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#4403 決算分析 : 株式会社日興商会 第84期決算 当期純利益 44百万円

オフィスは、単に仕事をするだけの「場所」から、企業の文化を育み、従業員の創造性やエンゲージメントを高めるための「戦略的拠点」へと、その役割を大きく変えつつあります。フリーアドレスの導入、心地よいリフレッシュ空間の創設、そしてハイブリッドワークを支える最新のITインフラ。しかし、理想のオフィスを形にするには、内装、家具、IT、セキュリティ、そして日々の消耗品まで、多岐にわたる専門知識とサプライヤーの調整が必要です。この複雑なオフィス創りを、顧客に寄り添いながらワンストップで支える「シゴトバコンシェルジュ」を標榜する企業があります。今回は、兵庫県尼崎市に本社を置き、70年以上にわたり「オフィス創りの総合商社」として事業を展開する、株式会社日興商会の決算を分析します。

日興商会決算

【決算ハイライト(第84期)】
資産合計: 7,507百万円 (約75.1億円)
負債合計: 6,396百万円 (約64.0億円)
純資産合計: 1,112百万円 (約11.1億円)

当期純利益: 44百万円 (約0.4億円)

自己資本比率: 約14.8%
利益剰余金: 812百万円 (約8.1億円)

【ひとこと】
年商177億円という大きな事業規模に対して、当期純利益は44百万円と、利益率が極めて低い点が特徴です。自己資本比率も14.8%と低い水準にあり、これは多岐にわたる商材を扱う商社としての事業特性や、 Face to Face の人的サービスを重視するビジネスモデルを反映していると考えられます。

【企業概要】
社名: 株式会社日興商会
創業: 1946年11月
事業内容: オフィス移転・リニューアル、オフィス家具・IT機器・事務用品等の販売、印刷、衛生環境創りサービスなど、「オフィス創り」に関する総合商社

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【事業構造の徹底解剖】
株式会社日興商会の強みは、その事業領域の広さにあります。「オフィス創りの総合商社」として、企業の働く環境(シゴトバ)に関するあらゆるニーズにワンストップで応える体制を構築しています。

✔空間ソリューション事業
企業の顔となるオフィスの移転やリニューアルを、計画策定からデザイン、内装工事、家具の選定・納入まで一貫して手掛けます。ウェブサイトの納入事例では、企業のオフィスだけでなく、大学のカフェテリアや病院など、多様な空間創りの実績が紹介されており、高い提案力と施工管理能力がうかがえます。

✔ITソリューション事業
現代のオフィスに不可欠なITインフラの構築も重要な事業領域です。ネットワーク工事や、高度化するサイバー攻撃から企業を守るセキュリティ対策の提案、各種OA機器やソフトウェアの販売・保守まで、企業のDX推進をサポートします。

✔プロモーション・サプライ事業
1946年の創業以来の基幹事業とも言える分野です。コクヨのオフィス通販「カウネット」の代理店として日々の文具・事務用品を供給する一方、自社で印刷工場を保有し、名刺や封筒、カタログといった印刷物を高品質で提供。さらに、企業のブランディングに繋がるノベルティや販促品の企画・販売まで手掛けています。

✔環境・衛生サービス
近年、従業員の健康や快適性への関心が高まる中、ダスキンフランチャイズとしてエアコンクリーニングなどの「衛生環境創りサービス」も提供。オフィス環境を多角的にサポートする姿勢を示しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
今回の決算内容は、幅広いサービスを提供する商社ならではの財務的特徴と課題を示しています。

✔外部環境
働き方改革パンデミックを契機としたハイブリッドワークの普及は、オフィスのあり方を根本から見直す動きを加速させました。これにより、コミュニケーションを促進する空間や、集中できる個室ブースの設置など、オフィスリニューアルの需要は高まっています。一方で、事務用品などの物販事業は、ECサイトとの厳しい価格競争に晒されています。

