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#2682 決算分析 : LAND INSIGHT株式会社 第3期決算 当期純利益 ▲15百万円

気候変動対策とカーボンニュートラルの実現は、現代社会における最大の挑戦の一つです。この地球規模の課題に対し、「宇宙」からのアプローチで挑むスタートアップが、福島県南相馬市にあります。それが、LAND INSIGHT株式会社です。同社は、人工衛星が捉えた膨大なデータを活用し、脱炭素社会の実現に貢献するソリューションを提供することを目指しています。東日本大震災からの復興の象徴でもあるこの地で、なぜ宇宙ビジネスなのか。設立から3期目を迎えたばかりの若い宇宙ベンチャーの決算を読み解き、その壮大なビジョンと、事業の現在地に迫ります。

今回は、衛星データを活用した脱炭素ソリューションを目指す、LAND INSIGHT株式会社の決算を読み解き、そのビジネスモデルや戦略をみていきます。

LAND INSIGHT決算

【決算ハイライト(第3期)】
資産合計: 90百万円 (約0.9億円)
負債合計: 27百万円 (約0.3億円)
純資産合計: 63百万円 (約0.6億円)

当期純損失: 15百万円 (約0.2億円)

自己資本比率: 約69.9%
利益剰余金: ▲35百万円 (約▲0.4億円)

まず注目すべきは、自己資本比率が約69.9%と非常に高く、財務基盤が健全である点です。設立3期目のスタートアップとしては、安定した経営が行われていることがうかがえます。その一方で、当期純損失は約15百万円、累積損失を示す利益剰余金も約▲35百万円となっており、事業がまだ本格的な収益化に至る前の、研究開発や事業基盤構築への先行投資フェーズにあることが示唆されます。

企業概要
社名: LAND INSIGHT株式会社
設立: 2022年4月21日
株主: INCLUSIVE株式会社のグループ企業
事業内容: 宇宙関連事業に関するコンサルティング、調査・研究、マーケティング、PR業務など

landinsight.space


【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、地球観測衛星などから得られる「衛星データ」を核として、地球規模の課題である「脱炭素化」に貢献するソリューションを開発・提供することを目指す、コンサルティング・研究開発事業です。

✔衛星データを活用した脱炭素ソリューション
事業の根幹となるビジョンです。例えば、森林のCO2吸収量を衛星データから広域にモニタリングしたり、再生可能エネルギー発電所の最適な設置場所を分析したり、企業のサプライチェーンにおける環境負荷を宇宙から可視化したりと、衛星データの活用領域は多岐にわたります。同社は、これらの衛星データと地上のあらゆるデータを統合・分析することで、企業の脱炭素経営を支援するサービスの構築を目指しています。

コンサルティング・調査研究
現在は、具体的なソリューション開発に向けた、調査・研究や、宇宙関連事業に関する各種コンサルティングが事業の中心であると推察されます。将来の事業化に向けた技術開発や、事業パートナーとの連携構築を進めている段階です。

INCLUSIVEグループとしてのシナジー
同社は、メディア運営やDX支援を手掛けるINCLUSIVE株式会社のグループ企業です。親会社が持つメディアネットワークやデジタルマーケティングのノウハウは、今後同社が開発したソリューションを社会に広く普及させていく上で、大きな力となるでしょう。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
宇宙ビジネス」と「脱炭素」は、共に世界的に注目を集める巨大な成長市場です。各国政府や大企業が巨額の投資を行っており、技術革新も日進月歩で進んでいます。特に、衛星データの利用コストは年々低下しており、様々な産業での活用が始まっています。福島県南相馬市は、福島イノベーション・コースト構想のもと、ロボットやドローン、航空宇宙産業の一大集積地を目指しており、同社にとって最適な事業環境が整いつつあります。

