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#3397 決算分析 : 株式会社大崎総合研究所 第43期決算 当期純利益 12百万円

地震大国、日本。私たちが超高層ビルや巨大な橋、そして原子力発電所といった重要インフラのもとで安心して暮らせる背景には、それらが想定しうる最大級の自然災害にも耐えうるよう、極めて高度な計算と解析に基づいて設計されているという事実があります。この国の「安全」の根幹を、アカデミア最高峰の知見と数理解析の力で支える、まさに「知のプロフェッショナル集団」が存在します。

今回は、日本の耐震工学の権威・大崎順彦博士が創設した、建設・エンジニアリング分野のシンクタンク、株式会社大崎総合研究所の決算を読み解き、その社会的役割と、驚異的ともいえる盤石の経営基盤に迫ります。

大崎総合研究所決算

【決算ハイライト(第43期)】
資産合計: 1,704百万円 (約17.0億円)
負債合計: 77百万円 (約0.8億円)
純資産合計: 1,628百万円 (約16.3億円)
当期純利益: 12百万円 (約0.1億円)
自己資本比率: 約95.5%
利益剰余金: 1,618百万円 (約16.2億円)

【ひとこと】
まず目を引くのは、自己資本比率95.5%という鉄壁の財務基盤です。実質的な無借金経営であり、資本金1,000万円に対し、その160倍以上もの利益剰余金を蓄積。知的集約型ビジネスの究極の姿とも言える、驚異的な経営安定性を誇っています。当期利益は一見控えめですが、これは利益追求よりも研究開発を優先する、シンクタンクならではの経営姿勢を反映したものです。

【企業概要】
社名: 株式会社大崎総合研究所
設立: 1982年
事業内容: 日本の耐震工学の権威・大崎順彦博士が創設した、建設・エンジニアリング分野のシンクタンク。特に原子力施設、その他特殊構造物の構造解析、設計、およびコンサルティングに強みを持ち、国の重要プロジェクトにも数多く参画する。

www.ohsaki.co.jp


【事業構造の徹底解剖】
同社は、創業者である大崎順彦博士(元東京大学教授・元清水建設副社長)の遺志を継ぐ「数理解析のシンクタンク」として、日本の安全保障に直結する極めて高度なコンサルティング事業を展開しています。

原子力施設の安全解析・コンサルティング(核心的事業)
同社の事業の中核であり、最も高い専門性が求められる分野です。原子力発電所をはじめとする重要施設が、M9クラスの海溝型巨大地震や、それに伴う津波といった極端な自然災害に対して、いかに安全性を保てるかを、最新のコンピュータシミュレーション技術(構造解析)を駆使して評価・検証します。原子力規制庁からの委託事業も手掛けるなど、国の厳格な安全基準を満たすための設計支援やコンサルティングを行う、極めて社会的責任の重い役割を担っています。

✔先端技術領域の研究開発(未来への投資)
同社は、単に既存の技術でコンサルティングを行うだけでなく、常に日本の建設・エンジニアリング技術の未来を創造する研究開発活動を行っています。京都大学や大手ゼネコンである清水建設との産学共同研究では、「レジリエンス(災害からのしなやかな回復力)」と「サステナビリティ(平時の持続可能性)」を統合した、次世代の建物性能評価法の体系化に取り組んでいます。また、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)にも参画し、地域インフラの最適なマネジメント技術の研究開発を担うなど、国家レベルの知的ブレインとして活動しています。

✔建築設計・ソフトウェア開発(知見の具現化)
長年の研究で培った高度な知見を活かし、実際の建築物の設計や工事監理も手掛けています。さらに、複雑な構造解析を行うための専用ソフトウェアを自社で開発・提供しており、その卓越した技術力を具体的なツールとして社会に還元しています。


【財務状況等から見る経営戦略】
✔外部環境
2011年の東日本大震災以降、原子力施設の安全性に対する社会の要求レベルは格段に高まり、より高度で精密な解析技術を持つ同社へのニーズは、継続的に安定して存在しています。また、近年頻発する自然災害を受け、政府が推進する「国土強靭化計画」や、高度経済成長期に建設されたインフラの老朽化対策、そして世界的な潮流であるサステナビリティへの関心の高まりも、同社の事業機会を大きく広げています。

