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#3574 決算分析 : ユニオン石油工業株式会社 第87期決算 当期純利益 50百万円

自動車のタイヤや印刷インキ、そして送電網を支える変圧器。私たちの産業社会は、目に見えない場所で機能する、多種多様で特殊な「工業用潤滑油」によって支えられています。その中でも、優れた溶解性や冷却性といったユニークな特性を持つ「ナフテン系ベースオイル」は、多くの工業製品に不可欠な原材料として、重要な役割を担っています。

この、極めて専門的な「ナフテン系ベースオイル」の分野で、国内にわずか2社しか存在しない専門メーカーの一つが、山口県岩国市に拠点を置く「ユニオン石油工業株式会社」です。今回は、ENEOSと出光興産という、日本の石油業界の二大巨頭が共同で支える、このユニークなニッチトップ企業の決算を読み解き、その強靭な事業基盤と、日本のものづくりを支える役割に迫ります。

ユニオン石油工業決算

【決算ハイライト(87期)】
資産合計: 7,410百万円 (約74.1億円)
負債合計: 5,863百万円 (約58.6億円)
純資産合計: 1,547百万円 (約15.5億円)

当期純利益: 50百万円 (約0.5億円)

自己資本比率: 約20.9%
利益剰余金: 1,462百万円 (約14.6億円)

【ひとこと】
総資産約74億円と、地方の専門メーカーとして大きな存在感を誇ります。自己資本比率20.9%は大規模な工場を持つ装置産業として標準的な水準であり、14億円を超える利益剰余金は長年の安定経営を物語っています。今期も着実に利益を確保しました。

【企業概要】
社名: ユニオン石油工業株式会社
設立: 1947年6月12日
株主: ENEOS株式会社、出光興産株式会社
事業内容: 山口県岩国市を拠点とする、国内に2社しか存在しない「ナフテン系ベースオイル」の専門メーカー。

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【事業構造の徹底解剖】
ユニオン石油工業のビジネスモデルは、その希少性と、他に類を見ない強力な株主構成によって、極めて高い安定性を実現しています。

✔中核事業:国内シェアを二分する「ナフテン系ベースオイル」
事業の絶対的な柱は、特殊な「ナフテン系原油」を原料とした潤滑油基油(ベースオイル)の製造です。一般的なパラフィン系ベースオイルとは異なる特性を持ち、ゴム製品(タイヤなど)の柔軟性を高める軟化剤、印刷インキの溶剤、変圧器の冷却・絶縁を担う電気絶縁油、そして工業用グリースの原料など、幅広い産業分野で「縁の下の力持ち」として使用されています。国内メーカーは同社を含めてわずか2社のみという寡占市場であり、極めて高い専門性と設備的な参入障壁を持つ、典型的なニッチトップビジネスです。

✔最強の株主構成:ENEOSと出光の「共同生産拠点」
同社の最大の特色であり、揺るぎない強さの源泉が、日本の石油元売りのツートップであるENEOS株式会社と出光興産株式会社が主要株主であるという事実です。本来であれば市場で激しく競合する2社が、この専門性の高いナフテン系ベースオイルについては、同社をいわば「共同の生産拠点」として活用しているのです。これにより、同社は①原料となる特殊なナフテン系原油の安定的な調達、②製造した製品の安定的な販売先の確保、という、製造業が抱える二大課題を設立時からクリアしている、極めて恵まれた事業環境にあります。

✔一貫生産を支える大規模工場
山口県岩国市の石油化学コンビナートの一角に大規模な工場を構え、タンカーで受け入れた原油の減圧蒸留から、フルフラール溶剤を用いた精製、そして最終製品化までの一貫生産体制を確立しています。大型タンカーが直接接岸できる港湾設備も自社で保有しており、原料の受け入れから製品出荷までを極めて効率的に行っています。


【財務状況等から見る経営戦略】
今回の決算は、ニッチトップ企業の安定性と、同時にエネルギー産業が直面する課題を映し出しています。

✔外部環境
ナフテン系ベースオイルの需要は、自動車生産や各種製造業の設備投資といった、マクロ経済全体の動向に緩やかに連動します。世界的な脱炭素化の流れの中で、道路舗装のリサイクルを促進する「再生アスファルト添加剤」といった環境配慮型の用途は、新たなビジネスチャンスとなります。一方で、企業にとって最大のリスクは、国際情勢によって激しく変動する原油価格です。仕入れコストが乱高下する中で、いかに販売価格へ適正に転嫁し、利益を確保するかが常に経営の重要課題となります。

