東京のベッドタウンとして発展を続ける千葉県我孫子市・柏市エリア。この地域に深く根ざし、人々の通勤・通学、日々の買い物の足を75年以上にわたって支え続けてきたのが、「阪東バス」の愛称で親しまれる阪東自動車株式会社です。1949年の設立以来、地域の発展と共に路線網を広げ、現在は東武グループの一員として、その安全と信頼を未来へ繋いでいます。地域社会に不可欠な公共交通を担う老舗企業は、今どのような状況にあるのでしょうか。今回は、この地域密着型バス事業者の決算を読み解き、その驚異的な財務健全性と、未来への展望に迫ります。
今回は、千葉県我孫子・柏エリアの交通インフラを担う、阪東自動車株式会社の決算を読み解き、そのビジネスモデルや戦略をみていきます。

【決算ハイライト(第93期)】
資産合計: 3,078百万円 (約30.8億円)
負債合計: 144百万円 (約1.4億円)
純資産合計: 2,935百万円 (約29.3億円)
当期純利益: 124百万円 (約1.2億円)
自己資本比率: 約95.3%
利益剰余金: 2,878百万円 (約28.8億円)
まず驚くべきは、自己資本比率が約95.3%という異次元の高さです。これは実質的に無借金経営であり、財務基盤が極めて強固で盤石であることを示しています。そして何より、純資産約29.3億円のうち、そのほぼ全てにあたる約28.8億円が利益剰余金で占められている点は、長年にわたり莫大な利益を安定的に積み上げてきた超優良企業であることの証左です。当期純利益も約1.2億円を堅実に確保しており、公共交通という社会インフラを担う企業の圧倒的な安定性がうかがえます。
企業概要
社名: 阪東自動車株式会社
設立: 1949年11月15日
株主: 東武グループ
事業内容: 一般乗合旅客自動車運送事業(路線バス)、一般貸切旅客自動車運送事業、特定旅客自動車運送事業など
【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、千葉県我孫子市・柏市を中心としたエリアの多様な輸送ニーズに応える「地域密着型バス事業」です。地域住民の生活交通を主軸に、コミュニティ交通や貸切輸送まで、きめ細やかなサービスを展開しています。
✔路線バス事業
事業の根幹であり、我孫子駅や東我孫子駅などを起点に、地域の住宅地、学校、公共施設などを結ぶ路線網を運営しています。都心へ通勤・通学する人々の足として、また、地域内での移動手段として、なくてはならない存在です。この安定した利用者が、経営の揺るぎない基盤となっています。
✔貸切・特定バス事業
地域の学校の遠足や部活動の送迎、企業の従業員送迎などで利用される貸切バスや、特定の顧客向けの特定バス事業も手掛けています。路線バス事業で培った安全運行のノウハウと、地域での信頼が強みです。
✔コミュニティバス事業
我孫子市の市民バス「あびバス」の運行を受託するなど、行政と連携したコミュニティ交通の担い手としても重要な役割を果たしています。高齢者など交通弱者の移動手段を確保し、地域社会に貢献しています。
✔東武グループとしてのシナジー
1958年に東武鉄道の傘下に入って以来、長年にわたり東武グループの一員として事業を展開しています。グループとしての共同での車両調達によるコスト削減、ブランドイメージの向上、そして「PASMO」などの交通系ICカードシステムの共同利用など、多くのメリットを享受しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
バス業界は、全国的に運転手不足が深刻化しており(2024年問題)、路線の維持が大きな経営課題となっています。また、地方における人口減少やマイカー利用の定着は、路線バスの利用者減少に繋がる構造的な問題を抱えています。しかし、同社が事業基盤とする我孫子・柏エリアは、都心のベッドタウンとして比較的安定した人口を維持しており、高齢化の進展は、免許を返納した高齢者の移動手段としてのバスの重要性を高めています。
✔内部環境
