医療費の抑制が国家的な課題となる中、私たちの医療に欠かせない存在となった「ジェネリック医薬品」。新薬と同じ有効成分を持ちながら、より安価に提供されることで、患者負担の軽減や医療保険財政の健全化に大きく貢献しています。このジェネリック医薬品市場において、全国に調剤薬局を展開する日本調剤グループの一員として、ユニークな強みを発揮する企業があります。それが日本ジェネリック株式会社です。薬を使う患者や薬剤師の声を直接製品開発に活かすという、他に類を見ないビジネスモデルはどのように成り立っているのでしょうか。
今回は、調剤薬局発の製薬企業、日本ジェネリック株式会社の決算を読み解き、そのビジネスモデルや戦略をみていきます。

【決算ハイライト(21期)】
資産合計: 62,557百万円 (約625.6億円)
負債合計: 52,713百万円 (約527.1億円)
純資産合計: 9,843百万円 (約98.4億円)
売上高: 37,712百万円 (約377.1億円)
当期純利益: 843百万円 (約8.4億円)
自己資本比率: 約15.7%
利益剰余金: 7,343百万円 (約73.4億円)
第21期の決算は、売上高が約377.1億円と、ジェネリック医薬品メーカーとしての確固たる事業規模を示しています。当期純利益も843百万円と安定した収益を上げています。一方で、自己資本比率は約15.7%と、製造業としてはやや低めの水準です。これは、国内最大級の生産能力を誇るつくば工場群など、高品質な医薬品の安定供給体制を構築するための大規模な設備投資を、借入金を活用して積極的に行ってきた結果と考えられます。親会社である日本調剤の強力なバックボーンのもと、戦略的な財務運営を行っている様子がうかがえます。
企業概要
社名: 日本ジェネリック株式会社
設立: 2005年1月5日
株主: 日本調剤株式会社(100%)
事業内容: ジェネリック医薬品の研究開発、製造、販売
【事業構造の徹底解剖】
日本ジェネリックの事業は、ジェネリック医薬品の研究開発から製造、販売までを一貫して手掛ける垂直統合型の製薬事業です。特に、親会社である日本調剤との強固な連携が、他にない独自の強みを生み出しています。
✔研究開発
つくば研究所を拠点に、ジェネリック医薬品の開発を行っています。同社の研究開発がユニークなのは、親会社である日本調剤の薬局網を通じて、日々薬を扱う薬剤師や実際に使用する患者からの「生の声」をダイレクトに収集できる点です。「錠剤が飲みにくい」「薬の識別のための刻印が見えづらい」といった、従来の製薬メーカーでは拾いきれなかった細かなニーズを製品改良に活かし、付加価値の高いジェネリッ医薬品を開発しています。
✔生産体制
茨城県つくば市に、ジェネリック医薬品の工場としては国内最大級の規模を誇る「つくば工場」と「つくば第二工場」を有しています。GMP(医薬品の製造管理及び品質管理の基準)に準拠した最新鋭の設備と徹底した品質管理体制のもと、400品目を超える医薬品の安定供給を支えています。近年、医薬品の供給不安が社会問題となる中、この大規模な国内生産基盤は大きな強みです。
✔販売・流通・情報提供
全国8支店と3つの物流センターを拠点に、製造した医薬品を全国の医療機関や薬局へ届けています。単に製品を供給するだけでなく、医薬品の適正使用に関する情報提供や、安全管理にも注力し、医療現場からの信頼を獲得しています。
【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
日本の医療制度において、政府は医療費抑制のためにジェネリック医薬品の使用を強力に推進しており、市場は拡大基調にあります。しかし、それに伴いメーカー間の競争も激化しています。近年では、一部メーカーの品質問題に端を発した医薬品の供給不安が大きな社会問題となり、価格の安さだけでなく、「品質」と「安定供給能力」がこれまで以上に重視されるようになっています。
✔内部環境
同社の最大の強みは、日本調剤グループとしてのシナジーです。薬局現場のニーズを的確に捉えた製品開発力は、他社との明確な差別化要因となっています。また、大規模な自社工場を持つことで、品質と供給の安定性を自社でコントロールできる点も、現在の市場環境において非常に有利です。一方で、巨大な工場設備は多額の固定費を生むため、高い稼働率を維持してスケールメリットを追求することが収益性の鍵となります。
✔安全性分析
自己資本比率が約15.7%と低めなのは、大規模工場への先行投資を有利子負債で賄ってきたためと推察されます。総資産約625.6億円に対し、負債が約527.1億円と大きな割合を占めるレバレッジを効かせた経営と言えます。しかし、事業は安定した黒字を確保しており、利益剰余金も約73.4億円と着実に内部留保を積み上げています。また、100%親会社である日本調剤という強力な後ろ盾があるため、財務的な安定性は確保されていると評価できます。
【SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・日本調剤グループとのシナジーによる、医療現場のニーズを反映した製品開発力
・国内最大級の生産能力を誇る自社工場群による、高い品質と安定供給能力
・研究開発から製造、販売までを一貫して手掛ける垂直統合モデル
・「日本調剤」ブランドの一員としての高い信頼性
弱み (Weaknesses)
・自己資本比率が低く、財務レバレッジが高い
・ジェネリック医薬品の薬価は定期的に引き下げられるため、常にコスト削減圧力がかかる
機会 (Opportunities)
・政府によるジェネリック医薬品の使用促進策の継続
・医薬品の安定供給への社会的な要請の高まり
・M&A(長生堂製薬の子会社化など)による製品ポートフォリオの拡充
脅威 (Threats)
・ジェネリック医薬品メーカー間の価格競争の激化
・新薬の特許期間の延長など、ジェネリック市場の参入機会に影響を与える外部要因
・薬価の大幅な引き下げ
【今後の戦略として想像すること】
日本ジェネリックは、今後も「品質」と「現場ニーズ」を軸に、事業を拡大していくと考えられます。
✔短期的戦略
医薬品の安定供給に対する社会からの信頼をさらに高めるため、生産体制の効率化と品質管理の強化を継続するでしょう。同時に、日本調剤の薬局網から得られる情報を最大限に活用し、競合他社にはない付加価値を持つ製品を市場に投入することで、シェア拡大を目指します。
✔中長期的戦略
オーソライズド・ジェネリック(AG)やバイオシミラーなど、より付加価値の高いジェネリック医薬品分野への展開を強化していく可能性があります。また、子会社化した長生堂製薬との連携を深め、生産品目の最適化や開発力の強化を図ることも考えられます。国内で培った「現場起点の開発・製造ノウハウ」を武器に、将来的には海外市場への展開も視野に入ってくるかもしれません。
【まとめ】
日本ジェネリック株式会社は、単なるジェネリック医薬品メーカーではありません。それは、日本最大級の調剤薬局グループが持つ「医療現場の知見」を、ものづくりの力で形にする、製販一体のユニークな企業です。財務的には積極的な設備投資を行っていますが、その背景には、品質と安定供給こそが最も重要であるという強い意志が感じられます。
医薬品の信頼性が問われる今、同社が持つ「現場との繋がり」と「大規模な国内生産基盤」は、他社にはない強力な競争優位性です。これからも、患者や医療従事者に寄り添った製品を提供し続け、日本の医療を足元から支える重要な役割を担っていくことが期待されます。
【企業情報】
企業名: 日本ジェネリック株式会社
所在地: 東京都港区芝5-33-11 田町タワー8階
代表者: 代表取締役社長 井上 祐弘
設立: 2005年1月5日
資本金: 1,255,000,000円
事業内容: ジェネリック医薬品の研究開発、製造、販売
株主: 日本調剤株式会社(100%)