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#3575 決算分析 : 菱陽電機株式会社 第57期決算 当期純利益 59百万円

私たちの家庭やオフィス、そして工場などで、当たり前のように安全に電気が使える社会。その安全は、過電流や漏電といった電気の異常を瞬時に検知し、回路を遮断する「ブレーカー」という、目立たないながらも極めて重要な装置によって守られています。この、電気安全の最後の砦とも言える製品を、世界的な電機メーカーのパートナーとして黙々と作り続けている企業が、岡山県にあります。

今回は、三菱電機株式会社の重要な生産パートナーとして、半世紀以上にわたり日本の産業を支えてきた「菱陽電機株式会社」の決算を読み解きます。華やかなブランドの裏側で、日本の高品質な「ものづくり」を担う、隠れた優良企業の堅実な経営とその強さの秘密に迫ります。

菱陽電機決算

【決算ハイライト(57期)】
資産合計: 4,121百万円 (約41.2億円)
負債合計: 2,051百万円 (約20.5億円)
純資産合計: 2,070百万円 (約20.7億円)

当期純利益: 59百万円 (約0.6億円)

自己資本比率: 約50.2%
利益剰余金: 2,055百万円 (約20.6億円)

【ひとこと】
自己資本比率50%超、そして資本金の130倍以上にもなる約21億円の利益剰余金が示す通り、極めて強固で盤石な財務基盤を誇ります。三菱電機の重要なパートナーとして、長年にわたり安定した高収益経営を続けてきた歴史がうかがえます。

【企業概要】
社名: 菱陽電機株式会社
設立: 1968年11月1日
事業内容: 岡山県広島県に工場を構える、電気機械器具の専門組立メーカー。主要納品先である三菱電機株式会社福山製作所の生産パートナーとして、漏電遮断器や無停電電源装置UPS)などを製造する。

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【事業構造の徹底解剖】
菱陽電機のビジネスモデルは、日本の製造業の強みである、大手メーカーと専門性の高い協力会社との、深く強固なパートナーシップの典型例です。

✔見えざる社会の守護神:「電気安全装置」の製造
同社が手掛ける製品は、漏電による感電事故や火災を防ぐ「漏電遮断器」、電気の使い過ぎから配線を守る「ノーヒューズ遮断器」、そして停電から重要な機器を守る「無停電電源装置UPS)」など、私たちの生活や産業活動の安全に直結する、不可欠な電気機械器具です。これらは、ビルの配電盤や工場の制御盤、そしてスマートメーターの中などに組み込まれ、社会の隅々で24時間365日、電気の安全を監視しています。

三菱電機との「一心同体」のパートナーシップ
同社の事業の最大の特徴は、その主要納品先が「三菱電機株式会社 福山製作所」であることです。これは、同社が独立したメーカーとして市場で製品を販売するのではなく、三菱電機という巨大企業の生産戦略と一体となり、その製品の製造を専門に担う、極めて重要なパートナーであることを意味します。この強固な関係性が、安定した受注と、三菱電機が要求する高い品質基準をクリアするための技術情報の共有を可能にし、同社の事業の根幹を成しています。

✔多品種・短納期に応える「セル生産方式
同社の組立ラインでは、多様化する顧客のニーズに柔軟に対応するため、「セル生産方式」を導入しています。これは、一人の作業員や少人数のチームが、製品の組立から検査までを一つの「セル(作業台)」で完結させる生産方式です。従来のライン生産方式に比べ、多品種少量生産や、急な仕様変更、短納期への対応に優れており、高い品質と生産性を両立させています。


【財務状況等から見る経営戦略】
今回の決算は、大手企業の強力なパートナーとして、堅実な経営を続ける地方の優良製造業の姿を映し出しています。

✔外部環境
同社が製造する製品の需要は、国内の建設市況(ビルや住宅の着工数)や、企業の設備投資の動向に大きく影響されます。近年では、工場の自動化(FA)や、企業のDX化に伴うデータセンターの建設ラッシュが、産業用の遮断器やUPSへの需要を押し上げる大きな追い風となっています。また、世界的なスマートグリッド化の流れも、スマートメーター関連製品の需要を支えています。

✔内部環境と収益性分析
今期、59百万円の当期純利益を着実に確保しました。三菱電機という特定のパートナー向けの生産に特化しているため、その利益率は、両社間の長期的な信頼関係に基づき、安定的に推移しているものと推察されます。同社の収益性は、画期的な新製品によるものではなく、徹底した品質管理と、セル生産方式などによる日々の生産性向上努力によって、着実に生み出されているのです。

