近年、日本のスポーツ界は単なる「競技」から「稼げるビジネス」へのパラダイムシフトを急速に求められています。そんな中、「デザインの力でスポーツ産業を進化させる」というビジョンを掲げ、総合家電ブランド『amadana』のDNAを受け継いで誕生したのが株式会社ase(旧・アマダナスポーツエンタテインメント)です。同社は、大学スポーツのアパレル展開から、社会人野球クラブ「東京ヴェルディ・バンバータ」の運営まで、スポーツビジネスのあらゆる局面にクリエイティブのメスを入れています。今回は、スポーツとデザインの融合に挑む同社の第7期決算を紐解き、スタートアップ特有の財務課題と、次世代スポーツビジネスの可能性について考察していきます。

【決算ハイライト(第7期)】
| 資産合計 | 130百万円 (約1.3億円) |
|---|---|
| 負債合計 | 160百万円 (約1.6億円) |
| 純資産合計 | ▲30百万円 (約▲0.3億円) |
| 当期純利益 | 4百万円 (約0.0億円) |
| 自己資本比率 | 債務超過 |
【ひとこと】
決算数値を見ると、資産合計130百万円に対して負債が160百万円と「債務超過(純資産▲30百万円)」の状況にありますが、最も注目すべきは当期純利益として4百万円の黒字を計上している点です。ブランド構築などの先行投資がバランスシートに重くのしかかっているものの、事業単体のキャッシュフローとしては確実に利益を生み出すフェーズに入りつつあると推測します。
【企業概要】
企業名: 株式会社ase(旧社名:株式会社アマダナスポーツエンタテインメント)
設立: 2018年9月25日
事業内容: スポーツビジネスとデザインマネジメントの融合によるスポーツクリエイティブ事業、アパレル企画開発、クラブ運営事業など
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は「スポーツ産業のクリエイティブ&マネジメント事業」に集約されます。具体的には、以下の部門等で構成されています。
✔スポーツクラブ・マネジメント(SCM)事業
同社の実践的な中核を担うのが、社会人軟式野球クラブ「東京ヴェルディ・バンバータ」の運営です。単なるスポンサーとしてではなく、自らがクラブチームのオーナー・運営者となることで、選手の獲得からアカデミー(U-15や学童など)の育成、そしてマーチャンダイジング(グッズ販売)までを一貫してマネジメントしています。この「自ら実践する」ことで得たリアルなノウハウを、他のプロチームや大学、実業団へのコンサルティングに還元するという、非常にユニークで説得力のある事業モデルを構築していると考えます。
✔コミュニティ・マーチャンダイジング・プラットフォーム(CMP)事業
筑波大学や東海大学など、数多くの強豪大学スポーツチームのアパレルやグッズを企画・販売するオンラインプラットフォーム「カレッジマーケット」を展開しています。米国の大学スポーツのように、学生やOB・OGが誇りを持ってカレッジロゴの入ったアパレルを日常的に身につける文化を日本に根付かせようとしています。また、部活動への差し入れを支援するプラットフォームの運営など、スポーツコミュニティの熱量を「収益」に変換するDtoC(Direct to Consumer)の仕組みを提供していると推測します。
✔ベースボール・ビジネス・トランスフォーメーション(BBX)事業
「URBAN STYLE BASEBALL」をコンセプトに、野球ブランド「BEN GENERAL」や「YABANE」の企画開発・販売を行っています。従来の「泥臭い」野球用品のイメージを覆し、日常のファッションとしても通用する洗練されたデザインのアパレルやギアを展開。プロ野球選手(オリックス・福田周平選手など)をアドバイザーに迎え、スポーツウェアとストリートファッションの境界線を曖昧にすることで、新たな野球カルチャーの創出を試みていると思います。
【財務状況等から見る経営環境】
✔外部環境
日本のスポーツ市場は、スポーツ庁が推進する「スポーツ産業の成長促進」を背景に、スタジアム・アリーナ改革や大学スポーツの産業化(日本版NCAAの創設など)が急ピッチで進められています。特に大学スポーツにおいては、これまでバラバラだった各部活のブランドを統一し、グッズ販売等で新たな収益源を確保したいという機運が急速に高まっています。一方で、国内の少子化は深刻であり、野球をはじめとする若年層のスポーツ競技人口は減少の一途を辿っています。単なる「競技用の道具」を売るだけのビジネスモデルは限界を迎えており、スポーツが持つ「熱狂」や「コミュニティ」の価値をいかにしてマネタイズするかが、業界全体における最大のテーマとなっている環境だと推測します。
✔内部環境
同社の最大の内部資源は、「amadana」時代から培ってきた圧倒的なデザイン思考とブランド構築のノウハウ、そしてそれをスポーツビジネスにアジャストさせる強力な経営陣(熊本代表取締役、伏見CDOなど)の存在です。当期純利益4百万円を確保し黒字化を達成している点は、BtoBのブランディングコンサルティングや「カレッジマーケット」等のプラットフォーム事業が着実に収益を生み出し始めている証左であると考えます。しかし、過去の先行投資によって積み上がった利益剰余金のマイナス(純資産▲30百万円)という財務課題は依然として残っており、このスタートアップ特有の「死の谷(デスバレー)」を越え、本格的なスケールアップへと向かう過渡期にあると思います。