✔内部環境
「シゴトバコンシェルジュ」として、Face to Faceの対話を重視するビジネスモデルは、顧客との強い信頼関係を築く源泉です。しかし、これは多くの営業人員を必要とする労働集約的なモデルでもあります。年商177億円という大きな売上に対し、利益が44百万円(利益率約0.25%)と極めて薄利になっているのは、この高い人件費や、競争の激しい物販事業の利益率の低さが影響していると推測されます。

✔安全性分析
自己資本比率14.8%は、一般的な基準では低い水準です。また、流動資産(約48億円)が流動負債(約56億円)を下回っており、短期的な支払い能力を示す流動比率は約85%となっています。これは、商社特有の財務構造(多くの在庫と売掛金・買掛金)や、運転資金を短期の借入で賄っている可能性を示唆しており、資金繰りの管理が重要となる財務状況です。しかし、1946年創業という長い歴史の中で、主要な金融機関との安定した取引関係を築いていることが、この財務構造を支える基盤となっていると考えられます。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・オフィス関連のあらゆるニーズに一気通貫で応える「ワンストップサービス」能力
・「シゴトバコンシェルジュ」として顧客に寄り添う、対面での高い提案力と課題解決力
・70年以上の歴史で築き上げた約2万社の強固な顧客基盤
・関西を基盤とし、関東・中部・中国地方までカバーする広域な営業ネットワーク

弱み (Weaknesses)
・極めて低い利益率と、労働集約的なビジネスモデル
自己資本比率が低く、財務基盤が比較的脆弱
・短期的な支払い能力を示す流動比率が100%を下回っている点

機会 (Opportunities)
・働き方の多様化に伴う、継続的なオフィスリニューアル・改装需要
・企業のDX推進やセキュリティ意識の高まりによる、ITソリューション市場の拡大
・従業員エンゲージメントや健康経営への投資としての、オフィス環境改善ニーズの増加

脅威 (Threats)
・事務用品などの物販における、大手ECサイトとの熾烈な価格競争
・ペーパーレス化の進展による、印刷事業や関連事務用品市場の長期的な縮小
・景気後退局面における、企業のオフィス関連投資の抑制
・人件費や物流コストの上昇


【今後の戦略として想像すること】
日興商会にとって、収益性の改善は最重要課題の一つです。そのための戦略として、以下の方向性が考えられます。

✔短期的戦略
利益率の低い単なる物販から、専門知識が求められる高付加価値なサービスへと、事業の軸足をさらにシフトさせていくでしょう。特に、利益率の高いオフィスリニューアルの設計・施工管理や、継続的な収益が見込めるITインフラの保守・運用サービスに注力することが予想されます。

✔中長期的戦略
「シゴトバコンシェルジュ」のブランド価値をさらに高め、価格競争から脱却することが長期的な目標となります。単にモノを売るのではなく、顧客企業の「働き方改革」や「組織文化の醸成」といった経営課題を解決するコンサルティングパートナーとしての地位を確立することができれば、収益性は大きく改善するはずです。そのために、IT、デザイン、人事コンサルティングといった各分野の専門人材の育成・確保が、持続的な成長の鍵を握ります。


【まとめ】
株式会社日興商会は、単なる事務用品やオフィス家具の販売店ではありません。それは、70年以上の長きにわたり、企業の「働く」という活動そのものを、あらゆる側面から支えてきた「オフィス創りの総合商社」です。Face to Faceの対話を重視する「シゴトバコンシェルジュ」という理念は、デジタル化が進む現代において、逆にその価値を増しているのかもしれません。決算内容は薄利な事業構造と財務的な課題を示していますが、これは同社が事業の転換期にあることの表れとも言えます。価格競争の厳しい物販から、知恵と提案力で勝負するソリューション事業へ。長年培った顧客との信頼関係を武器に、同社が次世代の「シゴトバ」をどのように創造していくのか、その挑戦が注目されます。


【企業情報】
企業名: 株式会社日興商会
所在地: 兵庫県尼崎市東難波町5丁目10番30号
代表者: 代表取締役社長 藤縄修平
創業: 1946年11月
資本金: 3億円
事業内容: オフィス移転・リニューアル提案、オフィス家具・IT機器・文具事務用品等の販売、印刷物の企画・製造・販売、衛生環境創りサービスなど

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