決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメントし保管する倉庫。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご容赦ください。

#4404 決算分析 : 日本建築検査協会株式会社 第20期決算 当期純利益 174百万円

私たちが日々を過ごす住宅、オフィスビル、商業施設。これらの建築物は、設計図通りに、そして法律を守って安全に建てられているはずです。しかし、その「はず」を確かなものにするためには、誰がどのようにチェックしているのでしょうか。そこには、設計者や施工会社とは異なる独立した「第三者の目」で、建物の安全性を計画段階から完成後まで厳格に審査・検査する専門機関が存在します。今回は、国土交通大臣などから指定を受けた公的な審査機関として、建築界の「公正な審判役」を担う、日本建築検査協会株式会社の決算を分析。私たちの暮らしの安全を守る、その事業の重要性と健全な経営実態に迫ります。

日本建築検査協会決算

【決算ハイライト(第20期)】
資産合計: 844百万円 (約8.4億円)
負債合計: 346百万円 (約3.5億円)
純資産合計: 498百万円 (約5.0億円)

当期純利益: 174百万円 (約1.7億円)

自己資本比率: 約59.0%
利益剰余金: 428百万円 (約4.3億円)

【ひとこと】
1.7億円を超える高い当期純利益を確保し、自己資本比率も59.0%と非常に健全な水準です。建築物の安全という社会的に不可欠な役割を担いながら、高い収益性と安定した経営基盤を両立させている優良企業であることが、決算数値から明確に読み取れます。

【企業概要】
社名: 日本建築検査協会株式会社
設立: 2005年6月2日
事業内容: 建築基準法などに基づく確認検査、構造計算適合性判定、住宅性能評価、省エネ適合性判定、建物診断などの第三者評価・検査・診断業務
株主: 山﨑 哲、日本建築検査協会従業員持株会、一般社団法人 日本自走式駐車場工業会 他

jcia.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
日本建築検査協会(JCIA)の事業は、建築物の企画から設計、施工、そして既存建物の維持管理に至るまで、そのライフサイクル全般における「品質と安全性」を第三者の立場で評価・証明することに集約されます。

✔指定機関業務(公的審査・検査)
同社の事業の根幹をなすのが、国土交通大臣などから指定を受けて行う公的な審査・検査業務です。具体的には、建物を建てる際に必ず必要となる建築基準法に基づく「建築確認検査」や、一定規模以上の建物の構造計算書が正しいかを審査する「構造計算適合性判定」、省エネ基準への適合性を審査する「省エネ適合性判定」などがあります。これらは法律に基づいて行われる独占的な業務であり、同社の高い信頼性と安定した事業基盤の源泉となっています。

✔住宅評価・証明業務
主に住宅の品質や資産価値に関する評価・証明サービスです。住宅の耐震性や省エネ性などを10分野で評価する「住宅性能評価」や、長期にわたり良好な状態で使用できる「長期優良住宅」の認定審査、住宅ローン「フラット35」を利用する際に必要な適合証明など、住宅を購入する消費者の安心・安全に直結する重要な役割を担っています。

✔建物診断業務(民間サービス)
不動産の売買や証券化の際に行われる、建物の資産価値評価(デューデリジェンス)の一環としての「遵法性調査」や、中古住宅の売買時に専門家が建物の状態を調査する「インスペクション」など、民間取引の円滑化と安全性を支えるサービスも展開しています。近年ではドローンを活用した調査も導入するなど、先進的な技術の取り込みにも積極的です。


【財務状況等から見る経営戦略】
1.7億円超という高い利益は、同社が持つ独自の強みと、それを活かせる有利な事業環境の結果と言えます。

✔外部環境
建築に関する法律や制度は、社会情勢を反映して年々複雑化・高度化しています。特に、2005年の構造計算書偽装事件以降、建築物の安全性を確保するための第三者チェックの重要性が社会的に広く認識されるようになりました。また、地球環境問題への対応から「建築物省エネ法」が段階的に強化されていることや、既存住宅流通市場の活性化政策など、法制度の変更が同社にとって新たな事業機会を生み出し続けるという、追い風の市場環境にあります。