✔内部環境
設立3期目のスタートアップとして、現在は事業の核となる技術やサービスの開発に注力するフェーズです。今期の赤字は、こうした研究開発活動や人材確保への先行投資によるものと考えられます。自己資本比率が約70%と高いのは、親会社などからの十分な資金調達により、安定した開発体制が築かれていることを示しています。

✔安全性分析
自己資本比率が約69.9%と高く、財務的な安定性は確保されています。負債合計が約0.3億円と少なく、自己資本がそれを大きく上回っています。流動資産(約0.9億円)が流動負債(約0.3億円)を3倍以上も上回っており、短期的な支払い能力を示す流動比率は約332%と非常に高く、資金繰りにも全く問題はありません。研究開発に専念できる、スタートアップとして理想的な財務状態と言えます。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・「衛星データ活用×脱炭素」という、極めて将来性の高い事業領域
自己資本比率約70%を誇る、健全な財務基盤
・親会社INCLUSIVEが持つ、メディア・マーケティングのノウハウ
・福島イノベーション・コースト構想という、国策と連動した事業拠点

弱み (Weaknesses)
・事業が研究開発フェーズにあり、具体的な収益モデルがまだ確立されていない
・衛星データの解析やソリューション開発に必要な、高度な専門人材の確保
・設立から日が浅く、実績がまだ少ない

機会 (Opportunities)
・世界的なカーボンニュートラルへの潮流と、企業のESG経営への関心の高まり
・衛星打ち上げコストの低下による、利用可能な衛星データの爆発的な増加
・農業、林業、防災、金融など、多様な産業へのソリューション展開の可能性
・国や自治体からの、宇宙ベンチャーや復興支援に関する補助金・支援制度の活用

脅威 (Threats)
・国内外の巨大IT企業や、他の宇宙ベンチャーとの熾烈な開発競争
・衛星データの解析技術やビジネスモデルに関する、法規制や倫理的な課題
・事業化の遅れによる、資金調達の難航リスク


【今後の戦略として想像すること】
研究開発フェーズにある同社が、今後事業を本格的に軌道に乗せるためには、以下の戦略が考えられます。

✔短期的戦略
まずは、具体的なユースケースとなる実証プロジェクトを成功させることが最優先です。地域の企業や自治体と連携し、衛星データを活用した森林管理や、再生可能エネルギーのポテンシャル評価といった、目に見える成果を一つでも多く創り出すことが求められます。これにより、技術の有効性を証明し、将来の顧客となる企業からの信頼を獲得します。

✔中長期的戦略
実証プロジェクトで得た知見を基に、特定の課題解決に特化したソリューションをSaaS(Software as a Service)などの形でプロダクト化し、国内外の企業へ広く展開していくことが大きな目標となります。例えば、「衛星データを活用したカーボンクレジット創出支援サービス」や、「企業のサプライチェーンCO2排出量可視化サービス」などが考えられます。親会社INCLUSIVEの力を借りて、マーケティングとセールスを加速させ、宇宙技術を誰もが使えるツールへと進化させていくことが期待されます。


【まとめ】
LAND INSIGHTは、単なるコンサルティング会社ではありません。それは、宇宙という無限の可能性を秘めたフロンティアから、地球が直面する気候変動という喫緊の課題に挑む、未来志向のテクノロジー企業です。今期決算では、事業の黎明期にあることを示す赤字を計上したものの、その健全な財務基盤は、壮大なビジョンを実現するための確かな土台があることを示しています。復興の地・南相馬から、宇宙を見上げ、地球の未来を創造する。この若き挑戦者たちの今後の飛躍から、目が離せません。


【企業情報】
企業名: LAND INSIGHT株式会社
所在地: 福島県南相馬市小高区本町1-87
代表者: 代表取締役社長 藤田 誠
設立: 2022年4月21日
資本金: 5,050万円
事業内容: 宇宙関連事業に関する各種コンサルティング業務、調査・研究・普及活動支援、マーケティング、その他PR業務など
株主: INCLUSIVE株式会社のグループ企業

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