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#2590 決算分析 : 東京理科大学イノベーション・キャピタル株式会社 第3期決算 当期純利益 ▲42百万円


大学の研究室では、日々、世界を変える可能性を秘めた革新的な技術が生まれています。しかし、その多くが研究室の中にとどまり、実用化に至らない――これは「死の谷(デスバレー)」とも呼ばれる、日本の長年の課題です。この「死の谷」に橋を架け、研究という「種」を、新産業という「花」へと育てる存在が、大学系ベンチャーキャピタル(VC)です。

今回は、日本有数の理系総合大学である東京理科大学を母体とし、宇宙、バイオ、AIといったディープテック領域のスタートアップに投資する、東京理科大学イノベーション・キャピタル株式会社の決算を読み解きます。VC特有の財務諸表から、未来のイノベーションを育てるビジネスモデルとその戦略に迫ります。

東京理科大学インベストメントアンドイノベーションキャピタル決算

【決算ハイライト(第3期)】
資産合計: 72百万円 (約0.7億円)
負債合計: 104百万円 (約1.0億円)
純資産合計: ▲33百万円 (約▲0.3億円)

当期純損失: 42百万円 (約0.4億円)

利益剰余金: ▲43百万円 (約▲0.4億円)

まず注目すべきは、純資産がマイナスの債務超過であり、当期も純損失を計上している点です。通常の事業会社であれば極めて厳しい状況ですが、これはベンチャーキャピタル(VC)の決算を読み解く上で非常に重要なポイントです。VCのビジネスは、投資先の価値がIPO(株式公開)などで顕在化するまで数年から10年を要します。それまでの期間は、人件費などの運営コストが先行するため、単年度の決算が赤字になるのは一般的です。この数字は、未来の大きなリターンに向けた「投資フェーズ」にあることを示しています。

企業概要
社名: 東京理科大学イノベーション・キャピタル株式会社
設立: 2018年11月
株主: 一般社団法人東京理科大学新事業創成基金
事業内容: 先進技術を持つ企業への投資・支援を行うベンチャーキャピタル事業

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【事業構造の徹底解剖】
同社の事業は、一般的な製品やサービスを販売するものではありません。「未来の可能性」に投資し、その成長を支援することで、最終的に大きなリターンを得ることを目的としています。

✔大学発・ディープテック特化の投資
同社の最大のミッションは、東京理科大学の研究成果や人材を基盤とした、あるいは関連する技術系スタートアップを発掘し、資金を提供することです。そのポートフォリオ(投資先一覧)には、小型衛星を開発する「アクセルスペース」、有人宇宙飛行を目指す「SPACE WALKER」、新規がん治療薬を開発する「FerroptoCure」など、日本の未来を担うディープテック(革新的科学技術)企業が並びます。

✔ハンズオン支援による企業価値向上
VCの役割は、お金を出すだけではありません。同社のチームは、金融や事業開発のプロフェッショナルで構成されており、投資先に対して経営戦略、財務、人材採用など、事業を成長させるためのあらゆる支援(ハンズオン支援)を行います。これにより、スタートアップの企業価値を最大化させることが、同社の重要な役割です。

✔イグジット(IPOM&A)によるリターン創出
VCのビジネスモデルの最終ゴールは、投資先企業がIPO(新規株式公開)をしたり、大手企業にM&A(合併・買収)されたりする「イグジット」の際に、保有する株式を売却して利益を得ることです。同社は既に、投資先である「GMOサイバーセキュリティ byイエラエ」のIPOなどの実績を上げており、このサイクルを回していくことが事業の根幹となります。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
政府は、経済成長の新たな担い手としてスタートアップ支援を強力に推進しており、特に大学発ベンチャーやディープテック分野への資金供給を後押ししています。これは、同社のような大学系VCにとって、非常に良好な事業環境(追い風)と言えます。大企業によるオープンイノベーションの機運の高まりも、投資先の成長機会やイグジットの可能性を広げています。

