「三人寄れば文殊の知恵」ということわざがあります。異なる知恵や能力を持つ者が集まれば、素晴らしいアイデアが生まれるという意味です。もし、この考え方を企業経営に応用し、それぞれに得意分野を持つ複数の会社が、それぞれの個性を失うことなく一つのグループとして連携したら、どのような力が生まれるのでしょうか。まるで、多様な具材がそれぞれの味を主張しながら、全体として一つの美味しい鍋になる「寄せ鍋」のように。
今回は、まさにその「寄せ鍋」経営を理念に掲げ、M&Aを通じて成長を続けるIT企業グループの持株会社、アンドモア株式会社の決算を読み解きます。そのユニークな経営哲学と、着実な成長を示す健全な財務内容に迫ります。

【決算ハイライト(9期)】
資産合計: 1,195百万円 (約12.0億円)
負債合計: 640百万円 (約6.4億円)
純資産合計: 555百万円 (約5.5億円)
当期純利益: 59百万円 (約0.6億円)
自己資本比率: 約46.4%
利益剰余金: 178百万円 (約1.8億円)
【ひとこと】
自己資本比率約46.4%と健全な財務基盤を維持し、当期も59百万円の純利益を着実に確保しています。設立9期目にして、M&Aを重ねながら安定した成長軌道に乗っていることがうかがえます。総資産の半分以上を固定資産が占めており、グループ会社への投資が事業の中核であることを示唆しています。
【企業概要】
社名: アンドモア株式会社
設立: 2017年
事業内容: ソフトウェア開発・販売を手掛けるIT企業グループの持株会社(ホールディングカンパニー)。M&Aを通じて、それぞれ異なる強みを持つIT企業(株式会社アイネット、サンケンフォーキャスト株式会社など)をグループに加え、各社の独立性を尊重しながらシナジーを創出する「寄せ鍋」経営を推進。
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業の核は、単独の事業を行うのではなく、それぞれ異なる個性と強みを持つIT企業をM&Aによってグループに加え、個社の独立性を尊重しながらグループ全体として新たな価値を創造する「IT企業連合体(ホールディングス)事業」です。本郷社長が語る「寄せ鍋」という言葉が、そのユニークな経営スタイルを最もよく表しています。
✔M&Aによるグループ形成
同社の事業活動の中心であり、成長のエンジンです。IT業界には、優れた技術力を持ちながらも、経営者の高齢化による後継者問題や、営業力・採用力の不足といった課題を抱える優良な中小企業が数多く存在します。同社は、そうした企業をグループに迎え入れ、経営基盤の安定化や販路拡大、人材採用などを支援することで、グループ全体の価値向上を図ります。ウェブサイトのIR資料に「サンケンフォーキャスト株式会社の株式取得に関するお知らせ」が掲載されているように、積極的にM&Aを実行し、グループを拡大しています。
✔グループ傘下企業の多様な事業
アンドモアグループは、現在、株式会社アイネット、株式会社システムシンク(共に東京)、サンケンフォーキャスト株式会社(福岡)といった企業で構成されています。これらの企業は、それぞれがシステム開発やソフトウェア制作といったITサービスを提供していますが、得意とする技術領域や顧客層、そして企業文化は異なります。
✔「寄せ鍋」経営によるシナジー創出
同社の経営の最大の特徴は、買収した企業を無理に一つに統合・同化させない点です。それぞれの給与体系や企業文化、地域性といった「違う物」を尊重し、個性を活かしながら連携させます。例えば、A社の顧客にB社の得意な技術を提案したり、C社の若手エンジニアをD社のベテランが指導したり、といったグループならではの柔軟な協業体制を築くことで、1+1を2以上にする相乗効果(シナジー)を生み出すことを目指しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
IT業界は、社会全体のDX(デジルトランスフォーメーション)化の波に乗り、市場全体としては成長が続いています。しかしその一方で、ITエンジニアの不足は年々深刻化しており、特に中小のIT企業にとっては優秀な人材の採用・育成が大きな経営課題となっています。また、創業経営者の高齢化に伴う事業承継問題も顕在化しており、M&Aによる業界再編の動きが活発化しています。この環境は、同社にとって絶好の事業機会と言えます。
✔内部環境
