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#1894 決算分析 : 株式会社丹後蔵 第19期決算 当期純利益 ▲9百万円

京都府の北部、美しい日本海に面した京丹後市。この地で育まれたサツマイモ「京かんしょ」と、神社の御神水を使って、京都で唯一の芋焼酎を醸す小さな焼酎蔵があります。その名は「丹後蔵」。数々の品評会で金賞を受賞するなど、その品質は専門家からも高く評価されています。しかし、今回明らかになったその決算内容は、純資産がマイナス2,200万円という「債務超過」、そして約9百万円の当期純損失という、極めて厳しい経営の現実でした。「丹後を『お酒』と『食』で元気にさせる」という熱い志と、高い評価を受ける製品。その裏側で、なぜ経営は苦境に立たされているのか。その構造的な課題と再生への道を、決算書から探ります。

今回は、京都府唯一の芋焼酎蔵として、地域の未来を醸す株式会社丹後蔵の決算を読み解き、その事業内容と経営課題をみていきます。

丹後蔵決算

決算ハイライト(第19期)
資産合計: 22百万円 (約0.2億円)
負債合計: 44百万円 (約0.4億円)
純資産合計: ▲22百万円 (約▲0.2億円)

当期純損失: 9百万円 (約0.1億円)

利益剰余金: ▲34百万円 (約▲0.3億円)

 

今回の決算で最も衝撃的なのは、純資産がマイナス約2,200万円という深刻な「債務超過」の状態にあることです。これは、会社の資産をすべて売却しても負債を返済しきれないことを意味し、財務的には極めて危険な水域にあることを示しています。利益剰余金もマイナス約3,400万円と巨額の累積損失を抱え、当期も約9百万円の純損失を計上。事業を継続するためには、抜本的な経営改善と外部からの資金支援が不可欠な状況です。高い品質を誇る製品とは裏腹に、ビジネスモデルそのものに構造的な課題があることが強く示唆されます。

 

企業概要
社名: 株式会社 丹後蔵
設立: 2006年
事業内容: 京都府京丹後市における本格焼酎芋焼酎)の製造・販売。地元の酒蔵有志によって設立された。

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【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、「地域貢献」と「本物へのこだわり」という、極めて高潔な理念に支えられています。しかし、それがビジネスとしての収益性と結びついていない点が、大きな課題として浮かび上がります。

地域資源を活かした「京都唯一」の芋焼酎
同社の事業の核心は、その徹底した地元へのこだわりにあります。原料芋は、京丹後市内で生産されたブランドさつまいも「京かんしょ」のみを使用。仕込み水には、金刀比羅神社の御神山から湧き出る水を使うなど、まさに丹後のテロワール(土地の個性)を瓶に詰めた焼酎です。これにより、「京都府内初の芋焼酎」という、他にはない強力なブランドストーリーを構築しています。その品質は、東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)で最高金賞を受賞するなど、国内外で高い評価を獲得しています。

✔小規模生産ゆえのジレンマ
「こだわり」は高い品質を生む一方で、経営上の制約にもなります。原料を地元産に限定しているため、生産量は限られ、スケールメリットを追求することが困難です。また、高品質な原料や、手間暇をかけた製法は、高い製造コストに繋がります。この高いコストを、小規模な販売量で吸収し、利益を確保することが、同社のビジネスモデルにおける最大の課題であると推察されます。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
クラフトジンやクラフトウイスキーのブームに見られるように、消費者の嗜好は多様化しており、ストーリー性のある小規模な蒸留所の製品への関心は高まっています。これは、同社にとって大きな追い風です。また、ふるさと納税の返礼品や、オンラインショップでの直販は、新たな顧客を獲得する上で重要なチャネルとなります。一方で、酒類業界全体の競争は激しく、大手メーカーの製品や、より安価な焼酎との価格競争に常に晒されています。

