決算公告データ倉庫

決算公告を自分用に収集・コメントし保管する倉庫。あくまで自分用であり、引用する決算公告を除き内容の正確性/真実性を保証できない点はご容赦ください。

#3437 決算分析 : 郵船出光グリーンソリューションズ株式会社 第7期決算 当期純利益 19百万円

カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現――。今、世界中の国や企業が、この壮大な目標に向かって走り出しています。再生可能エネルギーの導入が注目を集める一方で、私たちの社会や産業を今まさに支えている火力発電所や大規模工場のエネルギー効率をいかにして向上させるか、という課題もまた極めて重要です。巨大なボイラーが消費する燃料を、もしAI(人工知能)の力で1%でも削減できれば、それは経済的なメリットだけでなく、地球環境にとっても計り知れない価値を持ちます。

今回は、日本のエネルギー業界と海運業界を代表する巨人、出光興産と日本郵船がタッグを組んで設立した、まさにグリーン・トランスフォーメーション(GX)時代の申し子とも言える企業、郵船出光グリーンソリューションズ株式会社の決算を読み解きます。AIでボイラーの燃焼を最適化するというユニークな技術で、省エネとCO2削減に挑む同社のビジネスモデルと今後の可能性に迫ります。

郵船出光グリーンソリューションズ決算

【決算ハイライト(第7期)】
資産合計: 314百万円 (約3.1億円)
負債合計: 244百万円 (約2.4億円)
純資産合計: 70百万円 (約0.7億円)

当期純利益: 19百万円 (約0.2億円)

自己資本比率: 約22.2%
利益剰余金: 40百万円 (約0.4億円)

【ひとこと】
設立7期目の若い技術開発型企業として、着実に当期純利益19百万円を確保しています。自己資本比率は約22.2%とやや低めですが、これは事業の成長と研究開発への投資を積極的に行っているフェーズであることを示唆しています。大手企業のジョイントベンチャーとして、未来への投資を行いながらも、黒字経営を実現している堅実な姿がうかがえます。

【企業概要】
社名: 郵船出光グリーンソリューションズ株式会社
設立: 2019年3月12日
株主: 出光興産株式会社、日本郵船株式会社、郵船商事株式会社
事業内容: AIを活用したボイラ燃料制御最適化システムの開発、販売、及びコンサルティング事業

nyk-idemitsu-gs.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
郵船出光グリーンソリューションズのビジネスは、日本の重厚長大産業が持つ深い知見と、最先端のAI技術を融合させた、極めて専門性の高いソリューションに集約されています。

✔中核製品:AIボイラ制御システム「ULTY-V plus AT」
同社の事業の心臓部が、AI搭載のボイラ燃料制御最適化システム「ULTY-V plus AT」です。これは、発電所や大規模工場などで稼働している既存の大型ボイラーに後付けで導入できるシステムです。ボイラーの燃焼状態は、燃料の品質や外気温、湿度など様々な要因で刻一刻と変化しますが、このシステムはAIを活用して燃焼状態を常に監視し、「自己計測」「自己分析」「自己判断」を繰り返すことで、燃料と空気に供給量をミリ単位で自動調整。人間では不可能なレベルで、常に最も効率的な燃焼状態を維持します。これにより、顧客企業は燃料使用量を削減(コスト削減)できると同時に、CO2排出量も削減(環境貢献)できるという、明確な価値を提供しています。

✔ビジネスモデル:ハードとソフトの融合
同社のビジネスは、単にシステムを販売するだけの「売り切り」モデルではありません。システムの販売・導入に加え、導入後の運用サポートや、顧客の課題に応じた「制御コンサルティング」、さらにはバイオマス燃料の混焼率を最適化する「BAIOMIX™」といった関連技術の開発も手掛けています。これにより、顧客との長期的な関係を築き、安定した収益基盤を構築するビジネスモデルとなっています。

✔最強の布陣:ジョイントベンチャーとしての強み
同社の最大の強みは、その成り立ちにあります。
・出光興産: 石油元売大手として、燃料の特性や燃焼技術に関する深い知見を提供。
日本郵船: 世界最大級の海運会社として、巨大なエンジン(船は浮かぶ発電所とも言われる)の運用ノウハウと、グローバルな視点での省エネ技術の知見を提供。
・郵船商事: 日本郵船グループの商社として、強力な販売ネットワークと商業的なノウハウを提供。
この異業種のトップ企業3社が持つ技術、ノウハウ、ネットワークを結集させている点こそが、他のスタートアップにはない、圧倒的な競争優位性の源泉です。


【財務状況等から見る経営戦略】
第7期の決算からは、大手企業の支援を受けながら、着実に事業を軌道に乗せつつある成長企業の姿が見て取れます。

✔外部環境
同社にとって、これ以上ないほどの強力な追い風が吹いています。世界的な脱炭素化の流れは、あらゆる産業にCO2排出削減を求めており、特にエネルギー多消費産業である発電所や工場にとって、省エネは最重要の経営課題です。また、近年のエネルギー価格の高騰は、燃料コストの削減を死活問題としており、同社の技術に対する需要を一層高めています。資源エネルギー庁長官賞やAsian Power Awardsといった権威ある賞の受賞も、技術的な信頼性を客観的に証明し、事業展開を後押ししています。