✔内部環境
同社の最大の強みは、「指定確認検査機関」といった公的な「指定」を複数受けていることです。これは、厳しい基準をクリアした機関にしか与えられない資格であり、他社の参入を困難にする強力な参入障壁として機能しています。また、事業内容が建築基準適合判定資格者一級建築士といった、多数の難関国家資格保有者によって支えられる「知識集約型」のビジネスモデルであるため、価格競争に陥りにくく、専門性を対価とした高付加価値なサービスを提供できています。

✔安全性分析
自己資本比率59.0%は、企業の財務基盤が極めて盤石であることを示しています。2005年の設立以来、着実に利益を積み重ね、約4.3億円の利益剰余金を内部留保していることが、その安定性を裏付けています。また、短期的な支払い能力を示す流動比率も約519%(627百万円 ÷ 121百万円)と驚異的な高さであり、キャッシュフローにも全く不安がありません。この強固な財務基盤が、優秀な専門人材の確保・育成や、札幌・北陸などへの全国拠点展開を可能にしています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
国土交通大臣などの「指定機関」であることによる、高い社会的信頼性と参入障壁
・建築確認から省エネ判定、既存住宅診断までを網羅するワンストップサービス提供能力
・多数の有資格者を擁する、国内有数の専門家集団
自己資本比率59.0%を誇る、極めて健全で安定した財務基盤

弱み (Weaknesses)
・事業の根幹を支える、高度な専門資格を持つ人材の確保と育成が常に課題となる
・建築・不動産市場の景気動向に、中長期的に業績が影響を受ける可能性がある

機会 (Opportunities)
・建築物省エネ法の適合義務範囲の拡大など、法改正に伴う新たな審査・評価ニーズの発生
・空き家問題などを背景とした、中古住宅流通市場の拡大とインスペクション需要の増加
・DX化の推進による、審査・検査業務の効率化と新たなサービスの創出(WEB申請など)
・建物の環境性能(CASBEE)や防災性能(浸水リスク評価など)への関心の高まり

脅威 (Threats)
・他の指定確認検査機関とのサービス競争
・建築業界全体の人手不足が、新築着工数やリフォーム市場の停滞に繋がるリスク
・万が一の検査・判定ミスが、企業の信頼を根底から揺るがす重大なリスク


【今後の戦略として想像すること】
社会の要請に応え、建築物の評価軸を広げていくことが、今後の成長戦略の中心になると予想されます。

✔短期的戦略
2025年4月から予定されている省エネ基準の適合義務化の拡大に完全に対応し、「省エネ適合性判定」事業をさらに強化していくでしょう。また、WEB申請システムの利便性向上など、DX化を推進することで、顧客である設計事務所や建設会社の業務効率化に貢献し、競争優位性を高めていくと考えられます。

✔中長期的戦略
新築市場が縮小していくことを見据え、既存建築物の「ストック市場」への注力をさらに加速させるでしょう。インスペクションや遵法性調査に加え、ドローンや赤外線調査などを活用した、より高度な建物診断技術を開発・導入していく可能性があります。さらに、建物の価値を測る尺度が「安全性」だけでなく、「環境性能(CASBEE)」や「災害への強靭性(浸水・地震リスク評価)」など多様化していく中で、これらの新たな評価サービスを拡充し、総合的な建築評価機関としての地位を不動のものにしていくことが期待されます。


【まとめ】
日本建築検査協会は、建築界の「公正な審判役」として、建物の安全・安心という社会の根幹を支える、極めて重要な存在です。国の「指定機関」という高い信頼性と、多数の専門家を擁する技術力を武器に、建築のライフサイクル全体を網羅する評価・検査サービスをワンストップで提供。その結果として、高い収益性と盤石な財務基盤を両立しています。建築物に求められる性能が、安全性はもとより、省エネ、環境配慮、災害への強靭性など、ますます多様化・高度化していく時代において、同社のような第三者評価機関の果たす役割は、今後さらに大きくなっていくに違いありません。


【企業情報】
企業名: 日本建築検査協会株式会社
所在地: 東京都中央区日本橋3丁目13番11号 油脂工業会館
代表者: 代表取締役 山﨑 哲
設立: 2005年6月2日
資本金: 7,000万円
事業内容: 指定確認検査業務、構造計算適合性判定業務、住宅性能評価業務、省エネ適合性判定業務、建物診断業務など、建築物に関する第三者評価・検査・診断サービス
株主: 山﨑 哲、日本建築検査協会従業員持株会、一般社団法人 日本自走式駐車場工業会 他

jcia.co.jp

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.