野球の投手やテニスプレイヤーがキャリアを脅かされる「投球・サーブ障害」。かつては才能の代償、あるいは投げ込み不足と根性論で片付けられがちだったこの問題に、今、科学の光が当てられています。運動学習、脳神経科学、バイオメカニクス。最新の知見を駆使すれば、多くの障害は予防できるのではないか。そんな強い信念を胸に、一人の日本人アスレティックトレーナーが、日米での豊富な経験を携えて新たな挑戦を始めました。
今回は、2023年に設立されたばかりのスタートアップ、株式会社ウォーターホルダーの初の決算公告を読み解きます。投球障害予防という極めて専門的な領域で、日本のスポーツ界に変革をもたらそうとする同社のビジョンと、その船出の様子に迫ります。

【決算ハイライト(1期)】
資産合計: 9百万円 (約0.1億円)
負債合計: 5百万円 (約0.1億円)
純資産合計: 4百万円 (約0.0億円)
当期純損失: 1百万円 (約0.0億円)
自己資本比率: 約44.0%
利益剰余金: ▲1百万円 (約▲0.0億円)
【ひとこと】
設立第1期目の決算。資本金500万円を元手に事業を立ち上げ、当期は約100万円の純損失を計上しています。自己資本比率は約44.0%を確保。これは、専門性の高いサービスを市場に投入するための準備期間として、計画的な先行投資を行った、典型的なスタートアップの初期段階の姿と言えるでしょう。
【企業概要】
社名: 株式会社ウォーターホルダー
設立: 2023年
事業内容: 野球の投球やテニス・バレーボールのサーブによる肩の障害予防に特化した、科学的知見に基づく専門サービスの提供。代表取締役である鶴池柾叡氏が持つ、博士号(PhD)や米国公認アスレティックトレーナー(BOC-ATC)としての、日米での豊富な研究・臨床実績が事業の核となっている。
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、代表である鶴池柾叡氏が持つ、アスレティックトレーニング分野における極めて高度な専門知識と国際的な実績を、日本のスポーツ界に還元する「専門知見サービス事業」に集約されます。
✔プロフェッショナル向け教育事業(BtoB)
事業の大きな柱の一つです。理学療法士、柔道整復師、アスレティックトレーナーといった、すでに国家資格や専門資格を持つプロフェッショナルを対象に、投球障害予防に関する最新の科学的知見に基づいたセミナーやコンサルティングを提供します。特筆すべきは、同社が米国アスレティックトレーナー資格認定委員会(BOC)の認定プロバイダーである点です。これにより、国際的に最も権威のあるトレーナー資格の一つであるBOC-ATCの資格更新に必要な継続教育単位(CEU)を付与できる、国内では極めて希少なセミナーを開催できる強みを持っています。
✔アスリート向けパーソナルトレーニング事業(BtoC)
もう一つの柱が、アスリート個人への直接指導です。投球やサーブによる肩の痛みに悩む、あるいは将来の障害を予防したいと願う野球、テニス、バレーボールの選手に対し、マンツーマンで専門的なトレーニングを指導します。単なる筋力トレーニングに留まらず、運動学習や脳神経科学、運動制御といった、深い学術的知見に基づいたアプローチが、他にはない大きな特徴です。
✔情報発信・啓蒙事業
YouTubeチャンネル「ウォーターホルダー鶴池チャンネル」やブログ、noteなどを通じて、投球障害予防に関する専門的で質の高い情報を、無料で広く一般に発信しています。これにより、同社の専門性と信頼性を社会に示し、潜在的な顧客層(選手本人、指導者、トレーナー、そして保護者)へのアプローチと、事業全体のブランディングを戦略的に行っています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本のスポーツ界、特に野球界では、小中学生時代からの投球過多による肘や肩の障害が深刻な問題となっています。トミー・ジョン手術に代表されるように、多くの有望な選手がキャリアの断絶や長期離脱を余儀なくされており、科学的根拠(エビデンス)に基づいた障害予防への関心は、プロ・アマチュアを問わず非常に高まっています。「根性論」から「サイエンス」へという大きな潮流が、同社の事業にとって強力な追い風となっています。
✔内部環境
代表者である鶴池氏個人の卓越した専門性と、日米の第一線で築き上げてきたブランド力が、事業の競争力の源泉です。 第1期決算で計上された約107万円の純損失は、ウェブサイトの構築やセミナーコンテンツの制作、法人設立に伴う諸費用といった、事業を開始するための先行投資が、創業初年度の収益を上回った結果と考えられます。貸借対照表に計上されている204万円の繰延資産は、これらの創業・開業費用を会計ルールに則って資産計上したものであり、計画的な事業の立ち上げプロセスを示しています。