✔内部環境
大手3社によるジョイントベンチャーであるため、安定した経営基盤と資金的な支援、そして設立当初からの有力な顧客候補へのアクセスという、スタートアップとして理想的な環境を持っています。事業の核となるのはAIを用いた制御技術であり、一度開発すれば多くの顧客に展開可能なソフトウェアビジネスの側面も持ち合わせています。長崎にR&Dセンターを開設するなど、継続的な研究開発への投資も積極的に行っており、技術的な優位性を維持・強化していく姿勢が明確です。

✔安全性分析
自己資本比率22.2%という数値は、一般的な成熟企業と比較すれば低い水準ですが、設立7年目の研究開発型企業としては決して悲観的な数字ではありません。事業をスケールさせるための投資を、親会社からの支援を含む負債も活用しながら積極的に行っているフェーズと捉えられます。短期的な支払い能力を示す流動比率流動資産÷流動負債)は、約693%と極めて高い水準にあり、手元資金には十分な余裕があることがわかります。当期純利益を確保し、利益剰余金もプラスであることから、ビジネスモデルが既に収益を生み出す段階に入っていることが確認でき、経営の安定性は高いと言えます。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・出光興産、日本郵船、郵船商事という三大企業の強力なバックアップ(技術・資金・販売網)。
資源エネルギー庁長官賞などを受賞した、独自性の高いAI制御技術と明確な導入効果(コスト削減・CO2削減)。
・脱炭素化、エネルギー価格高騰という、強力な世界的トレンドに合致した事業内容。

弱み (Weaknesses)
・設立7年目と社歴が浅く、導入実績のさらなる積み重ねが必要な段階。
・事業がボイラー制御という特定技術に集中しており、代替となる革新的な省エネ技術が登場した場合のリスク。
自己資本比率が比較的低く、財務的な自立性をさらに高めていく必要がある。

機会 (Opportunities)
・国内外の工場・発電所という、極めて広大な潜在市場。
・AI制御のノウハウを、ボイラー以外の産業機械(タービン、コンプレッサー等)へ横展開する可能性。
・企業のGX(グリーン・トランスフォーメーション)投資の拡大。
コンサルティング事業の強化による、高付加価値なサービスへの展開。

脅威 (Threats)
・国内外の大手重電メーカーや制御システムメーカーとの競合。
・景気後退による、企業の設備投資意欲の減退。
・AI技術や制御システムの開発を担う、高度な専門人材の獲得競争。


【今後の戦略として想像すること】
確固たる技術基盤と強力な後ろ盾を持つ同社は、今後、国内での地盤固めと、グローバルな展開を視野に入れた戦略を進めていくと考えられます。

✔短期的戦略
まずは、国内市場での導入実績をさらに積み重ねることが最優先です。親会社である出光興産や日本郵船グループのネットワークを最大限に活用し、製油所や工場、船舶といった施設への導入を加速させるでしょう。堀場製作所との連携のように、他の技術を持つ企業とのアライアンスを通じてシステムの付加価値をさらに高め、顧客への訴求力を強化していくことも重要な戦略となります。

✔中長期的戦略
中長期的には、国内で確立したモデルを海外へ展開していくことが期待されます。特に、経済成長に伴いエネルギー需要が増加しているアジア地域の工場や発電所は、極めて有望な市場です. 親会社のグローバルネットワークを活かせば、スムーズな海外進出が可能です。また、ボイラー制御で培ったAIのコア技術をプラットフォーム化し、様々な産業機器のエネルギー効率を最適化する、より広範な「産業向けGXソリューションプロバイダー」へと進化していく可能性も秘めています。


【まとめ】
郵船出光グリーンソリューションズは、日本の伝統的な大企業が持つポテンシャルと、スタートアップの機動力を兼ね備えた、GX時代の新しい企業の形を提示しています。彼らは、全く新しいエネルギー源をゼロから生み出すのではなく、今ある巨大なエネルギー消費設備に「AIの知能」を授けることで、現実的かつ即効性のあるCO2削減を実現するという、極めて賢明なアプローチをとっています。

決算内容は、同社が成長への投資を行いながらも、既に事業を収益化する軌道に乗せていることを示しています。エネルギーと海運の巨人の肩に乗り、AIという翼を広げたこのグリーン・ベンチャーが、日本の、そして世界の工場の風景をどう変えていくのか。その挑戦から目が離せません。


【企業情報】
企業名: 郵船出光グリーンソリューションズ株式会社
所在地: 東京都品川区東品川二丁目2番20号 天王洲オーシャンスクエア9階
代表者: 代表取締役社長 梅原 慎史
設立: 2019年3月12日
資本金: 3,000万円
事業内容: AIを活用したボイラ燃料制御最適化システム「ULTY-V plus AT」等の開発・販売・コンサルティング事業を通じて、工場の省エネ・CO2削減を支援。
株主: 出光興産株式会社、日本郵船株式会社、郵船商事株式会社

nyk-idemitsu-gs.co.jp

©Copyright 2018- Kyosei Kiban Inc. All rights reserved.