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#3161 決算分析 : 鯱バス株式会社 第13期決算 当期純利益 203百万円

学生時代の修学旅行、気の合う仲間との日帰り旅行、企業の研修やイベントでの移動。多くの人の思い出の1ページには、貸切バスの存在があるのではないでしょうか。安全に、そして快適に目的地まで大勢の人々を運び、移動時間そのものを楽しいイベントに変えてくれるバス事業は、私たちの暮らしに彩りを与え、地域経済と観光を支える重要な社会インフラです。

今回は、金の鯱(しゃちほこ)をシンボルマークに、名古屋・東海地方で70年以上にわたり走り続けてきた老舗バス会社、鯱バス株式会社の決算を読み解きます。コロナ禍という観光業界にとって未曾有の危機を乗り越え、力強い回復を遂げているのか。安全性評価で最高位の「三つ星」を獲得し、名古屋初の水陸両用バスといった新たな挑戦も続ける同社の現在地と、未来への戦略に迫ります。

鯱バス決算

【決算ハイライト(第13期)】
資産合計: 2,990百万円 (約29.9億円)
負債合計: 2,344百万円 (約23.4億円)
純資産合計: 646百万円 (約6.5億円)

当期純利益: 203百万円 (約2.0億円)

自己資本比率: 約21.6%
利益剰余金: 546百万円 (約5.5億円)

【ひとことコメント】
総資産約29.9億円の事業規模に対し、約2.0億円の当期純利益を確保しており、コロナ禍後の観光需要の本格的な回復を背景に、収益性が大きく改善している様子がうかがえます。一方で、自己資本比率は約21.6%と、多くの車両を資産として保有する事業特性を考慮しても、さらなる向上の余地がある水準です。今後の有利子負債の圧縮など、財務体質の強化が課題となりそうです。

【企業概要】
社名: 鯱バス株式会社
設立: 1953年11月(創業)
事業内容: 名古屋を拠点に貸切観光バス、企業の契約送迎バスを主力事業とし、旅行業、自動車整備業も展開。さらにグループ会社を通じて飲食事業や消防設備施工事業なども手掛ける総合交通サービス企業。

www.shachi-bus.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、人々の「移動」を軸に、安全・安心と楽しさを提供する複合的なサービスで構成されています。景気変動の影響を受けやすい観光事業と、安定した契約事業を両輪で展開することで、バランスの取れた経営を実現しています。

✔収益の柱「貸切・観光バス事業」
創業以来の主力事業であり、同社の顔とも言える部門です。団体旅行や社員研修、空港送迎など、多様なニーズに豊富な車両ラインナップで対応します。最大の強みは、国土交通省が定める「貸切バス事業者安全性評価認定制度」において、最高位である「三つ星」を2015年から継続して獲得していること。この客観的な信頼性の高さが、顧客がバス会社を選ぶ際の強力なアドバンテージとなっています。

✔安定経営の基盤「契約送迎バス事業」
企業の従業員送迎バスや大学のスクールバス、工場構内や商業施設の巡回バスなど、年間契約をベースとした安定的な収益源です。観光需要のような景気や季節による変動の影響を受けにくく、経営の安定に大きく貢献しています。日本製鉄や豊田自動織機といった日本を代表する企業との長期にわたる取引実績が、同社の高い運行管理能力を物語っています。

✔新たな魅力創出「旅行・観光事業」
自社のバスという強力な資産を活かし、「鯱バスツアー」のブランド名で日帰り旅行などの募集型企画旅行も手掛けています。さらに特筆すべきは、2021年に導入した名古屋初の水陸両用バス「名古屋マリンライダー」です。名古屋城テレビ塔といった市街地を走行した後、バスがそのまま川へダイブするという非日常的な体験は、地域の新たな観光の目玉として大きな注目を集めています。

多角化によるリスク分散(鯱バスグループ)
バス事業に留まらず、グループ会社を通じてレストランやカフェなどの飲食事業、消防設備の施工事業といった、バス事業とは直接関連しない分野にも進出。これにより、特定の業界の景気変動に左右されない、より強固でレジリエントな経営基盤の構築を目指しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
新型コロナウイルスの5類移行後、国内外の観光需要は力強い回復基調にあり、貸切バス業界にとって最大の追い風となっています。特に円安を背景としたインバウンド(訪日外国人旅行)観光客の増加は、高単価なツアー受注が見込める大きなビジネスチャンスです。2026年に地元で開催されるアジア競技大会(愛知・名古屋)も、地域の交流人口を爆発的に増大させる絶好の機会と言えるでしょう。一方で、燃料価格の高止まりや、業界全体で深刻化する運転手不足(物流・運送業界の「2024年問題」)とそれに伴う人件費の上昇は、コストを押し上げる大きな経営課題です。