✔内部環境と収益性分析
今期、50百万円の当期純利益を着実に確保しました。国内2社のみという寡占市場であるため、一定の価格交渉力を持ち、安定した収益を上げられる事業構造であると推察されます。また、株主であるENEOSや出光との間で、製造委託料や販売価格がある程度安定的に決められている可能性も高く、これが経営の安定に大きく寄与していると考えられます。

✔安全性分析
自己資本比率は20.9%。巨大な蒸留装置やタンク群、そして大量の原料・製品在庫を抱える装置産業としては、標準的な財務水準です。最も注目すべきは、利益剰余金が約14.6億円と、資本金(6,400万円)の22倍以上にまで積み上がっている点です。これは、1947年の創業以来、75年以上にわたり、幾多の石油危機や経済の浮き沈みを乗り越え、着実に利益を内部に蓄積してきた歴史の重みと、経営の安定性を明確に示しています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・国内2社のみという「ナフテン系ベースオイル」市場における、圧倒的なニッチトップとしての地位と価格交渉力。
ENEOSと出光興産という二大石油元売りを株主に持つことによる、原料調達と製品販売における絶対的な安定基盤。
・75年以上の長い歴史で培った、特殊油の製造に関する高度な技術と、安全操業の実績。
・14億円を超える潤沢な利益剰余金が示す、長期的に安定した収益力と財務基盤。

弱み (Weaknesses)
・ナフテン系ベースオイルという、特殊で限定的な市場に事業が大きく依存していること。
・株主である親会社の意向に、経営戦略が大きく左右される可能性がある。

機会 (Opportunities)
・自動車のEV化に伴い需要が増す、高性能なグリースや、次世代の変圧器・コンデンサ向け絶縁油など、新たな用途での需要創出。
・環境意識の高まりを背景とした、再生アスファルト添加剤などの環境配慮型製品の需要拡大。
・高品質な日本製ベースオイルに対する、アジア市場など海外への輸出拡大。

脅威 (Threats)
地政学リスクや為替変動に起因する、原油価格の急激な高騰による採算の悪化。
・世界的な脱炭素化の大きな流れの中での、石油製品全体の需要の長期的な減少リスク。
・大規模な工場設備における、老朽化対策や、より厳しくなる安全・環境規制への対応に伴うコスト増大。


【今後の戦略として想像すること】
この盤石な事業基盤を活かし、同社はさらなる高付加価値化と環境対応を進めていくでしょう。

✔短期的戦略
まずは、株主であるENEOS、出光と緊密に連携し、国内外の顧客に対して、主力製品であるナフテン系ベースオイルの安定供給を続けることが最優先事項です。ウェブサイトでも強調されている5S活動などを通じた、工場の安全・安定操業と品質維持が、全ての事業活動の基盤となります。

✔中長期的戦略
自動車のEV化や、再生可能エネルギーの導入拡大といった社会構造の変化の中で生まれる、新たなニーズを的確に捉えていくことが期待されます。例えば、EVのモーターを効率的に潤滑・冷却するための特殊なグリース基油や、より高性能な次世代変圧器向けの絶縁油など、ナフテン系の特性を活かした新用途を顧客と共に開発していくでしょう。また、再生アスファルト添加剤など、サーキュラーエコノミー(循環型経済)に貢献する環境対応製品の比率を高め、持続可能な社会への貢献と企業成長を両立させていくことが、重要なテーマとなります。


【まとめ】
ユニオン石油工業株式会社の決算は、約15億円の潤沢な利益剰余金が示す通り、ニッチトップ企業としての圧倒的な安定性を浮き彫りにしました。その強さの源泉は、国内に2社しか存在しない「ナフテン系ベースオイル」の専門メーカーという希少性と、市場で競合するはずのENEOSと出光が共に株主として支えるという、他に類を見ないユニークな事業基盤にあります。

同社は、単なる石油精製会社ではありません。それは、タイヤから印刷インキ、そして電力インフラまで、日本の多様なものづくりに不可欠な「特殊な血液」を供給する、産業の心臓部の一つです。これからも、山口県岩国の地から、その卓越した技術力で、日本の産業社会を静かに、しかし力強く支え続けることが期待されます。


【企業情報】
企業名: ユニオン石油工業株式会社
所在地: 山口県岩国市装束町1丁目5番19号
代表者: 代表取締役社長 二武 将彦
設立: 1947年6月12日
資本金: 6,400万円
事業内容: 石油製品(ナフテン系ベースオイル、プロセスオイル、燃料油等)および化成品(重亜硫酸ソーダ液)の製造販売
株主: ENEOS株式会社、出光興産株式会社

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