日本の全企業の99.7%を占める中小企業。その多くが、経営者の高齢化と後継者不足により、廃業の危機に瀕しています。それは単にサービスが消えるだけでなく、その地域が長年育んできた歴史や文化そのものが失われることにも繋がります。この深刻な社会課題に対し、「地域のストーリーを承継し、次の世代へ紡いでいく」という高いミッションを掲げ、挑戦を続けるスタートアップがあります。
今回は、宮崎県を拠点に、第三者事業承継を軸として、承継した酒販事業の運営から、D2C(Direct to Consumer)酒類ブランドの開発、さらには起業家育成までを手掛ける「Local Local株式会社」の第6期決算を読み解き、そのユニークなビジネスモデルと財務状況に迫ります。

【決算ハイライト(6期)】
資産合計: 8百万円 (約0.1億円)
負債合計: 39百万円 (約0.4億円)
純資産合計: ▲31百万円 (約▲0.3億円)
当期純損失: 36百万円 (約0.4億円)
利益剰余金: ▲94百万円 (約▲0.9億円)
【ひとこと】
まず目を引くのは、純資産合計が▲31百万円という「債務超過」の状態である点です。設立6期目のスタートアップとして、事業承継の実行やD2Cブランド開発への積極的な先行投資が、累積損失(利益剰余金▲94百万円)となって表れていると推測されます。当期純損失も36百万円を計上しており、まさに投資フェーズの最中であることがうかがえます。
【企業概要】
企業名: Local Local株式会社
設立: 2019年3月
事業内容: 第三者事業承継を軸とした、酒販事業、D2C酒類ブランド開発、起業家育成事業の運営。
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、深刻化する「地域産業の後継者不足」という社会課題を解決するための、「事業承継プラットフォーム」と表現できます。単に企業を引き受けるだけでなく、その後の成長までをデザインしている点が特徴です。具体的には、以下の事業で構成されています。
✔第三者事業承継(基盤事業)
同社の原点であり、すべての事業の基盤となるものです。後継者が不在の地域優良企業の歴史や文化、創業者の想いを最大限に尊重しながら引き継ぎます。同社はこの承継を、地域課題解決の重要なエントリーポイントと位置づけています。
✔酒販事業 (日南酒造会館)
事業承継の具体的な実行例として、宮崎県日南市の「日南酒造会館」の運営を手掛けています。ここは日南市・串間市の12の焼酎蔵元が直営する歴史ある酒屋であり、地域の焼酎文化の発信地です。同社は自ら地域のプレイヤーとしてこの事業を運営し、リアルな顧客接点と知見を蓄積しています。
✔D2Cブランド事業 (HITOYO / Remoon)
承継した酒販事業の知見と蔵元との強固なネットワークを活かし、自社D2C(Direct to Consumer)ブランドの開発・販売も行っています。 「HITOYO」は、焼酎の新たな可能性を切り開く「焼酎ボトラーズブランド」です。英国の権威ある酒類コンペティション「IWSC2024」で全商品が受賞するなど、国際的にも高い評価を獲得しており、既存の枠を超えた高付加価値ブランドとして展開しています。 「Remoon」は、多忙なビジネスパーソン向けに開発された「CBD含有レモンリキュール」です。宮崎県産レモンと本格芋焼酎をベースに、リラックスタイムの演出という新しい飲用シーンを提案しています。
✔起業家育成事業 (ロカビズ)
「若者が地域産業を承継していくエコシステム」を構築するため、合宿型ビジネスプランコンテスト「ロカビズ」を運営しています。自社だけで承継を進めるのではなく、同じ志を持つ「次の世代のプレイヤー」を育成し、地域全体で課題解決に挑むエコシステムの構築を目指しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
第6期の決算数値には、社会課題解決型スタートアップの典型的な財務状況が表れています。
✔外部環境
中小企業の経営者の高齢化と後継者不足は、待ったなしの社会課題であり、事業承継の市場(ニーズ)は日本全国に極めて大きく存在します。 酒類市場は全体としては成熟していますが、焼酎や日本酒の海外輸出は好調であり、「HITOYO」のような高品質・高付加価値ブランドは大きな成長機会があります。また、「Remoon」のような健康志向やリラックス需要に応える新しいコンセプトの製品も、新たな顧客層を開拓する可能性を秘めています。 地方創生や社会課題解決型ビジネスへの関心の高まりも、同社の事業に対する追い風となっています。
✔内部環境
第6期決算で当期純損失36百万円、累積損失94百万円という状況は、典型的な「先行投資型」のビジネスモデルであることを示しています。 事業承継(M&A)の実行コスト、D2Cブランドの開発・製造・マーケティング費用、そして「ロカビズ」の運営費用など、多額の初期コストと運転資金が継続的に発生しています。 現在の主な収益源は、承継した「日南酒造会館」の酒販事業と推測されますが、それだけではこれらの積極的な先行投資を吸収しきれていない状況が見て取れます。今後の飛躍の鍵は、開発したD2Cブランドがどれだけスケール(成長)できるかにかかっています。