✔安全性分析
自己資本比率は50.2%と、工場などの固定資産を多く持つ製造業として、非常に健全で安定した水準です。そして、何よりも驚くべきは、資本金1,500万円に対し、利益剰余金がその130倍以上にあたる約20.6億円にも積み上がっている点です。これは、1968年の設立以来、半世紀以上にわたり、一貫して黒字経営を続け、利益を浪費することなく、堅実に内部留保として蓄積してきた、卓越した経営手腕の証明です。この盤石な財務基盤が、顧客である三菱電機からの絶対的な信頼を勝ち得ている、大きな要因の一つと言えるでしょう。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・電機大手・三菱電機との、半世紀以上にわたる極めて強固で安定したパートナーシップ。
・電気安全装置という、社会に不可欠な製品の組立に関する、高度な技術力とノウハウの蓄積。
自己資本比率50%超、利益剰余金20億円超という、業界でも屈指の盤石な財務基盤。
多品種少量生産と短納期に対応できる、柔軟で効率的な「セル生産方式」。

弱み (Weaknesses)
・事業のほぼ全てを、三菱電機という単一の顧客に依存している構造。親企業の経営戦略の転換(例えば、生産拠点の海外移転など)が、経営を揺るがす最大のリスク。
・自社ブランドを持たないため、市場での独立したブランド認知度が低い。

機会 (Opportunities)
・工場の自動化や、データセンター市場の拡大に伴う、産業用電気設備の継続的な需要増加。
再生可能エネルギーの普及に伴う、直流(DC)回路に対応した、新しいタイプの遮断器へのニーズ。
スマートメーターのさらなる普及と、次世代モデルへの更新需要。

脅威 (Threats)
三菱電機が、コスト削減などを目的に、生産パートナーを海外企業などに切り替えるリスク。
・製品に必要な電子部品や樹脂材料の、世界的なサプライチェーンの混乱や価格高騰。
・国内の生産年齢人口の減少に伴う、製造現場での人材確保の難化。


【今後の戦略として想像すること】
この盤石な経営基盤と、三菱電機との強固なパートナーシップを基盤に、同社はさらなる進化を遂げていくでしょう。

✔短期的戦略
まずは、三菱電機とのパートナーシップをより一層強化することが、事業の根幹となります。品質・コスト・納期(QCD)のさらなる向上を追求し続けることはもちろん、三菱電機が開発する新製品の、より効率的な量産化技術を共同で開発していくといった、より深いレベルでの連携が求められます。また、労働人口が減少する中で、工場のさらなる自動化や、従業員の多能工化といった、生産性向上のための投資を継続していくでしょう。

✔中長期的戦略
三菱電機の次世代製品を支える、不可欠な「マザー工場」としての地位を確立することが、長期的な目標となります。例えば、今後需要が拡大する直流(DC)送電網に使われる遮断器や、より高度な通信機能を持つスマートメーターなど、新しい技術領域に対応できる組立・検査技術をいち早く習得し、提案していく。そうすることで、単なる組立委託先から、三菱電機の製品開発に不可欠な、戦略的パートナーへと進化していくことが期待されます。


【まとめ】
菱陽電機株式会社の決算は、自己資本比率50%超、利益剰余金20億円超という、地方の製造業が持つ驚くべき財務的な実力と安定性を浮き彫りにしました。その強さの源泉は、半世紀以上にわたり、日本の電機大手・三菱電機と一心同体のパートナーとして、高品質な「ものづくり」を追求し続けてきた、その揺るぎない歴史と信頼にあります。

同社は、その名が市場で広く知られることはないかもしれません。しかし、彼らが岡山と広島の工場で日々組み立てる無数のブレーカーが、今日も日本の、そして世界の電気の安全を守っています。菱陽電機は、日本の世界的な製造業を、その根底から支える、強力で不可欠なサプライチェーンの、輝かしい一翼を担う存在なのです。


【企業情報】
企業名: 菱陽電機株式会社
所在地: 岡山県小田郡矢掛町小田6621
代表者: 代表取締役社長 東根 賢司
設立: 1968年11月1日
資本金: 1,500万円
事業内容: 電気機械器具(漏電遮断器、配線用遮断器、無停電電源装置スマートメーター等)の組立

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