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#2680 決算分析 : 朝日自動車株式会社 第119期決算 当期純利益 347百万円

東京のベッドタウンとして広がる埼玉、群馬、茨城、千葉の郊外エリア。この広大な地域で、人々の通勤・通学、日々の暮らしの足をきめ細かく支えているのが、朝日自動車株式会社です。1941年の設立以来、80年以上の長きにわたり、地域に密着したバス・タクシー事業を展開。東武グループの中核的な交通事業者として、鉄道駅と住宅地、学校、事業所などを結ぶ「ラストワンマイル」を担い、地域社会に不可欠な存在となっています。人口減少や運転手不足といった厳しい課題に直面する地方交通の現場で、この老舗企業はどのような経営を行っているのでしょうか。今回は、その決算内容から、盤石の経営実態と未来への展望に迫ります。

今回は、東武グループの中核として首都圏郊外の交通を担う、朝日自動車株式会社の決算を読み解き、そのビジネスモデルや戦略をみていきます。

朝日自動車決算

【決算ハイライト(第119期)】
資産合計: 14,367百万円 (約143.7億円)
負債合計: 7,291百万円 (約72.9億円)
純資産合計: 7,076百万円 (約70.8億円)

当期純利益: 347百万円 (約3.5億円)

自己資本比率: 約49.2%
利益剰余金: 7,012百万円 (約70.1億円)

まず注目すべきは、純資産が約70.8億円、中でも利益剰余金が約70.1億円にも達している点です。これは、長年にわたり莫大な利益を安定的に積み上げてきた超優良企業であることの証左です。自己資本比率も約49.2%と非常に健全な水準を維持しています。当期純利益も約3.5億円を堅実に確保しており、バス・タクシー事業を取り巻く厳しい環境の中でも、確固たる収益力と安定した財務基盤を両立させていることがうかがえます。

企業概要
社名: 朝日自動車株式会社
設立: 1941年1月11日
株主: 東武グループ
事業内容: 一般乗合・貸切・特定旅客自動車運送事業(バス事業)、一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)

www.asahibus.jp


【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、埼玉県、群馬県茨城県、千葉県の広大なエリアをカバーする「総合旅客自動車運送事業」です。地域住民の生活に密着したサービスを、バスとタクシーの両輪で展開しています。

✔バス事業
事業の根幹であり、埼玉県東部・北部、群馬県東部、茨城県西部などを中心に、緻密な路線網を構築しています。東武スカイツリーラインやJR高崎線宇都宮線といった主要鉄道路線の各駅を起点に、周辺の住宅地や公共施設、学校、工場などを結ぶフィーダー(末端輸送)路線が中心です。地域住民の安定した利用が、経営の揺るぎない基盤となっています。

✔タクシー事業
バス路線ではカバーしきれない、よりパーソナルな移動ニーズに応えるのがタクシー事業です。埼玉県、群馬県茨城県の各エリアで営業しており、バス事業と相互に補完しあう形で、地域の総合的な交通サービスを担っています。

東武グループとしてのシナジー
同社は東武グループの中核企業であり、関越交通川越観光自動車国際十王交通といった多くのバス事業者を傘下に持つ、朝日自動車グループの筆頭でもあります。グループとしての共同での車両調達や人材育成、そして「PASMO」などの交通系ICカードシステムの共同利用など、規模のメリットを活かした効率的な経営を行っています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
バス・タクシー業界は、地方における人口減少やマイカーへの依存を背景に、利用者数の減少という構造的な課題に直面しています。加えて、全国的に深刻化しているのが運転手不足(2024年問題)です。一方で、高齢化の進展により、免許を返納した高齢者の移動手段として、地域の公共交通の重要性はますます高まっています。

✔内部環境
同社は、東京のベッドタウンとして発展してきた首都圏郊外という、比較的安定した需要が見込めるエリアに強固な事業基盤を築いています。80年以上の歴史で培われた地域からの信頼と、緻密な路線網が競争力の源泉です。約70億円という巨額の利益剰余金が示す通り、極めて堅実な経営を長年続けており、この財務力が、車両の計画的な更新や、運転手の採用・育成といった、将来への投資を可能にしています。

