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#4317 決算分析 : オリヅルセラピューティクス株式会社 第4期決算 当期純利益 ▲2,392百万円

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山中伸弥教授のノーベル賞受賞で世界にその名を知らしめた「iPS細胞」。かつては不治とされた病気さえも治療可能にする、再生医療の切り札として大きな期待が寄せられています。この夢の技術を、研究室の成果で終わらせることなく、実際に患者さんの元へ届けるべく、壮大な挑戦を続ける企業があります。それが、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)と武田薬品工業の共同研究から生まれた、オリヅルセラピューティクス株式会社です。

今回は、重い心不全1型糖尿病といった難病にiPS細胞技術で挑む、日本のバイオベンチャーの雄の決算を読み解き、その財務状況から未来に向けた確かな戦略を探ります。

オリヅルセラビューティクス決算

【決算ハイライト(第4期)】
資産合計: 3,173百万円 (約31.7億円)
負債合計: 837百万円 (約8.4億円)
純資産合計: 2,337百万円 (約23.4億円)

当期純損失: 2,392百万円 (約23.9億円)

自己資本比率: 約73.6%
利益剰余金: ▲7,461百万円 (約▲74.6億円)

【ひとこと】
当期純損失が約24億円、累積の損失を示す利益剰余金が約75億円と、巨額の赤字が計上されています。しかし、これは事業の失敗を意味しません。むしろ、自己資本比率が約73.6%と極めて高く、財務基盤は盤石です。これは、新薬開発に莫大な先行投資を必要とする、研究開発型バイオベンチャーの典型的な財務であり、赤字の額は未来の医療を創るための投資の大きさを示しています。

【企業概要】
社名: オリヅルセラピューティクス株式会社
設立: 2021年4月9日
株主: 京都大学イノベーションキャピタル株式会社, 武田薬品工業株式会社, SMBCベンチャーキャピタル株式会社, 株式会社三菱UFJ銀行など
事業内容: iPS細胞を用いた再生医療等製品の開発、およびiPS細胞関連技術を利活用した研究支援事業。

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【事業構造の徹底解剖】
同社は、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)と武田薬品の共同研究プログラム「T-CiRA」で培われた世界最先端の技術シーズを社会実装(製品化)することをミッションとしています。事業は大きく3つの柱で構成されています。

✔iCM事業(iPS細胞由来心筋細胞)
根本的な治療法が限られている重度の慢性心不全の患者さんに対し、iPS細胞から作製した高純度の心筋細胞(iCM)を移植することで、失われた心筋を補充し、心機能の回復を目指す再生医療です。カテーテルなど、患者さんの身体的負担が少ない低侵襲での治療法も視野に入れており、多くの患者のQOL(生活の質)改善が期待される中核事業です。

✔iPIC事業(iPS細胞由来膵島細胞)
血糖コントロールが極めて困難な1型糖尿病の患者さんに対し、iPS細胞から作製した膵島細胞(iPIC)を移植する治療法の開発です。インスリンを適切に分泌する細胞そのものを補充するため、頻繁なインスリン注射や低血糖の恐怖から患者を解放する、根本治療となる可能性があります。

✔プラットフォーム事業
iCM、iPICの開発で培ったiPS細胞の培養・分化・解析に関する高度なノウハウや技術を、他の企業や研究機関にサービスとして提供する事業です。受託試験やコンサルティングを通じて、日本のiPS細胞研究コミュニティ全体の発展に貢献するとともに、自社の開発パイプラインが収益を生むまでの間の、貴重な収入源となる可能性があります。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
再生医療は、世界中の製薬企業やバイオベンチャーがしのぎを削る、次世代の医療を担う成長市場です。治療法のない病気に苦しむ患者からの期待は絶大であり、成功すれば莫大な市場が拓けます。しかし、製品化までの道のりは長く、巨額の研究開発費と、規制当局による厳格な審査という高いハードルが存在します。このようなハイリスク・ハイリターンな市場で成功するには、卓越した技術力と、長期的な研究開発を支える強固な資金力が不可欠です。

✔内部環境
同社の財務は、まさに研究開発型バイオベンチャーの王道を行くものです。売上がまだ立っていない段階で、当期だけで約24億円という費用を研究開発に投じています。この莫大な先行投資を可能にしているのが、株主構成に名を連ねる錚々たる企業・ベンチャーキャピタルからの巨額の出資金です。貸借対照表の資本剰余金は約94億円にものぼり、これが事業を推進する原動力となっています。現在の戦略は、この潤沢な資金を元に、一日も早く非臨床試験臨床試験を進め、開発パイプラインの価値を証明していくことに集約されます。