✔内部環境
同社の最大の内部資産は、「東京理科大学」という強力なブランドと、そこから生まれる最先端の技術シーズ(研究成果)へのアクセスです。他のVCが容易にはリーチできない、質の高い投資案件の源泉をすぐそばに持っていることが、最大の競争優位性です。ビジネスモデルの性質上、投資からリターン回収までの期間が長く、短期的な収益性は低くなりますが、成功した際のアップサイドは非常に大きい、ハイリスク・ハイリターンな事業です。

✔安全性分析
貸借対照表上、債務超過という状況は、通常の物差しで測れば「危険」です。しかし、これはVCの財務を正しく理解していません。同社の負債は、主にファンド運営に伴う経費などであり、金融機関からの借入とは性質が異なります。そして、資産の部に計上されている数字(72百万円)は、投資先の現在の「簿価」であり、その将来的な価値(ポテンシャル)を反映していません。同社の真の価値と安全性は、この貸借対照表の外にある「ポートフォリオ企業の将来価値」と、母体である「東京理科大学新事業創成基金」の存在によって担保されています。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
東京理科大学という、質の高い技術シーズへの圧倒的なアクセス
・金融と技術の知見を併せ持つ、経験豊富な専門家チーム
・宇宙、バイオなど、将来性の高いディープテック領域への投資ポートフォリオ

弱み (Weaknesses)
・単年度の決算では事業の成否が判断できず、外部から評価されにくい
・投資回収までに長い年月を要する、長期的なビジネスモデル

機会 (Opportunities)
・政府によるスタートアップ支援強化の流れ
・大企業によるスタートアップとの連携(オープンイノベーション)の活発化
・投資先の成功による、大きなキャピタルゲインの獲得

脅威 (Threats)
・景気後退による、スタートアップの資金調達環境の悪化やイグジット市場の停滞
・投資先の事業失敗リスク(スタートアップの成功確率は一般的に低い)
・他のVCとの、有望なスタートアップへの投資機会獲得競争


【今後の戦略として想像すること】
未来のユニコーン企業を育てるため、以下の戦略が考えられます。

✔短期的戦略
引き続き、東京理科大学の研究室や卒業生のネットワークを深く掘り起こし、次世代の有望な投資先を発掘し続けることが最重要ミッションです。同時に、既存の投資先企業に対して、事業が計画通りに進むよう、ハンズオン支援をさらに強化し、企業価値を着実に高めていくことが求められます。

✔中長期的戦略
ポートフォリオの中から、次のIPOM&Aを実現させることが大きな目標となります。成功事例を積み重ねることで、ファンドとしての実績とブランドを確立し、それがまた優秀な起業家を惹きつけるという好循環を生み出します。そして、成功によって得られたリターンを元に、次なるファンドを組成し、さらに大きな規模で大学発イノベーションの創出を支援していくことが期待されます。


【まとめ】
東京理科大学イノベーション・キャピタルは、一般的な意味での「会社」というより、大学の研究成果という「知の資産」を、社会を豊かにする「事業」へと転換させるための触媒(カタリスト)です。その財務諸表に表れる赤字は、失敗の証ではなく、未来の大きな果実を実らせるための「種まき」と「育成」のコストです。彼らの真の資産は、貸借対照表には載らない、投資先スタートアップの持つ無限の可能性そのものです。日本の未来を創るイノベーションの揺りかごとして、その活動から目が離せません。


【企業情報】
企業名: 東京理科大学イノベーション・キャピタル株式会社
所在地: 東京都新宿区神楽坂一丁目3番地
代表者: 代表取締役 片寄 裕市、代表取締役 髙田 久徳
設立: 2018年11月
資本金: 1,000万円
事業内容: 先進技術の開発、新サービスを導入する企業への投資・支援
株主: 一般社団法人東京理科大学新事業創成基金

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