✔安全性分析
自己資本比率が約49.2%と高く、財務的な安定性は申し分ありません。負債合計約73億円に対し、それをほぼ同額上回る約70億円の利益剰余金を有しており、企業体力は非常に強固です。また、流動資産(約95.6億円)が流動負債(約70.9億円)を上回っており、短期的な支払い能力を示す流動比率は約135%と健全な水準で、資金繰りにも問題はありません。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
東武グループの中核企業としての、絶大なブランド力、信用力、安定した経営基盤
・利益剰余金70億円を誇る、盤石で圧倒的な財務基盤
・1都4県にまたがる広範な営業エリアと、地域に密着した緻密な路線網
・バスとタクシーの両事業を展開することによる、多様なニーズへの対応力とリスク分散

弱み (Weaknesses)
・事業エリアが首都圏郊外に集中しており、都心回帰などの大きな人口動態の変化に影響されるリスク
・業界全体が抱える、運転手不足と高齢化という構造的課題

機会 (Opportunities)
・高齢化の進展と免許返納者の増加に伴う、生活交通としてのバス・タクシーの役割の再評価
自治体との連携強化による、コミュニティバスやデマンド交通など、新たな運行形態の受託拡大
・DX(バスロケーションシステムの高度化、キャッシュレス決済の多様化など)による、利用者サービスの向上
・EVバス・タクシーの導入による、環境負荷の低減と企業イメージの向上

脅威 (Threats)
・地域の人口減少による、路線バス利用者の長期的な減少リスク
・燃料価格の継続的な高騰による、収益の圧迫
・深刻化する運転手不足による、路線の減便・廃止リスク
・ライドシェアの導入など、新たな競合の出現可能性


【今後の戦略として想像すること】
盤石の経営基盤を持つ同社が、今後も地域の交通インフラとしての役割を果たし続けるためには、以下の戦略が考えられます。

✔短期的戦略
最優先課題は「人材の確保と育成」です。「働きやすい職場認証制度」などを活用し、職場環境の魅力を高めることで、運転手の採用と定着を図ります。また、バスロケーションシステム「朝日バスナビ」の機能向上や、キャッシュレス決済の導入拡大など、利用者の利便性を高めることで、顧客満足度の向上と安定利用の促進を図ります。

✔中長期的戦略
「持続可能な地域公共交通の担い手」としての役割を深化させることがテーマとなります。行政や地域コミュニティと連携し、AIを活用したオンデマンド交通の実証実験や、利用者の少ない路線をコミュニティバスへ転換するなど、地域のニーズに合わせた最適な運行形態を模索していくでしょう。また、東武グループとして、EVバス・タクシーの導入を計画的に進め、地域の脱炭素化に貢献する「グリーンな交通事業者」として、業界をリードしていくことが期待されます。


【まとめ】
朝日自動車株式会社は、単なるバス・タクシー会社ではありません。それは、首都圏郊外の広大なエリアに暮らす人々の「足」となり、80年以上にわたって地域社会の発展を支え続けてきた、社会インフラそのものです。今期決算では、70億円もの利益剰余金という圧巻の数字で、その揺るぎない経営の安定性を見せつけました。人口減少や運転手不足という厳しい課題に直面しながらも、同社は東武グループの中核企業として、地域の未来を見据えた公共交通ネットワークの維持・発展に挑戦し続けています。これからも、地域の人々にとって最も身近で信頼できるパートナーとして、走り続けてくれることが期待されます。


【企業情報】
企業名: 朝日自動車株式会社
所在地: 埼玉県越谷市袋山1119
代表者: 取締役社長 柏倉 則行
設立: 1941年1月11日
資本金: 4,912万円
事業内容: 一般乗合・貸切・特定旅客自動車運送事業(バス事業)、一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)
株主: 東武グループ

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