✔安全性分析
自己資本比率が約73.6%と非常に高く、財務の安全性は極めて良好です。負債が少なく、事業資金のほとんどを返済義務のない自己資本(出資金)で賄っているため、短期的な資金繰りの懸念はありません。利益剰余金が大きなマイナス(累積赤字)である一方で、それをはるかに上回る資本剰余金(出資金)が存在するため、純資産はプラスを維持しています。この「大きな累積赤字」と「それを上回る潤沢な出資金」の組み合わせこそが、長期的な視点で未来の医療に投資するバイオベンチャーの財務的な特徴です。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
京都大学CiRAと武田薬品という、世界トップクラスのiPS細胞研究・創薬基盤から生まれた技術シーズ
・大学、製薬企業、大手金融機関など、強力な株主による盤石な資金力と支援体制
心不全、糖尿病という巨大なアンメット・メディカル・ニーズ(未だ満たされていない医療ニーズ)に応える開発パイプライン
・経験豊富な経営陣と研究開発チーム

弱み (Weaknesses)
・製品上市までに長い年月と莫大な費用を要し、事業がまだ収益を生んでいない点
・開発の成否が、不確実性の高い臨床試験の結果に大きく依存すること
・商業生産に向けた大量培養技術の確立など、未知の課題も多い

機会 (Opportunities)
・世界的な高齢化の進展に伴う、心不全や糖尿病患者の増加
・iPS細胞技術の進展による、新たな治療法の開発可能性
・プラットフォーム事業を通じた、他社との共同研究やアライアンスの構築

脅威 (Threats)
・国内外の競合他社による、同種または代替治療法の開発競争
臨床試験における予期せぬ結果や、開発の遅延・中止リスク
再生医療等製品に関する法規制の変更
・将来の追加資金調達が、株式市場や経済の状況に左右される可能性


【今後の戦略として想像すること】
✔短期的戦略
最優先されるのは、iCM事業とiPIC事業を、一日も早くヒトでの安全性・有効性を確認する「臨床試験(治験)」のステージに進めることです。そのために、医薬品の製造管理および品質管理の基準(GMP)に準拠した細胞製造体制の構築や、規制当局との協議などを精力的に進めていくでしょう。並行して、プラットフォーム事業を成長させ、iPS細胞研究のエコシステムにおけるハブとしての地位を確立し、将来の事業提携の布石を打つことも重要な戦略となります。

✔中長期的戦略
臨床試験で良好な結果を得て、再生医療等製品としての承認を取得し、製品を上市(発売)することが最大の目標です。そのためには、数千億円規模とも言われるさらなる資金調達や、グローバルな販売網を持つ大手製薬企業との提携(ライセンスアウト)なども視野に入ってきます。将来的には、心不全や糖尿病に続く、新たな疾患領域へのパイプライン拡充も目指していくでしょう。日本のiPS細胞研究の成果を世界中の患者に届ける、グローバルな再生医療企業へと成長することが期待されます。


【まとめ】
オリヅルセラピューティクス株式会社は、目先の利益を追う企業ではありません。それは、日本の科学技術の粋を集め、いまだ治療法のない病に苦しむ人々に希望を届けるという、壮大な使命を背負った未来創造型の企業です。決算書に刻まれた巨額の赤字は、その使命を達成するための研究開発への惜しみない投資の証です。

京都大学武田薬品、そして日本を代表する金融機関からの強力なバックアップを受け、同社の挑戦はまだ始まったばかりです。この「折鶴」が、病に苦しむ人々の希望を乗せて未来へと羽ばたく日を、大きな期待を持って見守りたいと思います。


【企業情報】
企業名: オリヅルセラピューティクス株式会社
所在地: 京都市左京区吉田本町36番地1 (官報公告上の登記住所)
事業所: 神奈川県藤沢市村岡東2丁目26-1 湘南ヘルスイノベーションパーク内
代表者: 代表取締役 野中 健史
設立: 2021年4月9日
資本金: 1億円
事業内容: 細胞移植による再生医療等製品の開発、iPS細胞関連技術を利活用した創薬研究支援および再生医療研究基盤整備
株主: 京都大学イノベーションキャピタル株式会社, 武田薬品工業株式会社, SMBCベンチャーキャピタル株式会社, 株式会社三菱UFJ銀行, 株式会社メディパルホールディングス, 三井住友ファイナンス&リース株式会社, 三井住友信託銀行株式会社, 日本ベンチャーキャピタル株式会社, 日本グロースキャピタル投資法人, T1D Fund: A Breakthrough T1D Venture, LLC.

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