決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメントし保管する倉庫。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご容赦ください。

#3660 決算分析 : TOPPANクロレ株式会社 第113期決算 当期純利益 22百万円

私たちが日々手にする書籍や雑誌、漫画のコミックス。その美しい印刷や製本の裏側には、100年以上にわたり日本の出版文化を支え続けてきた、印刷技術のプロフェッショナル集団の存在があります。明治44年の創業以来、紙幣の印刷までも手掛けたという深い歴史を持つ彼らは今、デジタル化の大きな波の中で、その姿を大きく変えようとしています。

今回は、かつて「図書印刷」の名で知られ、現在は印刷業界の巨人・TOPPANグループの中核企業として新たなスタートを切った、TOPPANクロレ株式会社の決算を分析します。100年を超える歴史を持つ老舗企業が、デジタルマーケティングという新たな領域へ果敢に挑戦する、その変革の軌跡とビジネスモデルに迫ります。

TOPPANクロレ決算

【決算ハイライト(113期)】
資産合計: 123,738百万円 (約1,237.4億円)
負債合計: 48,282百万円 (約482.8億円)
純資産合計: 75,455百万円 (約754.6億円)
売上高: 51,619百万円 (約516.2億円)
当期純利益: 22百万円 (約0.2億円)

自己資本比率: 約61.0%
利益剰余金: 23,480百万円 (約234.8億円)

【ひとこと】
総資産1,200億円超という圧倒的な事業規模と、自己資本比率約61.0%という盤石の財務基盤が目を引きます。234億円もの利益剰余金は、1世紀以上にわたる黒字経営の歴史の証です。一方で、売上高516億円に対し当期純利益は2,200万円と極めて低く、大きな事業変革の過渡期にあることがうかがえます。

【企業概要】
社名: TOPPANクロレ株式会社
設立: 1943年3月17日(創業は1911年)
株主: TOPPANホールディングス株式会社
事業内容: 情報デザイン事業(出版・商業印刷)、デジタルマーケティングサービスなど

www.toppan-colorer.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
TOPPANクロレの事業は、100年以上の歴史を持つ「印刷」を核としながら、時代の変化に対応し、その領域を「情報伝達」全体へと大きく広げています。

✔事業の柱①:情報デザイン事業(伝統の印刷事業)
同社の屋台骨であり、創業以来のコア事業です。書籍、雑誌、辞典、教科書、そして特に高いシェアを誇る漫画のコミックスなど、出版印刷の分野で日本の文化を支え続けてきました。また、企業のカタログやポスターといった商業印刷も手掛けています。戦後には紙幣の印刷を担ったこともあるというその技術力と品質は、業界でもトップクラスです。

✔事業の柱②:デジタルマーケティングサービス(未来への挑戦)
紙媒体の市場が縮小する中で、同社が新たな成長の柱として注力しているのが、この分野です。印刷で培った「情報を美しく、分かりやすく伝える」というノウハウをデジタル領域に応用。顧客企業のWebサイト制作やSEO対策、SNS運用といった、デジタルマーケティング活動を「伴走型」で支援します。これは、単なる印刷会社から、顧客のコミュニケーション戦略全体をサポートする「情報伝達のプロフェッショナル」への進化を目指す、同社の強い意志の表れです。

✔ビジネスモデルの独自性:TOPPANグループの総合力
2019年にTOPPANホールディングス(旧・凸版印刷)の完全子会社となったことで、同社の競争力は新たなステージに入りました。親会社が持つ、マーケティング、IT、セキュリティといった広範な事業領域と連携することで、印刷という枠を超えた、より高度で複合的なソリューションを顧客に提供することが可能となっています。


【財務状況等から見る経営戦略】
自己資本比率61%という鉄壁の財務は、同社が大きな変革に挑む上での強力な武器となります。

✔外部環境
印刷業界は、デジタル化の進展による紙媒体の需要減少という、構造的な逆風に長年晒されています。これは同社にとって最大の脅威です。しかし、その一方で、Web広告やSNSマーケティングといったデジタルマーケティング市場は、今後も成長が見込まれる巨大なマーケットです。この成長市場へ、いかに事業の軸足を移していけるかが、同社の未来を左右します。

