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#1728 決算分析 : Braze株式会社 第5期決算 当期純利益 79百万円

LINE、プッシュ通知、パーソナライズされたメール…私たちのスマートフォンに日々届く企業からのメッセージ。その裏側で、一人ひとりに最適な情報を最適なタイミングで届ける「顧客との対話」を演出する、最先端のテクノロジーがあります。今回は、その分野で世界をリードする米国企業Brazeの日本法人、Braze株式会社の決算を分析します。決算公告では「債務超過」となっているものの、当期には約7,900万円もの純利益を計上しているという、一見すると矛盾した財務状況が浮かび上がりました。これは何を意味するのか。グローバルIT企業の日本市場攻略における、アグレッシブな成長戦略と、その成果が表れ始めた現在の姿に迫ります。

Braze決算

決算ハイライト(第5期)
資産合計: 1,054百万円 (約10.5億円)
負債合計: 1,121百万円 (約11.2億円)
純資産合計: ▲67百万円 (約▲0.7億円)

当期純利益: 79百万円 (約0.8億円)

利益剰余金: ▲764百万円 (約▲7.6億円)

 

今回の決算における最大の注目点は、純資産がマイナスとなる「債務超過」の状態でありながら、当期純利益として79百万円の黒字を達成している点です。これは、同社が重要な転換点を迎えたことを示唆しています。設立以来の累積損失は約7.6億円に達しており、これは日本市場での顧客基盤確立とブランド認知度向上のため、マーケティング費用や人件費を積極的に先行投資してきた結果です。そして今期、その投資が実を結び、事業が単年度黒字化を達成しました。債務超過という過去の投資の痕跡を残しつつも、事業そのものは力強い収益を生み出すフェーズに入ったと言え、今後のV字回復を予感させる決算内容です。

 

企業概要
社名: Braze株式会社
設立: 2020年7月
親会社: Braze, Inc.(米国NASDAQ上場)
事業内容: カスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Braze」の日本市場における販売、導入支援、カスタマーサポート

www.braze.com

 

【事業構造の徹底解剖】
Braze株式会社は、米国ニューヨークに本社を置き、NASDAQ市場に上場するBraze, Inc.の日本法人です。同社が提供するプラットフォーム「Braze」は、現代のデジタルマーケティングにおいて不可欠なツールとなりつつあります。

✔「カスタマーエンゲージメント」とは?
これは、企業が顧客と一方的な情報発信ではなく、双方向のコミュニケーションを通じて、長期的で良好な関係(エンゲージメント)を築くための考え方や活動全般を指します。Brazeは、このエンゲージメントをテクノロジーで実現するためのプラットフォームです。

✔Brazeプラットフォームの役割
Brazeは、企業のマーケティング活動における「頭脳」であり「神経網」です。顧客に関するあらゆるデータ(スマートフォンのアプリ利用状況、Webサイトの閲覧履歴、購買履歴など)をリアルタイムに統合・分析。そして、「どの顧客に、どのタイミングで、どのチャネル(LINE、メール、プッシュ通知など)を使って、どのようなメッセージを送るのが最も効果的か」という判断を、AIも活用しながら自動的に実行します。これにより、企業は顧客一人ひとりに対して、まるで専属のコンシェルジュがいるかのような、きめ細やかでパーソナライズされたコミュニケーションを大規模に展開することが可能になります。

✔ビジネスモデル
Braze株式会社は、この強力なプラットフォームを、日本の企業(サンリオ、マネーフォワード、YAMAPなど、すでに多数の大手企業が導入)に対し、月額課金制などのSaaS(Software as a Service)モデルで提供しています。さらに、導入時の技術支援や、導入後の効果を最大化するための活用コンサルティングも重要なサービスとなっています。

 

【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
デジタル化の急速な進展により、企業と顧客との接点は、店舗やWebサイトだけでなく、スマートフォンアプリ、SNS、LINEなど、無数に多様化・複雑化しています。これらの全てのチャネルを横断し、顧客一人ひとりに対して一貫性のある、心地よい体験を提供することが、企業の競争力を左右する重要な鍵となっています。この流れを受け、Brazeが事業を展開するカスタマーエンゲージメントプラットフォーム(CEP)市場は、日本でも急速に拡大しています。

