とともにいきる時代をつくる」というビジョンのもと、日本の洋上風力のリーディングカンパニーとしての地位を不動のものにしていく戦略を推進します。

✔短期的戦略
現在進行中の「秋田港・能代港」プロジェクトの安定稼働と、事業者として選定された「山形県遊佐町沖」プロジェクトの着実な開発推進が最優先課題です。これらのプロジェクトを成功させることで、国内における実績を積み上げ、さらなる案件受注に向けた競争優位性を高めていきます。

✔中長期的戦略
政府が今後公募を行う新たな海域での事業権獲得を目指し、全国で有望地点の調査・開発を継続していくでしょう。また、スコットランドで手掛けるような大規模浮体式洋上風力の知見を日本に導入し、日本の排他的経済水域EEZ)での事業展開も視野に入れていると考えられます。将来的には、洋上風力で発電した電力を活用したグリーン水素の製造など、エネルギーの供給に留まらない新たな価値創造にも挑戦していく可能性があります。

 

【まとめ】
丸紅洋上風力開発株式会社は、単なる発電事業者ではありません。それは、総合商社・丸紅が持つプロジェクト遂行能力、金融ノウハウ、そしてグローバルな知見を結集し、日本のエネルギーの未来を創造する「開拓者」です。設立からわずか5年で着実に利益を上げ、安定した経営基盤を築きながら、秋田、山形といった地で、地域と手を携えながら巨大プロジェクトを推進しています。同社の挑戦は、日本のカーボンニュートラル実現に向けた道のりそのものであり、その力強い風が、私たちの暮らしや産業に新たな活力をもたらすことが期待されます。

 

【企業情報】
企業名: 丸紅洋上風力開発株式会社
所在地: 東京都千代田区大手町一丁目4番2号
代表者: 代表取締役社長 真鍋 寿史
設立: 2020年4月
資本金: 5,000万円
事業内容: 国内・海外における洋上風力発電事業の開発・運営
株主: 丸紅株式会社 (100%出資)

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