決算データ倉庫

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#1054 米屋株式会社 第80期決算 当期純利益 5百万円

成田山新勝寺の参道に總本店を構え、1899年(明治32年)の創業以来、125年以上にわたり「栗羊羹」をはじめとする和菓子で人々の心に「なごみ」を届けてきた、米屋株式会社。同社の第80期(2025年3月期)決算が、2025年5月26日付の官報に掲載されました。伝統の味を守りながらも、時代のニーズに合わせて革新を続ける老舗企業の経営状況と、その事業戦略の核心に迫ります。 

20250331_80_米屋決算

第80期 決算のポイント(単位:百万円)
資産合計: 7,897百万円 (約79.0億円)

負債合計: 4,980百万円 (約49.8億円)

純資産合計: 2,917百万円 (約29.2億円)

当期純利益: 5百万円 (約0.1億円)

 

今回の決算では、当期純利益として5百万円(約0.1億円)を確保しました。厳しい経営環境の中、黒字を維持している点は、同社の経営の安定性を示しています。純資産合計は約29.2億円、自己資本比率は37.0%と、製造業として健全な財務基盤を維持しています。

特筆すべきは、資本金1億円に対し、利益剰余金が2,778百万円(約27.8億円)と、資本金の27倍以上にまで積み上がっている点です。これは、1世紀以上にわたる歴史の中で、着実に利益を蓄積し、強固な財務基盤を築き上げてきたことの証であり、老舗としての信用力の源泉となっています。

事業内容と今後の展望(考察)


【事業内容の概要】
米屋株式会社は、単なる和菓子メーカーではありません。伝統的な直営店での販売を核としながら、現代的な流通チャネルへの卸売、そして不動産事業まで手掛ける、多角的な事業体です。

和洋菓子の製造・販売事業(伝統と革新):
同社の事業の根幹は、もちろん菓子の製造と販売です。

1.伝統の継承

創業以来の看板商品である「栗羊羹」をはじめ、伝統的な製法を守り続ける和菓子は、成田山参詣の土産物として、また贈答品として、長年愛され続けています。

2.革新的な商品開発

伝統を守る一方で、千葉県の名産品を活かした大ヒット商品「ぴーなっつ最中」や、洋風まんじゅう「なごみるく」など、時代のニーズに合わせた新しいヒット商品を次々と生み出しています。モンドセレクション金賞受賞など、その品質は国際的にも高く評価されています。

3.技術革新の歴史

日本で初めて羊羹をアルミ箔の紙函に直接充填する技術や、「缶入り水ようかん」を開発するなど、その歴史は革新の連続です。

 

多様な販売チャネル:
成田山参道の「總本店」をはじめとする路面店、千葉県内の百貨店やスーパー内のインストア店舗といった直営店網に加え、全国のスーパーマーケットやコンビニエンスストアへの卸売を行う流通事業も展開。幅広い顧客層に商品を届ける体制を構築しています。

 

不動産事業:
貸ビル・貸店舗といった不動産事業も手掛けており、これが安定した収益基盤の一翼を担っているものと推察されます。

 

【財務状況と今後の展望・課題】
第80期決算における500万円の純利益は、厳しいながらも事業が安定していることを示しています。原材料価格の高騰や、ライフスタイルの変化に伴う贈答品市場の変動など、菓子業界を取り巻く環境は決して平坦ではありません。その中で黒字を確保できているのは、看板商品である「ぴーなっつ最中」などの定番ヒット商品が、安定した売上を稼ぎ出していることに加え、流通事業や不動産事業が収益を下支えしているためと考えられます。

貸借対照表を見ると、固定資産が約56.4億円と、総資産の7割以上を占めています。その中でも有形固定資産が約49.0億円と大きいのは、成田市野毛平工業団地にある近代的な第二工場や、多数の直営店舗といった、高品質な製品を安定的に製造・販売するための設備・不動産へ、長年にわたり積極的に投資してきた結果です。27億円を超える利益剰余金は、こうした投資の原資となってきました。

この「伝統とブランド力に裏打ちされた商品開発力」と「近代的な生産設備・多様な販売網」こそが、米屋の最大の強みです。


しかし、125年以上の歴史を持つ老舗企業とて、未来に向けた課題は存在します。
第一に、「若者層へのアプローチと新たなヒット商品の創出」です。和菓子市場全体の顧客層が高齢化する中で、いかにして若い世代に和菓子の魅力を伝え、ファンになってもらうか。そして、「ぴーなっつ最中」に続く、次代を担う新たなヒット商品を生み出し続けられるかが、長期的な成長の鍵となります。

第二に、「伝統技術の継承と人材育成」です。羊羹づくりに代表される伝統的な製法は、熟練の職人の技に支えられています。この高度な技術を、いかにして次世代に継承していくかは、老舗企業にとって永遠の課題です。

 

今後の展望として、米屋は、そのブランド力と商品開発力を活かし、新たな市場を開拓していくでしょう。
短期的には、インバウンド(訪日外国人観光客)需要の回復を大きなチャンスと捉えることができます。成田という日本の空の玄関口に拠点を置く地の利を活かし、「ぴーなっつ最中」のような、日本らしく、かつ親しみやすい商品を、外国人観光客向けの新たな「東京土産」「千葉土産」としてプロモーションしていくことが期待されます。
中長期的には、ECサイトなどを活用した全国、あるいは海外への直接販売(D2C)の強化も視野に入ってくるでしょう。また、FSSC22000という国際的な食品安全認証を取得した近代的な工場は、海外の厳しい品質基準にも対応可能であり、本格的な海外輸出への道も拓かれています。

 

「心が和み、安らぎを感じるおいしい味を提供したい」。その一途な想いを、明治、大正、昭和、平成、そして令和と、5つの時代にわたって繋いできた米屋。伝統の味を守る「静」の力と、時代に合わせて変化する「動」の力をあわせ持つこの老舗が、これからも私たちの日常に「なごみ」の時間を届け続けてくれることは、間違いありません。

 

企業情報
企業名: 米屋株式会社

本社所在地: 千葉県成田市上町500番地

代表者: 代表取締役社長 諸岡良和

事業内容: 1899年創業の老舗和菓子メーカー。「栗羊羹」を伝統的な看板商品としながら、千葉県名産の落花生をかたどった「ぴーなっつ最中」などのヒット商品も開発・製造。成田山新勝寺の門前に總本店を構え、直営店、流通(卸売)、不動産事業などを展開している。

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