✔内部環境(黒字転換の意義)
今回の黒字化は、日本市場攻略のための先行投資フェーズが終わり、収穫期に入り始めたことを意味します。これまで積み上がった債務超過と累積損失は、優秀な人材の獲得や大規模なマーケティング活動といった、市場シェアを急速に拡大するための戦略的な投資の結果です。その運営資金は、米国本社からの借入金(親子ローン)などで賄われている可能性が高く、これは決算書の「流動負債」が11億円と大きいことからも示唆されます。そして今期、これらのコストを上回る収益をSaaSの月額課金収入などから得られるようになり、事業が自律的な成長サイクルに入ったことを証明しました。

✔安全性分析
Braze株式会社単体の決算書だけを見れば、債務超過であり、財務安全性は低い状態です。しかし、NASDAQに上場し、グローバルで成功を収めている巨大な親会社が100%株主であることを考慮すれば、実質的な倒産リスクは皆無に等しいと言えます。親会社の強固な財務体力と成長戦略の一環として、日本法人の事業は完全に支えられており、今後は生み出した利益によって財務状況も改善していくものと予想されます。

 

SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・ForresterやGartnerといった国際的な調査会社が高く評価する、世界最高レベルの製品力と最先端の技術力(特にAI活用)
・米国NASDAQ上場企業である親会社が持つ、グローバルなブランド力と高い社会的信用力
・LINEをはじめとする、日本市場特有のコミュニケーションチャネルにきめ細かく対応できる製品ローカライズ能力
・すでに国内で多数の有名企業を顧客に持つ、豊富な導入実績

弱み (Weaknesses)
・先行投資の結果として、現状では債務超過・累積損失という財務上の課題を抱えていること
・日本市場では後発組であり、先行する国内・海外の競合他社との厳しい競争に晒されていること
・高機能である分、製品の価格帯も比較的高価であると推測され、中小企業にとっては導入のハードルが高い可能性がある

機会 (Opportunities)
・日本企業全体における、DX(デジタルトランスフォーメーション)とデータドリブンマーケティングへの移行という、不可逆的な大きな潮流
・リテール、Eコマース、金融、メディア、旅行など、顧客とのダイレクトな関係構築が重要となる、あらゆる業界での巨大な導入ポテンシャル
・AI技術のさらなる進化による、より高度で自動化されたマーケティング活動の実現

脅威 (Threats)
・国内外の競合他社による、より安価な、あるいは特定の機能に特化した製品の登場による、価格競争の激化
・改正個人情報保護法など、プライバシーに関する規制が世界的に強化されることによる、顧客データの活用への制約
・長期的な景気後退による、日本企業のマーケティング関連IT投資の抑制や削減
・プラットフォームの根幹を揺るがす、大規模なシステム障害やサイバーセキュリティインシデントの発生リスク

 

【今後の戦略として想像すること】
黒字化を達成した今、Braze株式会社は、成長をさらに加速させるフェーズに入ります。

✔短期的戦略
今期の黒字化という実績をテコに、導入事例をさらに増やし、日本市場での認知度とシェアを拡大することに全力を注ぐでしょう。特に、各業界のリーディングカンパニーを顧客として獲得し、その成功事例を積極的に発信していくことで、市場での優位性を確固たるものにしていきます。

✔中長期的戦略
まずは、継続的な黒字を達成し、累積損失を解消して債務超過の状態から脱却することが目標となります。その上で、日本企業のユニークなニーズを米国本社の製品開発にフィードバックし、より日本市場に最適化された機能を提供していくことで、競合に対する優位性を盤石なものにしていくでしょう。将来的には、日本法人をアジア太平洋(APAC)地域における重要戦略拠点として、さらなる事業拡大を担っていくことも期待されます。

 

まとめ
Braze株式会社の決算書は、グローバルIT企業による日本市場攻略の、ダイナミックなストーリーを物語っています。設立以来の戦略的な先行投資の結果として生じた債務超過という過去の痕跡を残しながらも、事業は見事に花開き、当期純利益の黒字化という大きな果実を実らせました。これは、同社のビジネスが失敗ではなく、計算された成長戦略の成功した一つの過程であることを示しています。世界最高峰のカスタマーエンゲージメント技術を武器に、親会社の強力な支援のもと、日本市場でのアクセルをさらに踏み込んでいくでしょう。日本の多くの企業が顧客との新しい関係構築に悩む中、Brazeが提供するソリューションは、その強力な処方箋となる可能性を秘めています。

 

企業情報
企業名: Braze株式会社
所在地: 東京都港区赤坂9−7−1 ミッドタウンタワー18階
設立: 2020年7月
代表者: 代表取締役社長 水谷 篤尚
事業内容: カスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Braze」の日本国内における販売・導入支援・カスタマーサポート
親会社: Braze, Inc.(米国)

www.braze.com

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