同社のビジネスモデルは、特定の地域に深く根ざし、住民の生活に不可欠なサービスを提供することで、極めて安定した収益を確保するものです。自己資本比率95.3%という鉄壁の財務基盤は、75年という長い歴史の中で、地域社会と真摯に向き合い、堅実な経営を続けてきた成果に他なりません。この財務力が、車両の計画的な更新や、運転手の採用・育成といった将来への投資を可能にしています。
✔安全性分析
自己資本比率が約95.3%と、上場企業を含めてもトップクラスの水準にあり、財務的な安全性は万全です。負債合計が約1.4億円と極めて少なく、これをはるかに上回る約28.8億円の利益剰余金を有しています。短期的な支払い能力を示す流動比率も、流動資産(約18.1億円)が流動負債(約1.4億円)の約13倍もあり、約1269%と驚異的な高さです。資金繰りにも全く不安はなく、財務的には鉄壁と言えるでしょう。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・東武グループとしての、高いブランド力、信用力、安定した経営基盤
・自己資本比率95.3%を誇る、盤石で圧倒的な財務基盤
・我孫子・柏エリアにおける、75年以上の事業実績と地域からの厚い信頼
・路線バス、貸切バス、コミュニティバスと、地域ニーズに応える事業構成
弱み (Weaknesses)
・事業エリアが我孫子・柏エリアに集中しており、地域経済の動向に業績が左右されやすい
・業界全体が抱える、運転手不足と高齢化という構造的課題
機会 (Opportunities)
・高齢化の進展と免許返納者の増加に伴う、生活交通としてのバスの役割の再評価
・我孫子市「あびバス」のような、コミュニティ交通の受託拡大
・DX(バスロケーションシステムの導入、キャッシュレス決済の多様化など)による、利用者サービスの向上
・EVバスの導入による、環境負荷の低減と企業イメージの向上
脅威 (Threats)
・地域の人口減少による、路線バス利用者の長期的な減少リスク
・燃料価格の継続的な高騰による、収益の圧迫
・深刻化する運転手不足による、路線の減便・廃止リスク
・他の交通モード(鉄道、自家用車)との競争
【今後の戦略として想像すること】
盤石の経営基盤を持つ同社が、今後も地域の交通インフラとしての役割を果たし続けるためには、以下の戦略が考えられます。
✔短期的戦略
最優先課題は「人材の確保と育成」です。働きやすい職場環境を整備し、地域に根ざした採用活動を強化することで、将来の運行を担う運転手の確保に努めます。また、バスロケーションシステムなどのITツールを導入し、利用者の利便性を向上させることで、顧客満足度を高め、安定した利用を促進します。
✔中長期的戦略
「持続可能な地域交通ネットワークの構築」がテーマとなります。行政や地域コミュニティとさらに密接に連携し、利用者の少ない路線については、AIを活用したオンデマンド交通などの新しい運行形態を実証実験するなど、地域の需要に柔軟に対応できる、より効率的な運行モデルを模索していくでしょう。また、東武グループとして、EVバスの導入を計画的に進め、地域の脱炭素化に貢献する「グリーンな交通事業者」としての役割を強化していくことが期待されます。
【まとめ】
阪東自動車株式会社は、単なるバス会社ではありません。それは、千葉県我孫子・柏エリアという地域社会に深く根ざし、人々の日常生活を、75年以上にわたって安全・安心な輸送サービスで支え続けてきた社会インフラそのものです。今期決算では、自己資本比率95.3%という圧巻の財務内容で、その揺るぎない経営の安定性を見せつけました。人口減少や運転手不足という厳しい課題に直面しながらも、同社は東武グループの一員として、地域の未来を見据えた交通ネットワークの維持・発展に挑戦し続けています。これからも、地域の人々にとって最も身近で信頼できる足として、走り続けてくれることが期待されます。
【企業情報】
企業名: 阪東自動車株式会社
所在地: 千葉県我孫子市東我孫子2丁目36番22号
代表者: 取締役社長 神﨑 満
設立: 1949年11月15日
資本金: 1,920万円
事業内容: 一般乗合旅客自動車運送事業、一般貸切旅客自動車運送事業、特定旅客自動車運送事業、不動産賃貸業務、駐車場の経営
株主: 東武グループ