✔内部環境
「TWSC最高金賞」という客観的な評価は、何物にも代えがたいブランド資産です。しかし、債務超過という財務状況が、経営のあらゆる足かせとなっています。新製品開発や、販路拡大のためのマーケティング活動、生産効率を上げるための設備投資など、成長に必要な投資を自己資金で行うことはほぼ不可能です。金融機関からの追加融資も極めて困難な状況であり、経営はまさに崖っぷちに立たされていると言えます。

✔安全性分析
財務安全性は「極めて低い」と評価せざるを得ません。債務超過は、実質的な倒産状態であり、事業の継続性そのものが危ぶまれる状況です。この事業が現在も継続できているのは、設立母体である地元の酒蔵経営者など、株主からの個人的な資金支援や、金融機関との特別な交渉によって支えられている可能性が高いと考えられます。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・TWSC最高金賞受賞に裏打ちされた、極めて高い製品品質
・「京都唯一の芋焼酎」「京かんしょ使用」といった、明確で魅力的なブランドストーリー
・地域の酒蔵有志による設立という、地域社会との強固な結びつき

弱み (Weaknesses)
債務超過という、極めて脆弱な財務基盤
・小規模生産に起因する、高い製造コストと低い価格競争力
・限られた販売チャネルと、マーケティング・営業力の不足

機会 (Opportunities)
・国内外でのクラフトスピリッツ市場の拡大と、日本製焼酎への関心の高まり
・オンラインショップやふるさと納税などを活用した、全国への販路拡大
・地域の観光資源(天橋立など)と連携した、観光客向けの新たな商品開発や体験コンテンツの提供

脅威 (Threats)
・サツマイモ基腐病(もとぐされびょう)など、原料芋の病害による収穫量減少リスク
・大手酒造メーカーや他の焼酎産地との厳しい競争
酒類に対する消費の減少トレンド
・燃料費や資材費の高騰による、さらなるコスト上昇

 

【今後の戦略として想像すること】
この危機的な財務状況を脱し、事業を再生させるためには、抜本的な改革が不可欠です。

✔短期的戦略
まずは、経営の存続をかけた資金調達が最優先課題です。事業の将来性を訴え、地域活性化に貢献するという大義を掲げ、地域の金融機関や自治体、あるいは新たなスポンサーからの増資や支援を取り付ける必要があります。同時に、聖域なきコスト削減と、既存製品の値上げも含めた価格戦略の見直しが急務です。

✔中長期的戦略
事業再生の鍵は、「ブランド価値の収益化」です。単に製品を売るだけでなく、「丹後蔵」というブランドそのものを収益源に変えていく必要があります。例えば、TWSC最高金賞という実績を武器に、大手酒造メーカーや小売業とライセンス契約を結び、製造・販売を委託することで、自社の製造・販売コストを抑えつつ、ブランドの認知度と収益を拡大する戦略が考えられます。また、蒸留所見学ツアーや、焼酎造り体験といった観光コンテンツを開発し、「コト消費」の需要を取り込むことも有効です。

 

まとめ
株式会社丹後蔵の第19期決算は、債務超過という厳しい経営の現実を浮き彫りにしました。その背景には、高い志と品質へのこだわりが、必ずしもビジネスの成功に直結しないという、小規模メーカーが直面する共通の課題があります。しかし、その手の中には「TWSC最高金賞」という、世界に通用する輝かしい宝があります。このブランド価値をいかにして収益に変え、事業を再生させていくのか。地域の夢を乗せた小さな焼酎蔵は、今、まさに正念場を迎えています。その再生の物語に、多くの人が期待を寄せています。

 

企業情報
企業名: 株式会社 丹後蔵
所在地: 京都府京丹後市峰山町泉17番地
代表者: 代表取締役 中川 正樹
設立: 2006年
資本金: 12,000千円
事業内容: 京都府京丹後市産のさつまいも「京かんしょ」を原料とした、本格焼酎芋焼酎)の製造・販売。

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