カーボンニュートラル社会の実現に向け、究極のクリーンエネルギーとして期待される「水素」。その中でも、体積を800分の1にでき、大量輸送・貯蔵に適した「液体水素」の輸送を専門に担う、日本液体水素株式会社。水素事業のパイオニアである岩谷産業グループの中核物流企業として、来るべき水素社会のサプライチェーンを支える同社の第13期(令和7年3月31日現在)の決算公告が、2025年6月17日付の官報に掲載されました。日本の未来を運ぶ同社の経営状況と、その事業が持つ大きな可能性について考察します。 ![]()

第13期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 275 (約2.8億円)
負債合計: 175 (約1.7億円)
純資産合計: 100 (約1.0億円)
当期純利益: 25 (約0.3億円)
今回の決算では、当期純利益として25百万円を計上し、黒字経営の基盤を固めつつあります。2012年の設立から13期を経て、自己資本比率も約36.4%と健全な水準を確保。水素インフラという、大規模な先行投資が求められる事業領域において、着実な歩みを進めていることがうかがえます。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
日本液体水素株式会社は、その社名の通り、マイナス253℃という超低温物質である「液体水素」の輸送に特化した、国内でも数少ない専門物流企業です。産業ガス・LPガスの国内最大手であり、水素事業の世界的リーダーでもある岩谷産業株式会社を親会社に持つ、イワタニグループの物流中核企業です。
液体水素・水素ガスの輸送:
山口県周南市に拠点を置き、大阪府堺市や千葉県袖ケ浦市の製造拠点から、西日本全域の需要家へ、特殊なタンクローリーを用いて液体水素や水素ガスを安全・安定的に供給しています。
同社の事業の中で最も象徴的なのが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の種子島宇宙センターへ、国産基幹ロケットの燃料となる液体水素を届けるという、極めて重要かつ高度なミッションです。これは、同社の技術力と信頼性が、国家的なプロジェクトにおいても不可欠であることを示しています。
【財務状況と今後の展望・課題】
第13期決算で黒字化を達成し、安定経営への軌道に乗り始めたことは、水素エネルギーの需要が着実に拡大していることを示唆しています。貸借対照表の規模はまだ大きくありませんが、これは同社が担う役割の重要性と将来のポテンシャルを考えれば、まさに「黎明期」にあると言えます。
水素社会の実現に向けて、日本液体水素が持つ強みは計り知れません。
親会社である岩谷産業は、水素の製造、貯蔵、輸送、供給(水素ステーションなど)に至るまで、サプライチェーン全体を構築しています。日本液体水素は、その中で「運ぶ」という動脈の役割を担っており、グループの総合力を背景に事業を展開できることが最大の強みです。
超低温輸送の高度な専門技術と安全管理ノウハウ:
マイナス253℃の液体水素を安全に輸送するには、断熱性能に優れた特殊な車両と、専門的な知識・訓練を受けたドライバー、そして厳格な安全管理体制が不可欠です。この専門分野に特化していること自体が、他社が容易に参入できない高い障壁となっています。
国家的プロジェクトを支える信頼性:
JAXAのロケット燃料輸送という、一分の隙も許されないミッションクリティカルな業務を長年担ってきた実績は、同社の技術力と安全管理体制が、日本最高レベルにあることの何よりの証明です。
今後の成長戦略は、国策でもある「水素社会」の実現と完全にシンクロしています。
1.燃料電池自動車(FCV)普及に伴う需要拡大
トヨタの「MIRAI」をはじめとするFCVや、燃料電池で走るトラック・バスの普及が本格化すれば、全国の水素ステーションへ液体水素を配送する需要が爆発的に増加します。同社は、その物流ネットワークの中心的な担い手となることが期待されています。
2.水素発電・産業利用への対応
カーボンニュートラル実現の切り札として、大規模な水素発電所の建設や、製鉄・化学といった産業分野での水素利用が計画されています。これらの実現には、これまでとは桁違いの量の水素を、安定的かつ効率的に輸送するインフラが不可欠であり、同社の役割はますます重要になります。
3.液化水素サプライチェーンの国際化への貢献
将来的には、海外で安価に製造されたグリーン水素(再生可能エネルギー由来)などを、液化水素の形で輸入する時代が来ると言われています。その際、港の輸入基地から国内の需要家へと繋ぐ「ラストワンマイル」の輸送を担うのも、同社のような専門企業の重要な役割となります。
日本液体水素株式会社は、今はまだ未来への助走段階にある企業かもしれません。しかし、その事業は、日本のエネルギー政策、環境問題、さらには宇宙開発という国家戦略の根幹を支えています。「水素社会の実現に向けて、一躍を担っています」という言葉の通り、来るべき新しい時代の主役となるポテンシャルを秘めた、注目すべき企業と言えるでしょう。
企業情報
企業名: 日本液体水素株式会社
所在地: 大阪市淀川区西中島五丁目5番15号(登記上の本店)
代表者: 小賦 洋和
事業内容: 水素事業のパイオニアである岩谷産業のグループ会社。マイナス253℃の液体水素や水素ガスの輸送を専門に行う。JAXA種子島宇宙センターへのロケット燃料輸送も担う、水素社会の物流インフラを支える中核企業。