✔内部環境
当期純利益は12百万円と、その巨大な純資産に比して控えめな水準です。これは、同社が利益の最大化を第一の目的とする組織ではないことを示しています。最大の資産は、博士号取得者34名をはじめとする「世界トップクラスの頭脳」であり、その研究員たちの人件費がコストの大半を占めていると推測されます。得られた収益は、新たな研究開発や、優秀な人材の確保・育成に再投資され、知的資本をさらに厚くすることに繋がっています。自己資本比率95.5%という鉄壁の財務基盤が、いかなる外部環境の変化にも左右されることなく、長期的視点での研究活動に集中できる理想的な環境を担保しています。

✔安全性分析
財務の安全性は「最高レベルに高い」と断言できます。総資産約17億円のうち、返済義務のある負債はわずか0.8億円弱。実質的な無借金経営です。短期的な支払い能力を示す流動比率流動資産÷流動負債)も約4,346%(16.9億円 ÷ 0.39億円)と、驚異的な水準にあります。企業の継続性に対する財務的なリスクは皆無に等しく、その知的資本がそのまま純資産へと転化している、理想的なバランスシートと言えます。


SWOT分析で見る事業環境】
強み (Strengths)
・創業者・大崎順彦博士から続く、耐震工学分野における日本の最高権威としての圧倒的なブランド力
・博士号取得者34名を擁する、国内最高峰の頭脳集団と、その卓越した解析技術力
自己資本比率95.5%という、他に類を見ない鉄壁の財務基盤
原子力施設の安全解析など、参入障壁が極めて高く、代替の利かない専門領域での豊富な実績

弱み (Weaknesses)
・事業の成長が、採用・育成に長い時間を要する、トップレベルの研究者の数に大きく依存する点
・極めてニッチで専門的な市場に特化しているため、事業規模の急激な拡大は本質的に難しい

機会 (Opportunities)
・国土強靭化計画や、橋梁・トンネルといった社会インフラの老朽化対策に伴う、高度な解析・コンサルティング需要の増加
レジリエンスサステナビリティといった、新たな社会ニーズの出現と、それを評価する新技術市場の創出
・防災・減災分野における、AIや高度なシミュレーション技術の活用範囲の拡大

脅威 (Threats)
・国内の原子力政策の大きな変更による、関連研究・コンサルティング市場が縮小するリスク
・同社の知見を支える、ベテラン研究者の高齢化と、次世代への高度な技術継承の課題


【今後の戦略として想像すること】
「核心技術の深化」と「応用分野の拡大」を両輪で進め、その社会的役割をさらに広げていくことが予想されます。

✔短期的戦略
引き続き、原子力規制庁からの委託事業や、電力会社・鉄道会社といった主要顧客との契約を安定的に継続し、収益と研究の基盤を維持します。現在進行中の京都大学内閣府との共同研究プロジェクトで着実に成果を出し、日本の防災・減災技術の発展に貢献するとともに、新たな技術シーズを創出していくでしょう。

✔中長期的戦略
原子力分野で培った世界最高レベルの解析技術を、他の最先端分野へと横展開していくことが期待されます。例えば、今後の建設が期待される洋上風力発電施設や、水素・アンモニアといった次世代エネルギー関連施設、そして大規模データセンターなど、新たに生まれる重要インフラの耐震・耐風設計・コンサルティングは、まさに同社の技術が活きる領域です。また、レジリエンスサステナビリティに関する研究を事業化し、一般企業のBCP(事業継続計画)策定支援や、ESG投資における不動産の価値評価といった、新たなコンサルティングサービスを立ち上げる可能性も秘めています。


【まとめ】
株式会社大崎総合研究所は、単なる建設コンサルタントではありません。それは、日本の耐震工学の父とも言える大崎順彦博士の遺志を継ぎ、数学と物理学を武器に、原子力発電所をはじめとする国家の重要インフラの安全を、その知性で守り続ける「知の守護神」です。自己資本比率95.5%という驚異的な財務基盤は、何よりも「信頼」が求められるこの事業において、絶対的な安定性の証となっています。これからも、日本の、そして世界の安全・安心な社会基盤を、その卓越した頭脳で支え続けることが期待されます。


【企業情報】
企業名: 株式会社大崎総合研究所
所在地: 東京都千代田区内幸町二丁目2番2号 富国生命ビル
代表者: 野澤 剛二郎
設立: 1982年11月1日
資本金: 1,000万円
事業内容: 原子力施設その他特殊構造物の構造解析、設計及びコンサルティング業務。建設及びエンジニアリングに関する先端技術領域の調査、研究及びコンサルティング業務。コンピューターによる情報処理サービス及びソフトウェアの開発。経済、社会、産業分野等に関する調査、研究及びコンサルティング業務。建築物の設計、工事管理業務。

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