同社は、持株会社としてグループ全体の経営戦略を担っています。決算書を見ると、資産約12億円のうち、半数を超える約6.5億円が固定資産で構成されています。これは主に、M&Aによって取得したグループ会社の株式(会計上の「のれん」を含む)であると推測されます。当期59百万円の利益は、これら子会社からの配当収益や、グループ経営管理に伴う経営指導料などが収益源となっていると考えられます。また、約3,700万円の自己株式を保有しており、これは将来のM&Aの対価(株式交換)や、グループ経営陣へのインセンティブとして活用できる戦略的な資産です。
✔安全性分析
自己資本比率が約46.4%と健全な水準を維持しており、安定した財務基盤が見て取れます。短期的な支払い能力を示す流動比率も約222%と非常に高く、資金繰りにも全く問題はありません。2017年の設立から9年で、M&Aという先行投資を伴う事業モデルでありながら、1.8億円近い利益剰余金を着実に積み上げています。これは、グループに加わった企業が、それぞれ安定した収益を上げていることの証左です。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・それぞれ異なる強みを持つ複数のIT企業を傘下に持つことによる、事業ポートフォリオのリスク分散と幅広い顧客対応能力
・M&A後のPMI(経営統合プロセス)において、買収先企業の文化や独立性を尊重する柔軟な「寄せ鍋」経営方針
・M&Aを継続的に推進していくための、自己資本比率46%超という安定した財務基盤
・将来の成長戦略に活用可能な自己株式の保有
弱み (Weaknesses)
・持株会社として、傘下の子会社の業績にグループ全体の経営が大きく依存する構造
・グループとしての規模が大きくなるにつれて、各社間の有機的な連携や、グループ全体としてのガバナンス維持が複雑化する
機会 (Opportunities)
・IT業界における深刻な人手不足と経営者の高齢化を背景とした、事業承継ニーズの増加に伴う、友好的M&Aの機会拡大
・特定の業務領域(例:AI、クラウド、セキュリティ)や、特定の業界(例:医療、金融、製造)に強みを持つSaaS企業などをグループに加え、サービスラインナップを強化する機会
・M&Aを通じて地方の有力なIT企業をグループ化し、全国的なサービス提供体制を構築する可能性
脅威 (Threats)
・同業の持株会社やプライベートエクイティファンドなど、M&A市場における買収競合の増加
・世界的な景気後退による、企業のIT投資の大幅な抑制
・ITエンジニアの採用競争のさらなる激化と、それに伴う人件費の高騰
【今後の戦略として想像すること】
「寄せ鍋」をさらに美味しく、大きくしていく戦略が予想されます。
✔短期的戦略
既存のグループ会社間のシナジー創出をさらに促進していくでしょう。グループ各社による共同での大型プロジェクト受注や、技術者の相互派遣によるスキルミックス、合同研修による組織力強化などを通じて、「寄せ鍋」としての旨みをさらに引き出します。同時に、新たな「具材」となる、グループに新しい価値をもたらしてくれる優良な中小IT企業の探索を継続的に行うと考えられます。
✔中長期的戦略
「IT企業の連合体」としての規模とブランド力を高め、日本のIT業界におけるユニークな存在を目指すでしょう。特定の先進技術(例:AI、IoT、ブロックチェーン)や、成長が見込まれる特定の業界(例:ヘルスケア、FinTech、環境・エネルギー)に強みを持つ企業を戦略的にM&Aし、グループ全体の専門性と未来への成長力を高めます。将来的には、グループ内で共同のR&D部門を立ち上げ、各社の知見を結集して次世代のITサービスを自ら生み出していくことも考えられます。
【まとめ】
アンドモア株式会社は、単なるソフトウェア開発会社ではありません。それは、それぞれに豊かな個性と強みを持つ中小IT企業をM&Aによって束ね、互いの力を引き出し合うことで、より大きな価値を社会に提供する「IT企業のプラットフォーム」です。社長が語る経営哲学は、まさに「寄せ鍋」。異なる食材(企業)がそれぞれの持ち味を活かしながら、全体として調和の取れた美味しい鍋(企業グループ)を作り上げています。IT業界が抱える事業承継や人材不足といった課題に対し、M&Aという形で一つの解決策を提示し、優れた技術や人材が埋もれることなく活躍し続けられる場を提供する同社。これからも、その独自の「寄せ鍋」経営と安定した財務基盤を武器に、多くの個性豊かなIT企業を仲間に加え、変化の激しい時代の中で、顧客の多様なニーズに応え続ける存在として成長していくことが期待されます。
【企業情報】
企業名: アンドモア株式会社
所在地: 東京都千代田区神田駿河台4-6 御茶ノ水ソラシティ13F
代表者: 代表取締役社長 本郷 滋
設立: 2017年3月1日
資本金: 59,000千円
事業内容: プログラム、システム、ソフトウェアの制作・開発・販売を行うIT企業グループの持株会社