✔安全性分析
財務の安全性について見ると、早急な資本増強が必要な状態にあると判断します。資産合計130百万円に対して、流動負債が76百万円、固定負債が83百万円と負債が重くのしかかっており、債務超過(純資産▲30百万円)に陥っています。しかし、流動資産106百万円が流動負債76百万円を上回っている(流動比率約139%)ため、目先の資金繰り(キャッシュフロー)は適正に回っていると推測します。今後は、本業の黒字を積み重ねていくことに加え、ベンチャーキャピタルや事業会社等からの新たなエクイティファイナンス(第三者割当増資など)を実施し、固定負債の返済やバランスシートの健全化を図ることが不可避な状況にあると考えます。
【SWOT分析で見る事業環境】
✔強み (Strengths)
総合クリエイティブファームから派生した極めて高いデザイン力とブランド構築ノウハウを有し、スポーツビジネスにおける戦略立案からアパレル商品の企画開発、そして「東京ヴェルディ・バンバータ」のクラブ運営までを一気通貫で手がける、実践的で説得力のあるマネジメント能力を持っていることが最大の強みであると考えます。
✔弱み (Weaknesses)
事業規模に対して負債が重く第7期決算時点で債務超過に陥っているなど財務基盤が脆弱であり、オリジナルアパレルの展開やクラブチームの運営といった初期投資と固定費がかさむビジネスモデルの資金負担がバランスシートに重くのしかかっていると推測します。
✔機会 (Opportunities)
国内のスポーツ産業が「稼げる産業」への変革を国家レベルで迫られており、プロ・アマ問わずクラブチームや大学スポーツにおけるブランディング、マーチャンダイジング(グッズ販売等)のDX化ニーズが急拡大しているため、同社が得意とする「スポーツ×クリエイティブ」のコンサルティング市場は大きく広がっていると思います。
✔脅威 (Threats)
大手スポーツメーカーや総合広告代理店、さらには新興のスポーツテック企業が同領域に続々と参入して競争が激化していることに加え、国内の少子化に伴う若年層のスポーツ競技人口の減少が、中長期的なグッズ販売やクラブ運営の市場規模の天井を規定してしまう構造的なリスクとなっていると考えます。
【今後の戦略として想像すること】
✔短期的戦略
足元の1〜2年における最優先課題は、黒字化の基調を維持・拡大しつつ、債務超過の解消に向けた新たな資金調達(エクイティファイナンス)を実施することであると考えます。在庫リスクを伴うオリジナルアパレル(BEN GENERALなど)の直販事業については、ポップアップストアなどを活用したテストマーケティングを徹底し、過剰在庫を抱えない効率的なサプライチェーンを維持すると推測します。一方で、粗利率が高く確実なキャッシュフローを生むBtoBのコンサルティング事業(大学やプロチーム向けのリブランディング支援)の受注案件を強力に積み増し、自社運営の「バンバータ」を究極のショールームとして活用することで、BtoB事業の売上でさらなる事業成長への投資をカバーする構造を確固たるものにしていくと思います。
✔中長期的戦略
より長い時間軸で見据えた場合、同社は単なる「デザイン会社」の枠を完全に超え、日本のスポーツ産業における「次世代型スポーツ商社」としての地位を確立する戦略を描いていると考えます。「カレッジマーケット」に参画する大学数を飛躍的に増やし、各大学の巨大なOB・OGネットワークを巻き込んだ一大エコシステム(コミュニティプラットフォーム)を完成させると推測します。さらに、スポーツチームへの差し入れシステムなどの新しい課金モデルを横展開し、チケット収入や放映権料に依存しない、熱狂的なファンコミュニティによる「応援消費(ドネーション)」を中心とした全く新しいスポーツビジネスのエコノミクスを日本に定着させていくと考えます。
【まとめ】
株式会社aseの第7期決算は、債務超過というスタートアップの生みの苦しみの中にあっても、当期純利益4百万円を確保し、事業が確実に利益フェーズへと移行しつつあることを示す結果となりました。同社が仕掛ける「スポーツ×デザイン」のアプローチは、旧態依然とした日本のスポーツ産業に間違いなく新しい風を吹き込んでいます。「東京ヴェルディ・バンバータ」で自らリスクを取って実証実験を行い、そこから得たノウハウをプラットフォーム化していく手法は、極めて泥臭くも強靭なビジネスモデルです。当面の財務の壁を乗り越えることができれば、同社は日本のスポーツが「稼ぐ力」を持つための不可欠な触媒として、スポーツ界全体に大きな変革をもたらす存在へと飛躍していくと考えます。
【企業情報】
企業名: 株式会社ase(旧社名: 株式会社アマダナスポーツエンタテインメント)
所在地: 東京都新宿区新宿5-3-8 MHビル 2F
代表者: 代表取締役 熊本 浩志
設立: 2018年9月25日
資本金: 20百万円
事業内容: スポーツブランディング・デザイン事業、大学・スポーツアパレル企画開発販売、野球用品メーカー・クラブ運営事業