✔内部環境
約2.0億円の当期純利益は、この観光需要の回復という追い風を的確に捉え、収益に結びつけた結果と言えます。特に、単価の高いインバウンドツアーや、水陸両用バスのような付加価値の高い旅行商品の販売が収益に貢献したと推測されます。多くのバス車両を保有・維持管理する事業特性上、設備投資にかかる資金を借入金で賄うことが多く、負債の割合が高くなる傾向があります。自己資本比率21.6%という数値は、こうした事業構造を反映したものですが、継続的な利益の確保による内部留保の積み増しと、計画的な有利子負債の削減が、今後の経営をさらに安定させるための鍵となります。

✔安全性分析
自己資本比率21.6%は、一般的に健全とされる40%を下回っており、財務的な安定性をさらに高めていく必要があります。固定負債が約15.3億円と大きいですが、これは主にバス車両の取得に伴う長期借入金やリース債務であると考えられます。安定した事業キャッシュフローから計画的に返済していくことが重要です。一方で、短期的な支払い能力を示す流動比率流動資産÷流動負債)は約200%と非常に高い水準にあり、当面の運転資金の確保に全く問題はなく、経営の機動性は保たれていると言えます。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・創業70年を超える歴史の中で培われた、東海地区における高いブランド力と地域からの信頼。
・安全性評価「三つ星」認定という、客観的データに基づいた強力な差別化要因。
景気変動に強い「契約送迎」と、収益性の高い「観光」を両立するバランスの取れた事業構造。
・水陸両用バス「名古屋マリンライダー」など、他社が容易に模倣できないユニークな観光コンテンツ。

弱み (Weaknesses)
自己資本比率が比較的低く、財務体質のさらなる強化が求められる。
・運転手不足という、業界全体が抱える構造的な課題。
・燃料価格の市場変動が、利益に直接的な影響を与えるコスト構造。

機会 (Opportunities)
・インバウンド観光客のさらなる増加と、それに伴う高単価なチャーターやツアーの需要拡大。
アジア競技大会(2026年)をはじめとする、地域での国際的な大型イベント開催。
・企業の働き方改革や福利厚生の一環としての、質の高い送迎バス需要の増加。
・AIなどを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)による、配車・運行管理の効率化。

脅威 (Threats)
・バスドライバー不足のさらなる深刻化と、それに伴う人件費・採用コストの継続的な上昇。
地政学リスクなどによる、燃料費や車両購入価格の予測不能な高騰。
・新たな感染症パンデミックや大規模な自然災害による、観光需要の突発的な消失リスク。
少子高齢化の進展による、国内の団体旅行市場の長期的な縮小。


【今後の戦略として想像すること】
回復基調を確実な成長軌道に乗せるため、同社は以下のような戦略を展開していくことが考えられます。

✔短期的戦略
まずはインバウンド需要の最大化が急務です。語学対応可能な乗務員やガイドの育成、海外の旅行会社とのパートナーシップを強化し、高単価なインバウンドツアーの受注を積極的に拡大していくでしょう。また、AIを活用した効率的な配車システムの導入や、オンライン予約・決済システムのさらなる強化により、業務効率と顧客利便性を両面から向上させることも重要です。そして、何よりも人材の確保と育成が不可欠であり、魅力ある労働条件の提示や、女性や若手ドライバーが働きやすい環境整備を加速させることが求められます。

✔中長期的戦略
「移動」そのものの付加価値を高める取り組みが考えられます。単に人を運ぶだけでなく、バス車内での特別なエンターテインメントの提供や、地域の特産品と連携したユニークなツアーの企画など、「移動体験」を販売する事業へと進化していく可能性があります。また、持続可能な社会への貢献として、EV(電気)バスの導入など、環境負荷の低い車両への更新を計画的に進め、企業の環境貢献をブランドイメージ向上に繋げる戦略も有効です。


【まとめ】
鯱バス株式会社は、単なるバス会社ではありません。それは、70年以上にわたって東海地方の人々の足となり、数え切れないほどの笑顔と思い出を運び続けてきた、地域の歴史そのものを乗せて走る存在です。

決算書に記された約2.0億円の純利益は、コロナ禍という長く暗いトンネルを抜け、日本の観光業界が力強く再始動したことの確かな証です。安全性「三つ星」という揺るぎない信頼を基盤に、安定収益源である契約送迎バス事業が経営をしっかりと支え、水陸両用バスのような新たな挑戦が未来を切り拓いています。ドライバー不足や燃料費高騰といった乗り越えるべき課題は残るものの、インバウンド回復という強い追い風を受け、鯱バスが再び東海地方の観光を力強く牽引していくことが大いに期待されます。


【企業情報】
企業名: 鯱バス株式会社
所在地: 愛知県名古屋市南区滝春町1-80
代表者: 代表取締役社長 宇津木 滋
設立: 1953年11月3日(創業)
資本金: 1億円
事業内容: 貸切バス事業(観光バス・貸切バスの運行)、特定バス・送迎バス事業(通勤バスの運行等)、自動車整備事業、旅行事業(貸切バス・各種旅行の販売など)

www.shachi-bus.co.jp

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