✔安全性分析
自己資本比率約44.0%は、設立初年度のスタートアップとしては健全な水準です。500万円の固定負債が計上されていますが、これは代表者本人からの借入金などである可能性が高く、外部金融機関からの借入によるリスクは低いと推測されます。流動負債がゼロであるため、短期的な支払い不能リスクは存在しません。まずは、セミナー事業やパーソナルトレーニング事業を本格的に軌道に乗せ、安定した収益を上げていくことが、財務基盤を強化する上での最優先課題となります。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・代表の鶴池氏が持つ、博士号(PhD)や米国ATC資格に裏打ちされた、世界レベルの圧倒的な専門性と、日米の第一線での豊富な実績
・米国資格の継続教育単位(CEU)を付与できる、国内では極めて希少なセミナー提供能力
・投球・サーブによる肩障害の予防という、専門性が高く、かつニーズが非常に強いニッチな市場に特化している点
弱み (Weaknesses)
・事業の成功が代表者個人の専門性に大きく依存しており、現時点ではスケールアップ(事業拡大)が難しい
・2023年設立と歴史が浅く、企業としての実績や社会的な知名度がまだ低い
・現在は赤字であり、安定した収益モデルを確立する途上にある
機会 (Opportunities)
・スポーツ界全体における、科学的トレーニングや障害予防に対する意識のさらなる高まり
・オンラインセミナーやオンラインコンサルティングの普及による、地理的な制約を超えた全国・海外への顧客獲得の可能性
・プロ野球球団や大学のスポーツチーム、専門性の高い整形外科クリニックなどとの法人契約による、安定収益の確保
脅威 (Threats)
・同様の専門性を持つ他の著名なトレーナーや理学療法士との競合
・専門性の高いサービスゆえに高単価となり、景気後退時に個人やチームの予算削減の対象となりやすいこと
・代表者個人の健康問題などが、事業継続に直結してしまうリスク(キーマンリスク)
【今後の戦略として想像すること】
代表の鶴池氏が持つ唯一無二の「知的資本」を、いかに社会に広げ、事業としてスケールさせていくかが今後のテーマとなります。
✔短期的戦略
まずは、強みであるプロフェッショナル向けセミナーの開催およびアーカイブ販売を強化し、安定した収益源を確立するでしょう。並行して、パーソナルトレーニングやコンサルティングで着実に実績を積み重ね、クライアントの成功事例をウェブサイトやSNSで具体的に発信することで、口コミによる新規顧客の獲得を目指します。
✔中長期的戦略
代表者一人への依存から脱却し、事業をスケールさせるための「仕組みづくり」が重要となります。例えば、鶴池氏の予防トレーニングメソッドを体系化した指導者養成プログラム「ウォーターホルダーアカデミー」を本格的に展開し、厳しい基準をクリアした認定インストラクターを全国に育成する。これにより、各地で同社の質の高いトレーニングを提供できるフランチャイズのような体制を構築することが考えられます。また、その科学的な知見を活かし、障害予防に特化したトレーニング器具や、動作解析アプリ、オンライン教材といったプロダクトを開発・販売することも、有力な戦略となり得ます。
【まとめ】
株式会社ウォーターホルダーは、単なるトレーニングジムやセミナー会社ではありません。それは、代表の鶴池柾叡氏が日米の第一線で培ってきた世界レベルの専門知識を結集し、日本のスポーツ界が長年抱える「投球障害」という根深い課題に、科学の力で正面から立ち向かう「スポーツ障害予防のシンクタンク」です。その社会的役割は、未来あるアスリートを傷害から守り、指導者や医療従事者に最新の知識を提供することで、日本のスポーツ界全体のレベルアップと、選手の健康寿命延伸に貢献することにあります。設立第1期は、その壮大なビジョンのための助走期間。これから、その卓越した専門知識をより多くの人々に届け、アスリートや指導者にとって不可欠な「知のインフラ」として成長していくことが大いに期待されます。
【企業情報】
企業名: 株式会社ウォーターホルダー
所在地: 東京都文京区向丘1-10-16 エイトスプリングスパークサイド201
代表者: 代表取締役社長 鶴池 柾叡
設立: 2025年1月6日(法人登記)
資本金: 5,000,000円
事業内容: スポーツのためのトレーニング指導、運動指導者のための研修・セミナー開催、コンサルティング、トレーニング器具の製造販売など