✔内部環境
最大の強みは、100年以上の歴史で築き上げた、出版業界における圧倒的な信頼と実績です。特に、コミック印刷などで培った大量・高品質・短納期を実現する生産能力は、他社が容易に模倣できない参入障壁となっています。そして、それを支えるのが、234億円もの莫大な利益剰余金に象徴される、盤石の財務基盤です。この財務体力があるからこそ、伝統的な印刷事業から、先行投資が必要なデジタル事業への大胆な転換を、時間をかけて進めることが可能なのです。

✔安全性分析
財務の安全性は「極めて高い」と断言できます。自己資本比率61.0%は、大規模な工場設備を保有する製造業として、驚異的な水準です。これは、長年にわたる黒字経営で、借入金に頼らない強固な経営基盤を築き上げてきたことを示しています。
当期の純利益が2,200万円と、売上規模に対して極めて小さいのは、おそらくデジタル事業への戦略的な先行投資や、既存の印刷事業の構造改革(工場の再編など)に多額の費用を投じているためと推察されます。目先の利益を犠牲にしてでも、未来のための変革を断行している、まさにその過渡期の姿と言えるでしょう。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・100年を超える歴史と、出版印刷分野における圧倒的な実績・信頼
・TOPPANグループとしての、総合的なソリューション提供能力とブランド力
自己資本比率61%を誇る、鉄壁の財務基盤
・コミック印刷などで培われた、高品質・大量生産を可能にする生産技術

弱み (Weaknesses)
・事業の収益構造が、長期的に縮小が見込まれる紙媒体市場に、いまだ大きく依存している点
・デジタルマーケティング分野における、専業のIT企業や広告代理店との競争

機会 (Opportunities)
・企業のDX化に伴う、デジタルマーケティング支援サービスの需要拡大
・印刷で培ったコンテンツ制作能力を、Webサイトや動画、電子書籍などへ展開する可能性
・TOPPANグループの他事業との連携による、新たなビジネスの創出

脅威 (Threats)
・ペーパーレス化の加速による、印刷市場のさらなる縮小
・原材料費(紙、インキなど)やエネルギーコストの継続的な高騰
・デジタルメディアの多様化による、消費者とのコミュニケーションの複雑化


【今後の戦略として想像すること】
大きな変革の只中にあるTOPPANクロレは、今後、その提供価値を「印刷」から「コミュニケーション」全体へと、さらにシフトさせていくでしょう。

✔短期的戦略
まずは、成長領域であるデジタルマーケティングサービスの体制強化と実績構築が最優先事項です。既存の印刷事業の顧客に対し、Webサイト制作やSNS運用といったデジタル施策を併せて提案することで、顧客との関係を深化させ、アップセル・クロスセルを図っていくと考えられます。

✔中長期的戦略
中長期的には、「印刷技術」と「デジタル技術」を高度に融合させた、新たなサービスの創出が期待されます。例えば、印刷物とWebサイト、動画コンテンツを連動させたクロスメディア戦略の企画・実行や、AIを活用したマーケティング分析サービスの提供などです。100年間培ってきた「伝える力」を武器に、顧客の事業成長に貢献する真のコミュニケーションパートナーへと進化していくでしょう。


【まとめ】
TOPPANクロレ株式会社は、明治から令和へと、4つの時代を通じて日本の出版文化と情報産業を支えてきた、歴史そのものとも言える企業です。その決算書は、100年以上の黒字経営が築き上げた、自己資本比率61%という驚異的な財務の安定性を示していました。

しかし、彼らはその輝かしい過去に安住することなく、デジタル化という大きな時代の変化に真正面から向き合い、印刷会社から「コミュニケーションをかたちづくる」企業へと、大胆な自己変革の真っ只中にいます。今期の利益の小ささは、その変革の痛みを伴う、未来への投資の証です。TOPPANグループの総合力を得て、この老舗企業が次にどんな「かたち」を創り出していくのか、その挑戦から目が離せません。


【企業情報】
企業名: TOPPANクロре株式会社
所在地: 東京都北区東十条三丁目10番36号
代表者: 代表取締役社長 岡沢 宏和
設立: 1943年3月17日(創業1911年)
資本金: 500百万円
株主: TOPPANホールディングス株式会社
事業内容: 情報デザイン事業(書籍・雑誌・コミックス等の出版印刷、カタログ等の商業印刷)、およびデジタルマーケティングサービス(Webサイト制作、SEO対策、SNS運用支援など)。

www.toppan-colorer.co.jp

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.