イオンのショッピングセンターに併設されたガソリンスタンド「ペトラス(PETRAS)」を全国に展開する、メガペトロ株式会社。イオンと三菱商事グループの共同出資により設立された同社の第29期(2025年2月期)決算が、2025年5月27日付の官報に掲載されました。「買い物ついでに給油」という利便性で、地域のカーライフを支えてきた同社。EV化や燃費向上という逆風の中、新たな活路を見出そうとする同社の経営状況と事業戦略に迫ります。
第29期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 3,814百万円 (約38.1億円)
負債合計: 2,668百万円 (約26.7億円)
純資産合計: 1,146百万円 (約11.5億円)
当期純損失: 11百万円 (約0.1億円)
今回の決算では、当期純損失として11百万円(約0.1億円)が計上されました。事業環境の厳しさがうかがえる結果となりましたが、損失額は限定的です。純資産合計は約11.5億円と厚く、自己資本比率は30.0%を確保しており、財務基盤の安定性は維持されています。
資本金1億円に対し、利益剰余金が1,046百万円(約10.5億円)と、資本金の10倍以上に積み上がっている点は、同社が設立以来、長年にわたり安定した黒字経営を継続してきたことを示しています。今回の損失は、厳しい事業環境への対応や、次なる成長への先行投資の結果である可能性も考えられます。
事業内容と今後の展望(考察)
【事業内容の概要】
メガペトロは、一般的なガソリンスタンド運営会社とは一線を画す、独自の成り立ちと事業モデルを持っています。
イオングループSC併設型ガソリンスタンド「ペトラス」の運営:
同社の事業の核心は、イオングループが全国に展開するショッピングセンター(SC)の広大な駐車場内に、ガソリンスタンド「ペトラス」を出店・運営することです。そのコンセプトは“SUPPLY PETROL AS SHOPPING”。買い物客が、その利便性から「ついでに給油」できるという、強力な集客モデルを基盤としています。全国に55店舗を展開し、ガソリン・軽油・灯油といった燃料油を供給しています。
カーライフ事業へのシフト:
自動車の燃費向上やEV化により、燃料油の販売量は長期的に減少傾向にあります。この構造変化に対応すべく、同社は単なる「ガソリンを売る場所」から、「トータルなカーライフをサポートする場所」への転換を急いでいます。具体的には、ドライブスルー洗車、キーパーコーティング、タイヤ販売・交換、オイル交換、車検といった、燃料油以外のサービス(フューエル外商品)の強化に注力しています。
イオンと三菱商事グループのシナジー:
同社は、イオン株式会社が70%、三菱商事株式会社が20%、三菱商事エネルギー株式会社が10%を出資するジョイントベンチャーです。これにより、イオンの圧倒的な集客力と優良な出店立地、そして三菱商事グループが持つ燃料油の安定調達力とエネルギー事業のノウハウという、両社の強みを最大限に活用できる、他に類を見ない強力な事業基盤を誇っています。
【財務状況と今後の展望・課題】
第29期決算における1,100万円の純損失は、社長メッセージにもある通り、「自動車の燃費向上・電動化や住宅のオール電化等」に起因する、燃料油販売の減少という構造的な逆風を真正面から受けた結果と言えるでしょう。ガソリンスタンド業界全体が直面する厳しい現実が、同社の決算にも表れています。
しかし、10億円を超える利益剰余金が示す通り、同社にはこの逆風に立ち向かうための経営体力と、事業構造を変革するための投資余力が十分にあります。今回の損失は、赤字に甘んじているというよりも、カーライフ事業への転換を加速させるための人材育成や設備投資を積極的に行った結果である可能性が高いと考えられます。
この「イオンの集客力を背景に、燃料油販売からカーライフ事業へと収益構造を転換する」という挑戦こそが、メガペトロの現在の最重要課題であり、未来を左右する鍵となります。
その強みは、何と言っても「イオンSCの駐車場」という一等地のリアル拠点です。インターネットでは購入できないガソリンや、専門的な知識・設備が必要なタイヤ交換・車検といったサービスにとって、多くの顧客が日常的に訪れるSCの立地は、これ以上ないアドバンテージです。
しかし、その挑戦には困難も伴います。
第一に、「カーライフ事業における競争の激化」です。タイヤや車検、カーコーティングといった分野には、カー用品専門店や自動車整備工場など、強力な専門業者が多数存在します。その中で、ガソリンスタンドである「ペトラス」が顧客から選ばれるためには、価格競争力だけでなく、高い技術力と信頼性を証明していく必要があります。
第二に、「ガソリンスタンド過疎化という社会的課題への対応」です。地方ではガソリンスタンドの閉鎖が相次ぎ、「ガソリン難民」「灯油難民」が社会問題化しています。イオンSCと共に地域社会の生活インフラを担う同社にとって、採算性が厳しい店舗をどう維持していくかは、企業の社会的責任として重くのしかかります。
今後の展望として、メガペトロは、カーライフ事業のサービスメニューをさらに拡充し、収益の柱として育てていくことが急務となります。例えば、EVの普及を見据え、急速充電ステーションの増設や、EV向けのメンテナンスサービスの提供なども視野に入ってくるでしょう。
また、「危険物を扱うプロ」として、保安管理体制をさらに強化し、顧客からの「安全・安心」への信頼を高めていくことも不可欠です。
「リアル店舗が持つ強みに大きな活路を求めたい」。その言葉通り、メガペトロは、単に燃料を供給する場所から、人が集い、クルマに関するあらゆる相談ができる地域の「カーライフ拠点」へと、その姿を変えようとしています。イオンと三菱商事という二大巨人のサポートを背に、この大きな変革を成し遂げられるか。その挑戦は、日本のガソリンスタンド業界全体の未来を占う上でも、重要な試金石となるはずです。
企業情報
企業名: メガペトロ株式会社
代表者: 代表取締役社長 名倉 稔博
事業内容: イオン株式会社と三菱商事グループの共同出資会社。全国のイオンショッピングセンター内においてガソリンスタンド「ペトラス」を運営。燃料油の販売に加え、近年はタイヤ販売、カーコーティング、車検といったカーライフ事業の強化に注力している。