✔安全性分析
貸借対照表(BS)を見ると、資産合計8百万円に対し、負債合計が39百万円と、負債が資産を大幅に上回る「債務超過」の状態です。これは、事業の継続性において重大な懸念事項であり、早急な財務基盤の強化が必要です。 この点について、同社はWebサイト上で2025年7月(第7期)に株式投資型クラウドファンディングの実施を告知しています。これは、この債務超過の解消と、今後の事業拡大に向けた運転資金の調達(エクイティ・ファイナンス)を目的としたものと考えられます。 また、資産の部に「繰延資産」として4百万円が計上されていますが、これは主に株式交付費(過去の増資関連費用)や開発費(ブランド開発費用)などと推測され、これらを計画的に償却しながら、事業を黒字化していく必要があります。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・「事業承継 × D2Cブランド × 起業家育成」というユニークで社会貢献性の高いビジネスモデル。
・「日南酒造会館」というリアルな事業基盤と、地域の焼酎蔵元との強固なネットワーク。
・「HITOYO」のIWSC受賞に象徴される、高い商品開発力とブランド構築力。
・CEO・COOの若手経営陣による、地域課題への情熱とインターネットを活用した実行力。
弱み (Weaknesses)
・債務超過という極めて脆弱な財務基盤。(早急な資本増強が最優先課題)
・先行投資(ブランド開発・マーケティング)が重く、赤字が継続している収益構造。
・事業承継後のPMI(経営統合プロセス)や、D2C事業の収益化までに時間がかかる。
機会 (Opportunities)
・全国に無数に存在する、後継者不足に悩む中小企業の膨大な承継ニーズ。
・「HITOYO」など高付加価値ブランドの、海外市場や国内高級市場への展開。
・地方創生や社会課題解決型ビジネスへの、投資家や公的支援(補助金など)への関心。
・株式投資型クラウドファンディングによる、資金調達と熱量の高いファンコミュニティの形成。
脅威 (Threats)
・計画通りの資金調達(クラウドファンディング等)が成功しない場合、資金繰りがショートするリスク。
・D2C酒類市場におけるマーケティング競争の激化。
・事業承継後のPMIが難航し、期待したシナジーが創出できないリスク。
・地域経済の停滞が、ローカル事業(日南酒造会館)の売上に影響を与える可能性。
【今後の戦略として想像すること】
喫緊の課題である債務超過の解消と、事業成長を加速させるためには、以下の戦略が必須となります。
✔短期的戦略
株式投資型クラウドファンディングの成功: まずは、2025年7月に予定されている株式投資型クラウドファンディングを成功させ、債務超過の解消と当面の運転資金を確保することが最優先課題です。これにより財務の健全性を回復させます。 D2Cブランドの販売チャネル強化: 「HITOYO」と「Remoon」のマーケティングを強化し、売上を急拡大させます。特に受賞実績のある「HITOYO」は、海外のディストリビューター開拓や、国内の高級レストラン・ホテル等への販路開拓を急ぐ必要があります。
✔中長期的戦略
「承継→再生→D2C化」モデルの確立と横展開: 日南酒造会館の承継と「HITOYO」開発の成功モデルを確立し、第二、第三の事業承継を実行します。酒類に限らず、地域の伝統工芸や食品など、D2Cブランド化による再生・成長が見込まれる領域の承継を模索します。 「ロカビズ」を核としたエコシステムの構築: 「ロカビズ」で育成した起業家が、同社の承継先候補の経営者になる、あるいはD2Cブランドのパートナーとして連携するなど、人材育成事業と承継事業を有機的に結合させ、地域全体で価値を生み出すエコシステムを構築します。
【まとめ】
Local Local株式会社は、単なる事業承継会社や酒屋ではありません。それは、後継者不足という日本の構造的な課題に対し、「若い力」と「D2C」という現代的な手法を掛け合わせ、地域の歴史と文化を未来に紡ごうとする社会課題解決型のスタートアップです。
第6期決算は債務超過という、その挑戦の厳しさを示すものでした。しかし、承継した「日南酒造会館」を基盤に、「HITOYO」という世界で評価されるブランドを生み出した実績は、同社の持つ確かな実行力とポテンシャルの高さを証明しています。2025年7月の資金調達という重要な節目を経て、この先行投資フェーズを乗り越え、宮崎の地から「地域のストーリーを紡ぐ」というミッションを力強く体現していくことが期待されます。
【企業情報】
企業名: Local Local株式会社
所在地: 宮崎県宮崎市橘通東3-5-33(宮崎本社)
代表者: 代表取締役CEO 石橋孝太郎, 代表取締役COO 江本侑太
設立: 2019年3月
資本金: 2990万円(資本準備金含む)
事業内容: 1 第三者事業承継による地域企業のお引き受け 2 酒販店「日南酒造会館」の運営 3 焼酎ボトラーズブランド「HITOYO」 4 CBD含有レモンリキュール「Remoon」 5 合宿型ビジネスプランコンテスト「ロカビズ」の運営